弟子希望者の、その裏
「本当に、あれだけだったんですよね?」
「当たり前さ。アタシもそこまで暇じゃないからね」
先日の、弟子入り希望者二人が盛大に自爆をした件で、アズ外交官は魔女にどこまで関与したかを確認していた。
あの一件は、一から十までが彼らの自爆ではない。
最初の一と二に限り、魔女が仕組んだことだった。
魔女は、あの政治犯の男が本当に子供の親として相応しい人間か試したのである。
「ホテルという人目に付く場所でカエルになった子供を返して、善意の第三者に情報を拡散させ。
そして貴女は人権派の男と合流するよう、魔法で思考を誘導した。
たったそれだけであそこまで彼らが動くなんて……」
「一人じゃできない事も、二人ならやれる。よくある話じゃないか」
「あまりあってほしくない話だから言っているんですよ」
「そこはアタシも同意だね。面倒事なんてない方が良いに決まってる」
彼らが「反魔女」で意気投合するのはアズ外交官にも理解できることだったが、そこから散々にネットで叩かれるところまでは分かるが、正義に凝り固まった二人は小さな犯罪をするようになっていく流れまでは予想できなかった。
最後の軽犯罪――名誉棄損や暴行――を犯すところまでは理解しにくい。
一人では歯止めが利かずとも二人で動いていればもう片方がブレーキになるのではないかと思うのだ。
「そりゃぁ逆だよ、アズ坊や。
あの男一人なら子供が歯止めになっただろうさ。だけど片割れが相手を正義と認めてしまえば、自分が間違っていないと思っちまう。
組織の力学だったかい? 本人の考えとは裏腹に、たった二人の組織の論理にアレは逆らえなかったのさ。
――独裁者に逆らうのは、出来たのにね」
魔女は「自分を否定する組織」と「自分を肯定する組織」の二つのどちらに逆らうのが簡単か考えるよう、アズ外交官に言う。
そう言われれば彼も納得し、そういう事かと理解できた。
独裁政権は国民に対し服従を強いるだけの組織である。
国民の意思を無視しているため、反発心を抱くのは容易だ。
しかし反魔女で共感した仲間は男を完全に肯定し、共に歩もうという相手である。
善意には善意を。そんな単純な感情論で“正義”の有無に関わらず相手の言葉を否定しにくくなり、最初に掲げた理想を捨てられなくなった。
行動はいつしか本心に置き換わり、魔女の味方と戦ううちに、周囲と魔女を同一視した結果が「ただの犯罪者に成り下がること」だった。
どこかで止まることが出来るようなら、そこまで堕ちはしなかっただろう。
しかし、結果が出てしまった。
そんな話である。
「ああ。子供の方はこちらで保護しましたよ。
犯罪者の子供になってしまったため、肩身は狭いようですが、親の事は見限ったようです」
アズ外交官には、この結果が最良かどうか分からない。
あんな男でも父親は父親だ。反魔女の意思を掲げていようと、親と一緒に生きていけた方が幸せだったのではないかと思う。
しかし魔女と敵対した以上、父親がどうにかされるのは必至なわけで。魔女が手を抜かない以上、早めに父親と引き離されたのは良かったのではないかとも思う。
どちらが正しいかは知らないが、それはアズにも分からぬ結果を持つ、未来の話であった。




