魔女の森
「ふざけた事ぬかすんじゃないよ! とっとと帰りな! このロクデナシども!!」
森の奥の一軒家、そこに老婆の罵声が辺り一帯に響き渡った。
老婆の大きな怒声は森の生き物に恐怖を与え、鳥は飛び立ち、獣は脱兎のごとく一軒家から遠く離れようと駆け出した。
そして、実際に怒鳴り散らされた男ども――サウノリアの外交官は、這う這うの体で魔女の元から逃げ出すのであった。
サウノリア王国の東、そこには広大な森が広がっている。
その森には一人の魔女が住んでいて、もう数百年、森を守り続けてきた。
サウノリア王国は近くにシーナ大央国という覇権国家が存在するが、魔女の森があるおかげで大央国との国境が狭まっており、彼の国の侵略を何度も防いでこれたという歴史がある。
当然のように魔女の森にも大央国は侵略の魔手を伸ばしていたのだが、森の魔女はこれを全て撃退している。
森の魔女はサウノリア王国の独立を支え続けてきた陰の功労者であったという訳だ。
他にも飢饉があれば食料援助を、疫病が流行れば魔女の薬を、と、森の近くの村には様々な援助をしている。
「袖振り合うも他生の縁。ま、森で悪さをしないってのなら、少しぐらいは助けてやるさね」
しかし、世界の情勢は変わる。
通信技術の発展はサウノリアやシーナだけではなく世界中に存在する多くの国々を結び付け、ついには「国際連盟」を結成させるに至る。
そして魔女の森は、魔女一人には惜しい、魅惑の領土へと変わっていったのだ。
それはサウノリア王国だけでなく、シーナ大央国や、そのほかの国々を巻き込みつつ、大きなうねりとなっていくのであった。