秘薬騒動③
今回の“秘薬騒動”は、多くの人が一縷の望みに賭けて魔女の森に押し寄せるという結果を産んだ。
二人の命を救った事、それを「ずるい」と言い出す人間が大勢いるからだ。
「直接面識のない二人助けたんだから、自分の家族も助けられるべきだ」という謎理論を振りかざして魔女の元に押し寄せようとする。
しかし我が子を助けてもらった高官が事前に森に至る道を封鎖して、政府の許可なく魔女の元には行けないように手配したため、正規ルートでは森に入れなくなった。
自然とと言うか、その程度で止まっていられない人々は道無き道を突き進む事となり――野生動物に襲われ、多数の重傷者を生み出すのだった。
「我欲に負けた連中まで助ける気は無いよ」
魔女の都合を考えずに森へ突撃した人々。
それを魔女は「我欲に負けた連中」と切り捨てた。
森に手出しこそしなかったものの、危険地帯に不法侵入したのだからこうなるのは当然。
サウノリアは銃社会ではないので、一般人が持ち込む武器なんて小さな食事用ナイフや包丁が限界。最近はエアガンの所持にすら許可証が必要で、海外からやって来た彼らは簡単に手に入るナイフなどしか身を守るすべがなかったのだ。
ちょっと武器を持った一般人では森で野生動物に襲われればどうにもならない。
子供でも分かる理屈である。
サウノリアの首都では「魔女の所に行かせろ」と叫ぶ抗議活動が行われるようになった。
そして反対側の国、シーナ大央国。
「森に銃火器は持ち込めない。そして我が国には魔女の所まで行くための道が無い。
手詰まりであるな」
こちらは歴史的に何度も魔女に煮え湯を飲まされた経験があり、森の仕様に付いても詳しい。
攻め入った経験から道はすでに閉ざされ、何度かサウノリア経由で交渉を行ったものの、成果は上がっていない。
シーナ大央国側から魔女の所に行くことは現実的ではない。
「昔のように、阿呆が空から降下しなければいいのだがな」
「民間機が森の近くを飛ぶことは許可していませんので……おそらくは、大丈夫でしょう」
「多少の批判は構わん。いざとなれば撃ち落とせ」
魔女は森を守るが、空からの侵入は想定外だったのかそれともあえて見逃し続けているのか。森の上を飛行機が飛ぶ分には何も言わない。
ミサイルなら撃ち落とすが、旅客機が森の上を飛ぶことは公式に認めている。
ただ、下手に魔女に会いに行く手段として空を使えば、その許可が取り消される可能性がある。
そうなれば航空会社が非常に困ることになり、政府への批判は避けられない。
だから政府として、森の近くを無許可で飛ぶような連中を掣肘せねばならない。
シーナの政府は今回の面倒ごとにかかる出費を考え、痛む頭を抱える事になった。
「糞ッ! こんな面倒をかけるなら、我らにも例の薬をよこせと言ってやりたい!」
後日、本当に魔女から薬が届いた。




