秘薬騒動⑧/白の守護者③
多くの人命が失われ、テロ組織『白の守護者』へ怒りが溜まる一方、魔女への不満も溜まっていく。
「魔女は彼らへ直接制裁を」そんなつぶやきがネットに流れる。
そのつぶやきには「いいね」「グッド」「そう思う」といった、同じ気持ちだが呟くのが怖い人たちからも賛同の意が集まる。
魔女に動いて欲しいというのは、世界中の国々、そのほとんどでは「民意」であると言えた。
「アズ坊や。国が落ちたけど、そこはどうするんだい?」
「難しい、です。戦争を仕掛けるに足る証拠が無ければ、さすがに動けません」
白の守護者は、世界中の各地で刈り取られていった。
しかしたった一国だけクーデターを許してしまい、手出しが出来なくなってしまった。
シーナ大央国。
サウノリアと同じ、魔女の森に面した国であった。
この国では意外とと言うか順当と言うべきか、魔女は相当嫌われていたようである。
大国だからと油断があったのか、一党独裁という中央集権が不味かったのか。陸軍だけだが軍部が掌握されていたため、親魔女派の前政権はあっさりと皆殺しにされた。
そうして国の指導者が『白の守護者』となってしまったのだ。
こうなると、ただの情報提供だけではどうにもならない。
魔女が直接手を下さねば、“戦争”と“革命返し”以外の解決策がなくなってしまう。
状況を打破するまでに、さらに多くの人命が失われるだろう。
アズはその忍耐力で口にこそ出さないが、魔女に動いて欲しいと思っていて、どうにかならないのかという希望が視線に浮かんでしまう。
魔女はそれを見逃さなかった。
「なぁ、坊や」
魔女はあえてアズの名を使わず、「坊や」と彼を呼んだ。
「世間の連中は何と言っている?
お隣がテロリストに占拠され、大勢死んだ。これからもまた、大勢死ぬだろうね。このままなら」
どこか含みを持たせた言い回し。
アズはそこに気が付けず、ただ嘘偽りなく「周囲の話」をする。
「魔女様に動いて欲しい、という意見が多いですね。
ああ、私たちはそれが出来ない事を承知しています。出来るのであれば、普段からそのように動いているでしょうから」
「我々は魔女にはできないと理解しているが」「周囲は魔女に動いて欲しい」と、正直に。己の欲求でもあった、魔女の望む答えを告げた。
ヒヒッ、と魔女は口の中だけで嗤う。
「なら、さ。新しい契約を望むかい?
この状況を打破するための、新しいルールを」




