弟子希望③
「静におし! このクソガキども!!」
「「「きゃぁ~~っ!」」」
魔女の家に、子供特有の甲高い声が響く。
今回の来訪者は、わざわざ自分の子供と一緒に魔女の元を訪れたのだ。
「どうです、子供は良いものでしょう?
どうか、多くの子供たちの未来の為にも我々に魔法を教えていただけませんか?」
今度の弟子入り希望者は亡命のような形でここに来ている。
国に帰る事の出来ない、政治犯という奴だ。
独裁政権の母国で民主化を訴えたために命を狙われ、家族ともどもサウノリアを経由してここまで逃げてきたのだ。
魔女のところなら追手は来ないだろう。
魔女に弟子入りして力を蓄え、母国の解放を目指そう。
そういった思惑が透けて見える。
「アタシは大人のいう事をロクに聞かないガキは嫌いなんだよ。さっさと子供を連れて帰りな」
「私に帰る場所などありませんよ。あの子らも同じです」
「親の不出来に子供が巻き込まれる。情けない話だね」
「誰かが言わねばならないのですよ。そうでなければいつまで経っても国は変わらない。
誰かが声を上げねばならぬ時にただ黙っているなど私にはできなかった。それに、子供たちには平和になった国で生きて欲しいんですよ」
「言いたい事は分からないでもないけどね。それなら無関係なアタシを巻き込むんじゃないよ」
「ははは。私は年下相手には手を差し伸べる立場であると思いますけどね。年上相手には頭を下げて助力を願う人間でもあるんですよ」
「何度何を言われようと手は貸さないよ。魔法は教えないし、森からは出て行ってもらう。
“助けてくれる誰か”は森の外で探しな」
政治犯となった男は、己の信念に従い国に逆らった。
だから、この男を見捨てることを躊躇う魔女ではない。
だが。
子供たちは、別である。
親を選べず、ただ産まれた先の親が政治犯であったがために逃亡生活を余儀なくされている。
そこに子供の意思は無い。
魔女の流儀に従えば、親から解放してしまうのが正しい。
指揮官と兵士の関係で言えば、親の命令に逆らえないのが幼子だ。親をどうにかして子供が自由になれるようにしなくてはいけない。
ただ、一部の子供は無条件に親を求める生き物であり、それがどんな親であろうと関係ないというのが非常に面倒くさい。
子供の心を直接いじる魔法を、魔女は使わない。
子供自身にそういった魔法は不要だ。
子供と親の絆を切り裂くハサミは、親の方にのみ使うべきである。




