ある日森の中
大陸の東唯一の国、セファクムール王国、その一番東に位置するコルロット領のサールバール村。
その村の東の森の中から話は始まる。
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ボクの名前はマコフォルス、今年の雨期で18歳で、仕事は一応冒険者をやっている。
今は依頼でウォーターボアの肉を採りに、姉さんと一緒に東の山に登っているところだ。
ウォーターボアは、涼しくて水の綺麗な場所に生息するの動物だ。
この辺りなら村に流れてきている川の上流に生息している。
予定では山に登り、今日中に狩り、山で野宿して明日戻る事となっている。
「でもさ、食べ物とか一泊分しか持ってきてないけど、すんなり狩れるのかなぁ」
後ろから登ってきている姉さんに声をかけた。
「あはははー、マコフォルスは本当に気がちっちゃいねー。
私の運の良さに任せなさいって。
ソッコー見つけて、この弓で一撃に仕留めてあげるから。
上手くいけば今日中に戻れるかもよ?
それに食べ物なら、現地調達すればいいじゃない。
だからサクサク登る!」
姉さんは今年の乾期に20歳になった冒険者で弓使いだ。
得意の風魔法に矢を乗せて、命中率は村一番。
調子のいいところがたまにキズだと思う。
「ふふふふーん、これでまた夢に一歩近づけるってもんね。
まぁ、才能溢れる私にはチョロい依頼よねー」
……お調子者とも言うのかもしれない。
西の山脈にははるかに及ばないが、東の山も登るだけで半日以上かかる。
どう考えても無理な話だ。
まぁ、無事に村へと戻れればいいやと、小さく息を吐く。
たまに無駄話をしながら、二人で山を登っていき、間も無く目的地と言うところで荷物を降ろした。
「じゃあこの辺りをベースにして、ウォーターボア探しましょうか」
背負ってきた荷物は簡単な野営用品とちょっとした食料のみだけれど、背負ったままでは狩はできない。
ちなみに、ボクの使う武器は普通のロングソードだ。
小さな頃から、現在領主様の所で兵士をやっている、年の近い近所のお兄さんに教わった。
腕前は………狩の腕をお兄さんが10としたら姉さんは9、ボクは……5…いや、3くらいかな……。
それでも冒険者をやるならば、必ず二人以上のパーティでないと依頼を受けてはいけないと、村長が決めたので、ボクは姉さんに押し切られて冒険者を名乗っている。
東の山は凶暴な動物は、比較的少ないけれど、熊や狼なども居ないと言うわけではない。
安全な野営をするなら、大岩の窪みや、大樹のウロなどが適しているので、そういった場所を探しながら、依頼のウォーターボアを探す事にした。
「まだ乾期だからいいけどさ、雨期に狩の依頼なんて受けないでよね、姉さん」
この辺りの動物の習性として、窪みやウロは、雨期に動物達が子を産み育てるための場所だ。
乾期には風の通らない窪みやウロは、熱がこもるので、動物は外で過ごし、窪みなどは【空き家】の状態なのだ。
風魔法が使える人間なら、風を循環させ、その場で寝る事もできるけれど、風魔法が無いと干からびてしまう。
姉さんが風魔法を使えて良かったよ。
寝床と依頼品が早く見つかるといいなと、辺りを探っていると、どこからか微かな鳴き声が聞こえてきた。
「姉さん、聞こえる?
あれってなんの鳴き声だろう?」
小声で姉さんに問いかけると、姉さんも小声で返してくる。
「…………狼かしら?
……でもちょっと違う気がする」
動物の鳴き声には違いないんだけど、聞いたことの無い不思議な声だ。
『……ウューーーン……………ウューーーーーーーン』
声の感じから小動物っぽい。
「多分あの茂みの向こうだね」
「そっと覗いてみてどうするか判断しましょう」
姉さんの言葉に頷き、足音を殺して、声のする方へ近づく。
茂みの手前で立ち止まり、顔を見合わせ頷き、そっと向こう側を覗いてみた。
「ウューーーン…ウュ………………ューーーン」
そこに居たのは、小さな、茶色い、モコモコした、今まで見たことの無い生き物だった。
頭を引っ込め姉さんに、
何の生き物か聞いてみるけど、
「私も知らないわ、初めて見る生き物ね。
口も小さいし、爪も鋭そうじゃ無いから、危険な生き物じゃないと思うけど……」
口籠った姉さんは、またそっと向こう側を覗く。
「見たことの無い生き物だけど…………」
なぜかプルプル震えている姉さんは、いきなり茂みを乗り越え、その生き物を捕まえた。
突然現れた姉さんに、そいつは驚き固まってしまったのか、何の抵抗もなくあっさりと姉さんに捕まってしまう。
素手の女性に捕まるなんて、間抜けな生き物なのかもしれない。
「うわーーー!ちっちゃい!可愛い!モコモコ!軽い!ちっちゃい!」
何かのツボにハマってしまったのか、姉さんは見知らぬ生き物を、ギューギュー抱きしめて頬ずりしている。
「………姉さん……危ない動物だったらどうするの?
牙とかに毒が有るかもしれないでしょ」
未確認の生き物をいきなり抱きしめるなんて、危険極まりない行為だと思うから、姉さんに近寄りながらも注意を促す……今更だけどね。
「こんなちっちゃくて可愛いのよ?
危ない生き物のワケないじゃない」
それが冒険者のセリフですか…と言う言葉は、口から出さずにおく。
確かに小さい。
体長50センチも無いくらいだ。
茶色と黒、所々に白い混じった毛皮に覆われたその生き物は、犬や狼と違ったポテッとした太い尻尾を生やしている。
「見た目こんなにモコモコなのにめちゃくちゃ軽いのよ。
毛皮が立派だけど、中身は少ないわ」
前足の下に手を入れ、高い高いしながらクルクルと回る姉さんのテンションに、引いてしまう…。
「それに見てよ、この顔!何で愛嬌のある柄なのかしら」
確かに特徴的な柄だ。
鼻筋は白く、目から鼻下を通り、もう片方の目までが黒い毛で、形の崩れたハートマークのようだ。
クルクル回ってた姉さんは、少し息を乱しながら、ニッコリと笑う。
「はーー、可愛かった。
さて、晩御飯も捕まったし、探索の続きをしましょう」
「って食べるのかい!」
思わず突っ込んでしまった。
「ええそうよ、こんなに可愛いんどから、きっと美味しいわよ。
ただ見た目よりうんっと身が少ないんだけどね」
可愛いと食欲が一致するのが女性なのか?
それとも姉さんだからなのか……、ちょっと頭痛が…。
すると、今まで硬直していた生き物が、ジタバタと暴れ出した。
それを物ともせず、抱きしめる。
「コラコラ、じっとしていなさい。
痛く無いよう一思いにヤッてあげるから」
いや、怖いよ姉さん!
ジタバタしていた生き物は、前足で姉さんの顔を遠ざけるように押す。
「あ……ニクキュープニプニ…………何だこの魅惑のプニプニ……」
恍惚とした表情を浮かべてるけれど、正直肉親のこんな顔見たくない、いろんな意味で!
抱きしめた力が緩んだのか、生き物が姉さんの魔の手から逃れる。
しかも、腹からポテッと音のしそうな落ち方だ。
「こらこら、逃さないわよ、可愛いお肉ちゃん」
すかさず手を伸ばした姉さんが、その首根っこを押さえる直前に、ポン!と軽い破裂音がして、生き物から白い煙が上がった。
「タヌキは食べても美味しくないよ!」
煙が晴れた場所にいたのは12、3歳くらいの子供だった。
お待たせしました(待ってない?)新作です。
今回もラストまで頑張りたいと思います。
なかなか冒険に出発できないと思いますが……お付き合いいただけると嬉しいです。
週二回、水、土曜更新です。
水道(土)更新と覚えてくだされば覚えやすいかも?
また土曜日によろしくお願いします。