十字軍②
「――と、いう動きがあるんですよ」
「ははは! そりゃあいい! アタシのお墨付きを挙げようじゃないか!!」
新生十字軍の活動をアズから聞いた魔女は、その話が面白くて仕方がないと言った風に大笑いした。
魔女にしてみれば、人が自分の側から関わりを断つというならそれはそれで構わないことだし、森にさえ被害を出さないようならむしろ推奨すべきであるとすら言える。
ただ、完全に関わりを断った場合、十年二十年後に魔女の存在を疑った愚か者が森に何か仕掛けてくるという可能性が非常に高い為、本当に関係を断つべきであるとは思っていなかったが。
五百年を生きる魔女にしてみれば、移ろいゆく人の世は非常に不安定で。やりたくはなくともある程度魔女の側から刺激を与え続けなければいけないのだ。
魔女はそうやって、これまで森を維持してきたのだ。
「ま、そいつらがどこまで頑張ってくれるかは知らないけどね。
そうだねぇ。アタシは森に手出ししないなら、そいつらに何もしないと断言してやるよ。
アタシは売られたケンカなら買うけど、自分からケンカを吹っ掛けることはしたくないからね」
魔女は新生十字軍の活動に思うところは無いと、普通に魔女と関わらない政治を目指すのであれば何もしないと言い切った。
余計なちょっかいをかけてきそうであれば対処するという言い方もできるが、それはいつも通りの話だ
つまり、平常運転である。
アズは一瞬、「ちょっかいをかけるように煽ったじゃないか」と弟子入志願者の時のことを思い出したが、彼のようにわざわざ森までやってきて魔女にケンカを売るような真似をしない限り、魔女は動かないだろうと自分を納得させる。
それに、アレはアレな人物であった為、問題行為を加速させただけで、魔女に大きな罪は無いと言える。……言える、はずだ。
アズは「ケンカを売りに行かない」と言っている魔女を刺激しないよう、その場は軽く流す事にした。
「魔女本人の公認組織となるとは、な。
意外、と言うほどでも無いか。聞き及んだ限りの魔女の情報を鑑みれば」
魔女は彼等、新生十字軍に手出ししない。
この情報はネットによって拡散され、マスコミによりアズ外交官が保証している事も伝わり、確かな話として世界中に伝わった。
当の十字軍のメンバーは、魔女の公認を受けたことに憤りを感じつつも、受け取った実益に苦い顔をする。
十字軍が魔女と敵対関係に無いのなら、と、支援者の数が増えたのだ。
反魔女を掲げる組織としては複雑だが、有益であることは明白だ。ここで利益を捨てるほど、この場にいる政治家達は間抜けでは無い。
節操がないように思われるが、優秀な政治家は、時に敵対者からも利益を引き出すものなのだ。
ただ、ここで打ち込まれた楔が、彼等を破滅させることになる。
たまには魔女もやらかすのだった。




