マスゴミ⑤
記者は男の様子を離れたところから見ていた。
男の方に携帯通信機器は渡しておらず、あとはアドリブ、自己判断で動くように指示してある。
一応、記者はサウノリアの話で大統領のように、指示を出した者までやられたことを知っていたからだ。
斧を持った男は、斧を振りかぶったときに魔女の警告を受けた。
覚悟はしていたが、それでも恐ろしかったので思わず斧を落としてしまう。
しかし、怪我をしないとお金は手に入らない。
だから怪我をさせられる恐怖を押さえつけ、男は拾った斧を持った手に力を入れて、大きく振りかぶるが。
「お?」
勢いよく振りかぶったからか。
斧は手からすっぽ抜け、どこかへ飛んで行ってしまう。
男は慌てて斧を探しに走って行った。
「チッ! なにやってんだ! しょせん無職の屑か、使えない!」
それを見ていた記者は、思わず悪態を吐く。
ただ、今から斧探しを手伝いに行こうとは思わない。
ここで出ていけば、魔女に気が付かれてしまうと思ったからだ。
ただ、その考えは甘く、記者はすでに気が付かれていることを理解していない。
すでに魔女の報復は始まっていたのだ。
男が斧を探し終えるまで時間がかかるだろう。
構えていたカメラを地面に下ろし、記者は少し休憩をする事にした。
そこで、スマホに着信が入った。
「もしもし」
記者は音量を落とし、小声で電話に出た。
「おい! 何やってんだよお前! 生放送されているぞ!」
「は?」
「お前が今、魔女をハメようとしているのは分かってる! 魔女はそれを逆手にとって、生放送してるんだよ!」
「はぁ!?」
電話の相手は記者の友人だ。
その友人はすぐにヤラセを止めるようにと、忠告しているのだ。
記者は思わず間抜けな大声を上げた。
辺りを見回すが、自分を撮っているであろうカメラは見付からない。
見付からないのだが。
一方その頃、多くの者が見る動画サイトには、記者がネットで生放送されている様子が映っている。
音声もちゃんと付いており、先ほどの悪態もしっかり聞こえていた。
「むしろお前が使えないw」
「ようやく気が付いたようですwww」
「池沼過ぎてワロタw 草原不可避wwwwww」
魔女が何をどうやっているのかは誰にも分からない。
だが、男の個人情報が有志によって調べ上げられ、直ぐさまコメントとして動画に流れる。
住所・氏名・年齢・性別・就職先まで全てが晒された。
記者が所属していた新聞社は即座に解雇を決定。
自分たちはスポンサーの意向もあり魔女に対し否定的な報道をするつもりはなかったと釈明し、記者会見を開き頭を下げた。
魔女の森は、こうしてマスコミの魔の手から守られたのである。




