秘薬騒動・アフター
「この戦争を収める為の案が、何か無いでしょうか?」
「ずいぶん欲張りな話だね、アズ坊や。アタシにできる事と言えば、力で押さえつける事だけだよ。他を当たりな」
サウノリアの隣国、シーナ大央国が小国に分裂して内戦状態に陥った。
2つ分の政党を構成する人員が殺され消えたのだから、それだけ政治家が不足する事になる。
「政治家なんて誰でも同じ。替わりの人間なんていくらでもいる」と言う事はない。大粒だった政治家が一度にこれだけ消えれば残りは小粒でしかなく、大国だった大央国をまとめ上げるカリスマを持った指導者がいなかった。
大国にはそれ相応の指導者が必要であり、殺された彼らは人格的に問題があろうと国の運営にちょっとの支障があっても、総合的には役者不足ではなかったと言う事だ。
いや、まともな引き継ぎが無い状態で新しく誰かが国をまとめ上げようとするなら、要求される能力は平時のそれを大幅に上回るだろう。
小粒だからとかカリスマが足りないとか言う以前に、テロリストにクーデターを起こされた時点で色々と詰んでいたのだ。
そんな状態であれば国が分裂して争うのは必定であり、この内乱は予定調和と言っていい。
それを分かっていて「白の守護者だから」と殺した魔女に罪悪感はなく、逆に彼女はこうなる事が本当に分かっていなかったのかとアズ外交官を責めるのだった。
残念ながら、当時のアズ外交官は考える時間的余裕の無いところで決断を迫られた事に加え、民意を問うのだからと言われ責任を負わずに済むだろう安堵もあり、正常な思考ができていなかった。
焦りと思考誘導により安易な道に逃げ込んだ結果がこれだ。
最終的な決断をしたのは世界中の一般人であったが、最初に魔女から話を持ち込んだアズの肩身はずいぶん狭くなっていた。
直接アズを責める勇者はいなかったが、どこか咎める視線を無言で向けられ、今の彼はずいぶん憔悴している。
本当に、藁にでも縋りたい気分なのだ。
ここまではっちゃけた魔女であるが、意外な事に評判はあまり下がっていない。
シーナ大央国の評判が悪かったため、むしろ他国の政治家の中には助かったと公言する者が居るほどだ。
近年、シーナ大央国は海洋進出を行っており、隣国とは小競り合いをしていた。
他にも経済的な鎖で多くの国から重要な土地を得ており、移民政策と合わせてしまえば、シーナ大央国は「軍事」「経済」「民族(文化)」の侵略者であると言えた。
そんな彼らの不幸は、押さえつけられていた者にとって福音に映ったのである。
ただ、サウノリアはシーナ大央国に経済的依存をしている部分があり、他にも鉄道で繋がった、大央国が経済進出をしていた国家などがかなりの被害を受けている。
企業の方も支社を置いていたらそこが襲撃されるという事件が起きており、魔女を批判する声も小さくない。
賛否両論。やや賛成に傾いている。
魔女の評価はその様に変化した。
今回の一連の流れは、発生が「魔女お手製の飲み薬」であった事から、「魔女の秘薬騒動」と名付けられ、その後も語り継がれる事になる。
なお、教訓として「安易に魔女を頼ってはいけない」という話が政治家達の間に流れたとか流れなかったとか。
さすがに歴史の教科書に、そんな話は載らなかったようである。




