朝ごはん
翌朝、どんな時間に寝ようと、体に染み付いた毎日の習慣で、いつもと同じ時間に目が覚めた。
ただいつもの目覚めと違ったのは、何故だか見知らぬ動物を抱き抱えていた事だ。
思考がはっきりしてきて思い出した。
これは別の世界から来たコタだ。
しかし不思議だよな、この国だけでも広いと思うし、山脈の向こうにあると言う他の国だけでもおとぎ話のようなのに、別の世界なんてのがあるなんて。
話を聞くだけなら信じられないけれど、こうしてコタはここにいるのだ。
彼の住んでいたと言う国の話だけなら、よくできた妄想だと思うけれど、実際に彼の身につけている衣服や持ち物は、見た事どころか聞いたこともない不思議な物ばかりだ。
彼の国の文字と言うものは勿論わからないし、あんなに小さく規則正しい大きさで字を書く事なんて普通は無理だ。
しかも板を撫でると大きくなるなんて魔法も聞いたことない。
文字以外にも、詳細で色鮮やかな絵…【シャンシン】とか言ったかな?それにも驚いた。
だってボクと姉さんを一瞬にして板の中に描き取ったのだから。
ガチャガチャした音楽は頭に響いたし、どんな楽器を使っているのかもわからない。
彼の言う【ガガク】と言うものは魔法と違う力だと言うのは、魔力の流れも一切感じなかったことから納得はできた。
納得できたからと言って、理解はできないのだが……。
『異世界のことは【こう言うもんだ】と考えないと頭がパンクしちゃうよ』
と言う彼のアドバイスに従う方がいいのだろう。
寝起きの頭でごちゃごちゃ考えていると、姉さんが窪みを覗いてきた。
「マコフォルス、起きたの?
朝ご飯準備したわよ。
さっさと出発して早めに村に戻りましょう」
了解と返事をして、ぐっすり眠っているコタを起こすことにした。
朝ご飯は、明け方川に水を飲みにきた山猫を姉さんが捕らえてくれていたので、スープにした。
皮を剥ぎ、内臓は肉食動物を寄せ付けない為にも土に埋め、骨ごと小型の斧でぶつ切りにし、煮込んで柔らかくなったら塩胡椒。
もっと肉の付いた大きめの動物なら、肉を削ぎ取り焼いて食べるんだけど、小型の動物ならお腹を満たす為にもスープにするのが一般的だ。
起きてきたコタが鍋を覗き込み、
「朝から冒険者スープ?
昨日も思ったけど、何で肉だけなの?」
「何でって言われても、山で泊まるなら現地調達が普通よ」
そう、朝出て木を切り夕方までには戻る樵や、半日ほどで戻る距離の狩や、川で漁をする漁師なら、弁当を持って行くこともあるけれど、山の奥深くの特殊な木を切る場合や、夜行性の動物を狩るなど、泊まりになる場合は現地調達が基本だ。
だからボク達も一般的な野営用一式……調味料の塩と胡椒、解体用の小型斧とナイフ、鍋と器(スープ用兼カップ兼皿代わり)ロープに色々兼用の布、それとは別に依頼品を包む用の清潔な布、後は簡単な薬と各自の武器くらいだ。
現実問題、大荷物で遠出なんて、体力を奪うだけだ。
姉さんが説明しているのを頷きながら聞いていると、不思議そうな顔でコタが聞いてくる。
「現地調達なら山菜を食べないのはなんで?」
「3歳?」
「……なんだかニュアンスが違う気が…。
山菜だよ、山に生えてる食べられる野草やキノコや木の実とか。
この辺り色々有る じゃん」
ヤソウ?野菜じゃなくて?
疑問に思っていると、「待ってて」とコタは藪に入って行った。