十字軍①
サウノリアをはじめとしたシーナ大央国と付き合いのあった国々は、共和党を排除した後の準備をしようとしていた。
ただ魔女が殺すだけでは混乱する、そういった配慮ができる人間はそれなりの数が居て、大央国への配慮のついでに自国の影響を増やしたいと思っていたからだ。
それも、魔女の動きが速すぎた事で計画は暗礁に乗り上げるどころか出港すらままならなかった。
そうなると彼らは魔女の行動が面白くない。
魔女排斥とまでは行かずとも、魔女の行動を掣肘すべく、まずは民意を反魔女に持って行くように誘導しようとするが。
「……魔女を恐れ、ネットですら声を上げられないとは」
国連とは別の、魔女を面白く思わない複数の国の政治家達。
彼らは「新生十字軍」を名乗り、国境を越えて協力体制を取り付けていた。
そして活動を始めるものの、思うように行かない現実に頭を抱えていた。
彼らは「白の守護者」の失敗をテロに頼った事であると認識していたので、政治の場のみに戦いを限定すれば大事にはならない事を学習していた。
反魔女を掲げる事を、魔女本人は認めている。
ただし魔女の名前を使った何か悪事を行えば制裁を加えに来る。
逆を言えば、森に手を出さず魔女に頼らない体制を作ろうとする分には、魔女本人と連携すら出来るのではないかという目論みもあった。
事実、彼らは公式に反魔女を掲げているにもかかわらず、未だに無事である。
彼らの考えは正しく、命を張ってそれを証明したのだから、周囲の賞賛はもう少しあって良いはずと、本人らは真剣にそう考えていた。
だと言うのに、賛同者があまりにも少ない。
「我が国はもうすぐ選挙があるのだが……反魔女を掲げてから、支持者が離れて行ってしまった。
申し訳ないが、これ以上の協力は難しいかもしれん」
ある国の政治家は、公的に反魔女を掲げた為に有権者から見捨てられた。
「こちらはまだマシだ。「魔女と距離を置き、付き合いを最小限にすることこそ、国民主権の国家運営に必要な条件である」と言う言い方をしていたからな。
十字軍に所属しているマイナスはあるが、国家運営に魔女は必要ないという分には賛同者も多い」
「それは日和見が過ぎないか? あの魔女は世界平和に必要ないどころか、害悪だ。それを民衆に説くことこそ、政治家に必要な資質であろう。
少なくとも、あの魔女が国の代表を名乗り交渉の場に出てこられない以上は、野生の熊か何かのような野生動物に近い災害だ。駆除は不可能だが、人と同じように扱い、人権を認める必要だって無いんだぞ。
魔女を利用できる、などと勘違いした政治屋どもを排除し、国政を正さねばならん時が来ているのだ!」
「その為に必要な手を打っているのだ! 性急に事を進め、失敗しては何の意味も無い!」
別の政治家は反魔女と言っても、外国に頼りすぎては自国の産業が駄目になる事を例に挙げ、魔女と距離を置こうと主張し、民衆から受け入れられていた。
民衆が、魔女が人を殺す生き物だと理解し始めていたこともあり、こういった柔らかい表現をすれば、その言葉の真意はともかく、人々が受け入れられるだけの濃さになっている。
成功例があるならそれを踏襲することは珍しくないのだが、自分の所属する集団を「マイナス」扱いされた事で別の政治家が強く反発し、拒絶してしまう。
場の雰囲気が悪くなると後に続くことが難しくなり、より良い一手が打ちにくくなった。
彼等の理想は果てしなく遠かった。
この「新生十字軍」、できたばかりということもあり、温度差が大きく、集団としてのまとまりに欠けていた。魔女に対する感情も「反感」「嫌悪」「恐怖」と様々なことがまとまりを欠く理由でもあった。
「反魔女」というスローガンは共通だが、その目指すところや手段は調整が必要なのである。
それをどうにかするのが、政治家に求められる本来の役割なのだが。
せっかくできた新組織も、結局はシーナ大央国と同じく分裂し、小競り合いをするハメになるのであった。




