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ハードラック・ブラックアウト(旧)  作者: 魚之目 ムニエル
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 未だ光の射し込まない、牢屋のような無機質な部屋で、ウェインは目を覚ます。ゆっくりと上体を起こして、左腕に刺さったケーブルを払いのけるように外した。体の調子を確かめるように何度か関節を回し、簡素なベッドから降りる。

 枕元のリボルバーと、すぐ傍にあったハンドガンを、ベルトに通した左右のホルスターに吊った。数度、位置を確かめるようにグリップを握ってから、今度は素早く抜いて、構える。

 同じ動作を5回。銃の早抜きを両腕で繰り返す。最後の一往復を終えて、ハンガーラックのコートに腕を通した。その上から、振り向くと同時に銃を抜く。また繰り返して5回。儀式じみた準備運動に満足したのか、深い息を吐いて部屋を出る。


 通路の電気は既に点いていたらしく、突然増えた光量にウェインは顔をしかめた。


「おはよう。早いじゃないか。ウェイン」


 ドアのすぐ傍で待ち構えていたレディが、右手のタバコを吹かしながら答える。ため息と共にドアを閉めて、ウェインはコートの内側から取り出した電子タバコをくわえた。

 並ぶようにして、閉めたドアに背を預ける。


「特別早い訳じゃないだろ。いつも通りだ」

「いや。いつもより少し早い。そんなに意気込んで何処に行くんだ?」

「気にするな、お前も行ったことがある所だ」

「殴り込みにでも仕掛けるのかい?」


 レディの言葉に、ウェインは煙を吐いて答えた。


「まぁそんなことだろうと思ってたけど。考えがあるって言ってた癖に、随分と強引な方法だね」

「アイツの主義は客人ならどんな奴でももてなすことだ。客として行けば、それなりに扱ってくれる」

「そんなの、向こうの気が変わればおしまいだ。それに、多分この周辺は見張られている。目的地にたどり着けるかだって、確実じゃない」

「それはそうだが」

「私に言わずに出ていこうとして、挙げ句に手段は強引と来てる。怪しいぞ。ウェイン」


 持っていたタバコの先を壁で潰しながら、レディは詰め寄る。覗き込んでくる瞳から顔をそらして、天井を見上げるように、ウェインは煙を吐いた。


「隠すつもりはなかったんだけどな。いや、お前には敵わねぇよ。レディ」


 諦めの滲む半笑いを浮かべたウェインを、それでもレディは鋭く睨んだ。電子タバコをコートの中に戻してから、強い双眸へと向き直る。


「おかしいと思わねぇか」

「何が」

「昨日の襲撃だよ。あいつらが、こんな生ぬるい爆撃で済ませると思うか?」

「何が言いたい」

「最初はアメリアごと殺しに来てると思ったが、そのつもりならここまで加減する必要はない。死体も確認できず、確実性もない生き埋めなんて方法を、そもそも使ってくるはずがねぇんだ」


 レディはやっとウェインから視線を外して、考え込むように腕を組んだ。2、3歩と足を動かしてから、反対側の壁へと背中を移す。ウェインと向かい合う体勢になって、顔を上げた。


「誘われてる、と言いたいのか?」

「ああ。少なくとも本気で殺しに来ている訳じゃない。下っ端共が騒ぎにならないように抑えてやったか、誘われてるか、だな」

「なるほど。そのどちらでも、向こうまで行ってやるのが得策って訳だな?」

「ああ」


 レディは鷹揚に頷いた後、組んだ腕をトントンと二度叩いた。


「理屈は十分わかった。だけどウェイン、説明が足りていないな?」

「どこが、足りてないって言うんだ?」

「私にそれを言わないで先に行こうとした理由を聞いているんだ」


 静かな怒りの籠った声に、ウェインは両手を上げて首を振る。


「大きな理由としては、まず俺とお前が居なくなったらここを守る奴が居なくなること」

「まぁそりゃあ、そうだね」

「後もう一つは、お前を連れていくとお前が生きてることがバレるから、だな」

「へぇ、まるで私が生きてたら不都合みたいな言い方だけど?」

「馬鹿野郎、そういうこと言ってるんじゃねぇだろうが。アイツとのやり取りの上で、お前を死んだことにできるってことだ」


 ウェインの言葉に、レディが首を捻る。


「そうするとウェインに何が都合が良いんだ」

「そうだな。当たり前だが、お前は俺より強いだろう」

「まぁね」

「お前のスペックなら、完全に不意打ちだったとしてもあの程度の攻撃で死ぬわけがない。せいぜい軽く頭を切るぐらいだ」

「誰かさんはその程度のことで慌ててたけどね」

「ほう。それはおやっさんの事か? ……まぁ、つまりだな。向こうが俺を誘ってやったことなら、お前が生き残るぐらい大前提だ。その上で、お前が死んだ、と言えば」

「何か特別な考えがある、と読むかもしれない」

「そういうわけだ」


 なるほどね、という言葉と共に、レディは肩の力を抜いた。そこで何かに気づいたように眉を上げた。


「でもさ、ウェイン」

「何だ」

「そういう理由なら、途中までなら私がついていっても問題ないよね? どうせブラフなんだし」

「ああ。まぁ、そうだな」


 ぎこちない様子で答えるウェインに、レディは満足そうに息をはく。


「ここの守りなら、おやっさんに聞いてみようか。まぁ少なくとも、今から急いでいく理由はないわけだろ?」

「敵の見張りが少ないうちが嬉しかったんだが」

「それは私がついていくなら問題ないさ。二人が起きるのを待ってから。それでいいね?」


 ニッと笑むレディに、ウェインは苦笑いと共に首を振った。


◇◆◇


「というわけだ。アメリアの事は任せられるか、おやっさん」


 ウェインの説明を、スミスは目を閉じて聞いていた。少し不安げな声で、アメリアが問う。


「つまり、貴方達が帰ってくるまで、私はここで待っていれば良いのね?」

「そうだな」

「いつ頃になるの?」

「わからないが、そう遅くはならない。レディの方はすぐに帰ってくる」


 そう、という安心しきってはいない声に、ウェインの表情が歪む。目を開けたスミスが、隣に居るアメリアを一瞥してから、ウェインへと顔を上げた。


「お前の予想ならば、道中の抵抗はそう激しくないんだろう?」

「まぁそうだな」

「そいつを連れて行くのは念を入れているだけで、特別な理由は無いわけだ」

「そういうことになるな」


 顎で指されたレディが露骨に不機嫌になって言い返そうとする。それを右手で軽く制して、ウェインは続けた。


「つまるところ、レディをどうしたい訳なんだ? おやっさん」


 問われたスミスは浅く鼻から息を吐いて、ジッとこちらを見上げるアメリアの頭に軽く手を置いた。すぐに腕を組み直して答える。


「お前がサルヴァトーレの所まで行くなら、少なからず注意はそちらに向く。その間に俺達はアジトを移した方が良いと、俺は考える」

「……なるほど」

「このアジトはもうマトモに使えん。お前が外に出た次点で、昨日言ってた安全性の話だってご破算だ」

「それなら早めに移動しておいた方が良いって事だな」

「ああ。サルヴァトーレの連中が絡んでるならロクな事にならねぇ。距離は離れるが、スクラップ場の近くのアジトが良いだろう」


 ふむ、と頷いて、ウェインは隣でつまらなさそうにしているレディへ目を向ける。


「レディはそれで良いか」

「ウェインがそうしろって言うなら。まぁ、私もそっちの方が良いと思うよ」

「じゃあ、そうしよう。おやっさん達の移動はどうする」

「三人だとバイクは無理だし、ウェインが使った車はつけられるからやめた方が良いだろうね」

「小型の装甲車がある。あれなら多少の悪路なら走りきれるぞ」

「それで行こう」


 テキパキと話を進めながら、計画の骨組みができていく。途中で、愛車を何とか持っていけないかというレディの嘆願は却下された。


「俺は今すぐにでも出られるが、おやっさん達はどうだ」

「軽く準備はかかるが、すぐに済むだろう」

「私は大丈夫よ」


 いつもより締まった抑揚のない声と、両手を握りながら意気込んでいる声を受けて、ウェインは隣に首を回す。視線を受けたレディは、ひらひらと右手を振って答えた。


「よし、じゃあ行くか」

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