魔女は嗤う
「この結末を、どのように導いたのですか?」
「アタシは何もしてないさ。馬鹿が勝手に馬鹿をした。それだけじゃぁないかね? アズ坊や」
魔女の家。
そこにはサウノリアの外交官がスマホを片手におしゃべりをしていた。
「アズ坊や」と呼ばれ、対等な立場には無いが、それでも国を代表して会いに行ける程度の、四十代後半の男である。
この外交官は戦争後の政変交代で「魔女担当」の人に付いた者であり、絶対に魔女と敵対しないような性格だからとこの仕事に選ばれた。
彼はまずは互いを知ることが最優先だと、本当におしゃべりをするだけのために魔女の家を訪れる。
仲良くなる事、人として信頼を得る事。
それこそが外交官にとって一番の仕事なのである。
そんな中で起きたのが今回の一件だ。
海外のマスメディアが、取材許可もないのに勝手に魔女の森への嫌がらせをしたので背中を濡らしてしまうこととなった。
問題を起こした記者は外国人だったが、木を伐ろうとしたのは自国の民間人だからだ。冷や汗もかこうというものである。
そして非常に驚きはしたが、同時に疑問を覚えたのでアズ外交官は魔女に踏み込んでみた。
どこからどこまでが魔女の意図通りだったのか、と。
「あの手の連中はね、自分が間違ったことをしているなんて思っちゃいないのさ。正義の使徒のつもりなんだよ、あれで。だからあんな事も平気でする。
自分が正しいから、従わない奴は全部悪。あいつらにしてみれば、自分の思うとおりにならないアタシは極悪人なんだ。
そしてアタシみたいに引きこもっている奴が相手になれば絶対に嫌がらせを仕掛けてくるのさ。自分は安全なところに居るからってね。
ま、出入り禁止の警告だって、他人を雇えばどうとでもなるものだってのは誰でも分かることさ。なのにアタシが気が付いていないって思うような、自分が成功者だって信じて疑わない、周りを見下して生きている愚かさも兼ね備えてる」
救えないねぇ。
魔女はそう言って嗤った。
ネットは大騒ぎしているが、騒ぎの片割れである本人にとっては大したことでもない、日常の延長とでも言うように。
実際、手間をかけていないので、魔女にとってこれは“簡単な事”と認識するしかない。
森に手を出したものに制裁を加えるのは日常業務。
記者への対応でちょっと一手間かけたようにも見えるが、実行犯のみならずその場に居ない指揮官にも制裁をするのはいつもの事なのだ。
「スマホも何も、あんたらが使っているところを見てるからね。対策を取るぐらい簡単さ。その必要性も認識してるよ。
森の近くで悪さをする連中に情報封鎖の一つでもできなきゃ、今の時代は後手後手に回るからね。偽の情報を送る事も重要な情報を遮断する事もお手の物さ。
衛星で森の様子が探れない事は、誰でも知っているだろうに。なんでそれぐらい予想できないかねぇ?」
魔女はお茶を飲みながら、マスコミ達の愚かさを指摘する。
彼らは自分たちだけが情報を取捨選択し、発信していると思い込んでいる。
今の時代、マスコミ以外に民間人も情報を発信しているが、災害時などを除けば日常の一部に過ぎない。政治的なものなど、重要性の高い情報はマスコミのような組織が一手に担っている。
組織的な信用が必要な情報というのが世の中にはあり、結局は、民間人は情報消費者であり、マスコミこそが情報の発信者の頂点であるという自負を持っている。
その驕りの結果が、これだ。
魔女はいつまでも魔法頼みの、現代科学技術を否定する未開の野蛮人扱いできる相手ではない。
先の戦争では前大統領の位置を特定した手法も含め、すでに現代の技術に魔法を対応させている事は、もう疑いようがない。
アズ外交官は、改めて魔女を敵に回してはいけないと、国の為にも強く心に刻んだ。




