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魔女は独りで完結している

 弟子入り志願者は、若い者だけではない。

 むしろ壮年から先の者の方が多い。


 狙いはやはり、不老不死。

 金と権力を手に入れた者が最後に行きつく願いとして、年老いて死にたくないと考えるのは珍しくもない考えだった。


 そして、誰もがその願いを叶えられずに森から出ていくことになる。



「不老不死は、年老いて死なない。ただし殺されることはある。

 不死身は殺されても死なない。ただし老衰で死ぬ。

 不死不滅なら、悠久の時を生きることが出来る、ですか。

 森の魔女は不老不死というお話ですが――」

「ああ。アタシは不死身さ。死なないわけじゃないね」

「ええ!?」

「良く考えてごらん。アタシだって女だ。不老不死なら、もっと若い娘の姿でいるよ」


 魔女の森は道が整備されていないので森に入ってからが大変だが、外の世界は飛行機の発達によりどんな遠くでも簡単に行き来できるようになっている。

 森がどれだけ変わらなくても世界はどんどん狭くなっていて、だから森に入ろうとする人間、弟子入りしたいという連中は増えていた。


 ちょうど弟子入りする人間の欲望を横で見ていたアズ外交官は、ふとした疑問を口にした。

 魔女は、死んでしまうのだろうかと。

 本当に死ぬのだろうか、と。


 世間一般では、森の魔女は不老不死と言われている。

 老婆の姿ではあるが、年を取って死ぬというイメージが無いからだ。

 また、500年生きているというのも不老不死のイメージを強くしている。


 アズ外交官は、森の魔女もいつか死ぬと言われ、心の底から驚いた。

 この魔女は、自分が死んでも国が滅んでも、ずっとずっと森で生きていると思っていた。



「あの。それではなぜ、お弟子さんを取らないのですか? 自分の死んだ後の森を守る誰かは必要だと思うのですが?」

「なぜ、必要なんだい?」

「え?」

「アタシはアタシが死んだ後の森にまで、責任は持たないよ。

 アタシが死んだ後の森は、アタシがいなくなった後、残った誰かがどうにかするだろうさ。それが自然の定めだろ」


 アズ外交官は、魔女が何を言っているのか理解できなかった。

 いや、言葉として、理屈としては理解できるのだ。

 ただ、感情が付いてこず、納得が出来ない。


 人間は、自分の生きた証を残したいと思うのではないか?

 子供に、次世代に想いを繋いでいく生き物ではないのか?


 自分だけで完結した世界を持つ魔女の考えに、彼は共感できなかった。



「アタシはアタシの命で森を守り切る。

 それ以上は求めちゃいないよ」


 森の魔女の言葉には語り切れない、何かの“芯”が確かにあった。


 魔女の森を守ることにどんな意味があるのかは分からない。

 ただ、この魔女がいる間なら、森は必ず守られるのだろうとアズ外交官は確信していた。


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