秘薬騒動⑤
結局、サウノリアは折れなかった。
国連で何かやらかしても代表は交代するだけ、政治家として終わるだけで済むが、魔女と敵対した場合、下手をすれば死ぬ。
命の危機と対外的な評価。
天秤に乗せて比べるまでもなかった。
ただし皮肉な事に、魔女側に付き毅然と国連の決定に逆らう姿勢を見せたサウノリアの代表は、いくつものメディアでも称賛されることになり大きく評価を上げることになるのだった。
その頃からいくつもの国の代表者などが不審死をする事件が相次いだ。
同時に、「自分は魔女から警告を受けた」と告白し、懺悔する者も現れる。
「許してくれ……私はまだ死にたくない」
とある国の大統領が死んだ。
サウノリアから遠く離れた海の向こうの国である。
そして副大統領は大統領の死を「魔女に手を出した報いである」と説明した。
「サウノリアの外交官を拉致し、人質にして魔女に言う事を聞かせようという計画だった。
森に手を出さなければ大丈夫だろうと命令を下し――すぐに警告が来た」
「私は大統領に計画の中止を進言したが大統領は取り合わず、大統領は魔女に殺された」
「私は魔女の恐ろしさを忘れていた。魔女に手を出してはいけなかったのだ」
百年前の悪夢の再臨だ。
大戦中、森に基地を作ろうとした国々の代表が一斉に死んだときの焼き直しである。
メディアは「魔女の呪い」と称し、世界中が大騒ぎになった。
心理学の専門家は語る。
「警告されても、目の前で銃を突きつけられているわけではありません。
彼らは警告を受けた事は理解できても、それで即、殺されるという認識が無かったのでしょう。
目に見えないものは信用しない。物理的に目を塞ぐなどの手段を絡めない限り、警告を本気と取れないのでしょう」
この専門家は、魔女に注文を付ける。
「殺すぞ、と言葉で脅すだけでなく、視界を奪いつつ警告を発するようにお願いしたいですね。
視界を奪われる、それだけでも警告の重さはずいぶん変わるでしょうから」
命を奪う前に視界を奪って、と。
そうすれば殺さずに済みますよ、と。
警告を出すという事は、不要な殺しを好まないという事だ。
どうせなら、もっと効果のある「説得」をするように魔女にお願いをした。
ただ。
この警告が効果を発揮する前に、二つの組織がぶつかり合い、騒動を拡大することになった。




