おばあちゃん
そうそううまくいくことなんてない。
それが人生なのだろうけど、それでも幸せな人生だった、と胸を張って言える。
そんな私は今年、89なる。
周りは皆、先に天国ヘ逝ってしまい、知り合いはもう二人だけ。その二人は別々の施設にいるが、二人とも私のことが分からない。
そろそろ私もあちら側に、最近思っている。これ以上家族の世話にはなりたくないし、これといって日々に楽しみがある訳でもない。
孫にももう、相手にされない。
以前はしょっちゅう部屋に顔を出してくれたのに、それも最近はめっきり減ってしまった。
だから、もう、いいのだ。
このまま、幸せな人生だった、そう思って死ねれば。
「まなみ」
ふいに名前を呼ばれ、目を覚ました。
あ。
朝?
私は目をこすり、体を起こす。
なんだ、夢か。
「まなみ。おばあちゃん起こしてきて」
お母さんの声が聞こえてくる。
お母さんはいつも、私におばあちゃんを起こさせる。お母さんが起こすより私が起こした方が喜ぶから、らしい。
「今朝はおばあちゃんの好きな鮭だから」
お母さんは続ける。
えー、めんどくさい。いつもならそう言っていたと思う。
でも、今朝は違う。
私は首を振って階段を降りた。
階段横のおばあちゃんの部屋まで行き、顔を出した。
「おばあちゃん、一緒に朝ごはん食べよ」
寝ていたおばあちゃんが顔だけこちらを向ける。
少しだけ、目が輝いたような気がした。
ごめん、おばあちゃん。
心の中でそっと謝った。




