食べられる草
「お待たせー、これもスープに入れてよ」
「……………………」
ニコニコして戻ってきたコタの手の中には、草とキノコ……、しかも紫色!
川で軽く洗ってきて、鍋に入れようとするのを、姉さんが腕を掴んで止める。
「ちょっと待って!あなた私達を殺す気?」
「??」
「大体食べ物に草を入れようなんて、嫌がらせか何かなの?」
「えー、草じゃないよ、山菜だよ。
食べられる野草だって。
何でだか知んないけど、知ってる野草がいっぱいだよ!
しかも季節感無視?
キノコも豊富だし、テンション上がっちゃうよ」
無邪気にニコニコしながら、コタが言うには、【サンサイ】と言うのは、野生に自生している草花などで、食べられる物の総称なんだそうだ。
勿論毒のあるものもあるけれど、元々彼らは山に住んでいるので、毒のあるなしや、食べられるものを見極める事が出来るとか。
しかも見た目だけではなく、動物として匂いでも区別できるのだそうだ。
「化け狸と言っても動物だからね、鼻はきくよ。
ウルイとムラサキナントカシメジモドキだから、山菜だけどクセがなくって初心者でも食べやすいと思うよ」
草とキノコを鍋に入れかき混ぜているコタに、一切の悪気も悪意も感じない。
本当に食べられるものなのかな…でもキノコは危ない。
腹を下すだけならまだしも、死んでしまう可能性もあるのだから。
正直コタを信用するには付き合いが短すぎる。
姉さんは完全に敵対者を見る目でコタを見ている。
コタを信用することはできなくても、彼が悪い奴ではないと言うのは、昨日の会話から伝わってきた。
だから、「できたから食べよう」と差し出された器を受け取りはしたけど、姉さんはいらないと拒否した。
受け取りはしたんだけれど、口をつける勇気はない。
「いただきまーす。
うん、いい匂い」
ボク達を気にすることなく、コタはスープを食べる。
……確かにいい匂いなのだ。
「アス姉さんいらないならお代わりしていいかな」
言いながらスープをお代わりするコタ。
美味しそうに食べる彼、漂ってくるいい匂い、鳴るお腹……。
様子を見てても変化の無いコタに、ボクもスープに口を付けた。
「ちょっとマコフォルス、大丈夫なの?」
隣に座る姉さんが聞いてくるけれど、ボクは返事ができなかった。
美味いのだ。
今まで食べた事無い味、食感、食べる手が止まらない。
無言で食べ終わったボクは、残りのスープを器に注ぎ、黙って姉さんに差し出す。
黙ったままうんうんと頷くボクに、戸惑いながら器を手にした姉さんは、それでも暫く迷っていた。
けれど姉さんもお腹は空いていただろうし、匂いに負けてスープを口にする。
「!!!」
姉さんも無言で、一気にスープを食べきった。
「何⁈何なのこれ!
この草ヌルッとして不思議な感触で、少し苦味があるけど、その苦味が油っこさを抑えてくれるし、何よりキノコ!
キノコは危ないから食べちゃダメだって言われてたけど、このクニクニした不思議な歯ざわりとなんとも言えない味!
キノコってこんなに美味しいの?」
「姉さんの気持ちはよくわかるよ。
キノコって美味しいんだね、何だか今まで損した気分だ」
ボク達の反応に、嬉しそうに笑っていたコタだけれど、ふと真面目な顔をして言う。
「確かにキノコって美味しいんだけど、毒キノコって食べれるキノコ以上に多いんだよ。
後見分けもつきにくいし、さっきアス姉さんが言ってたように、死んじゃうこともあるから、日本でも素人がキノコを採って食べるのは危ないから禁止しているところもあるんだ。
山菜も、本当にそっくりな毒草も存在するんだ。
だから無闇にキノコや野草は食べない方が正解だと思う」
コタの言葉に頷くボク達。
「もしキノコや野草が食べたくなったらオイラに聞いて。
オイラも全ての野草を知ってるなんて言わないけど、地元や住んでた場所に有ったのと同じのなら分かるし、毒のあるものは匂いでもわかるからね」
笑って言うちっちゃい彼が大きく見える。
そんなコタを真っ直ぐ見て、姉さんが謝罪を口にした。
「美味しいものを食べさせてくれようとしたのに、疑ってごめんなさい。
本当に美味しかったわ、ありがとう」
頭を下げる姉さんに、コタは慌てて両手を振る。
「謝んなくて良いよ、食べたことないものを警戒するのは当たり前だし。
寧ろ知り合ったばかりの他人が出したものを、しかも普段食べちゃダメって言われてるのもをすんなり口にする方がヤバいから。
アス姉さんの態度はとっても当たり前の事だから」
そう言ってニッコリ笑うコタ。
小さいし、言動が時々子供っぽいけれど、こうしているとなる程、確かに僕より年上だと理解できる。
小さいんだけどね。