魔女の話
ここ最近、注目されすぎたと魔女は思う。
百年前の世界大戦で魔女は力を振るったが、その時は大騒ぎになりつつも、魔女は放置されていた。
それと今は何が違うのか?
簡単だ。
飛行機という交通手段とスマホを用いた情報化社会という変化により、世界が狭くなりすぎた。
本来であれば生涯知る事のない、訪れる事のできない魔女の森に関心を払う者が少なかったからだ。
今の人々は、行きたいと思えば簡単に魔女の森へと入る事ができる。
サウノリアの一般市民、その平均月収程度の資金があれば、世界のどこの空港からでも3日で魔女の森まで行く事ができる。
魔女の動きは世界中から注目され、貧困層ですら森に魔女がいる事を知っている。
空港までの移動時間は知らないが、本当に1日あれば星の裏側からでもここまで来られるのだ。
面白くないと、魔女は思う。
自分はそんな、簡単に会いに行ける相手ではないと言ってやりたい。
ただ、それはやってはいけない。
五百年前。
この森にやってきたときに交わしたとある契約により、それは適わない。
今のサウノリアの王族は失伝してしまったようだが、当時からここに居る魔女は覚えているし、その契約を遵守しているから今も森を守っているのだ。
魔女は約束を破らない。
五百年先の今を予測出来ずとも、当時と状況が大きく違っていても、魔女は変わろうとしない。
だから薬を渡したという事も、彼らは気が付いていない様子であった。
その滑稽さに魔女はつい、忍び笑いを漏らす。
人間社会から魔女を忘れ去らせるのは簡単だ。
人間が入って来れないようにして、ついでに彼らが操作する機械だって排除しようと思えば“その為の力はある”からできると言えばできる。
人と森の間に居る彼女は、森の側に立って仲介役をするのがルールだ。
人の事情を理解した上で森の為に働く。
そして森に生かされる。
だから魔女なのだ。
それを理解せずに動く愚か者の、なんと多い事か。
シーナ大央国側からの侵入者を処理し、魔女は森を守り続ける。
 




