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 ここに大聖堂がある。

 これは街の中で最も大きい建造物でありこの街の象徴的存在だ。高さは約百メートルと他の建物と比べても抜きん出ている。

 大聖堂とは、教会によってそれぞれ異なる意味を持っているのだが共通して宗教建築のことを言う。例えばカトリック教会の場合、司教座聖堂(カテドラル)のことを、正教会の場合、街や修道院の中で大きい主要な聖堂のことをそれぞれ指している。勿論用途も必要性も教会ごとに違っている。

 さて。

 ここまでは現実世界にある大聖堂のことについての説明だ。辞書やインターネットで調べればすぐに出てくる程度の知識である。

 では、ここでちょっとした疑問を提示しよう。

 異世界にある大聖堂は一体何の目的で存在するのだろうか。そもそも、現実世界のような宗教団体は組織されているのだろうか。

 答えは然り。

 順を追って説明しよう。

 元々宗教は古代の人類が原始宗教や宗教観を最初に持った時に生まれたとされ、シャーマニズムやアニミズムなどの自然崇拝が基盤となっている。そこから時代を重ねるごとに様々な宗教が、例えば創唱宗教であるキリスト教やイスラム教、自然宗教である神道が誕生した。

 人間は同じ思想を持つ人間と互いに引き合わされる性質を持っているため、宗教団体が生まれるのも時間の問題だったし自然なことだった。

 ここで、これらはあくまで現実世界での話なのだが、もしも異世界でも同じようなことが行われていたとしたらどうだろうか。いや、実際に行われたのだ。その証拠が大聖堂の存在である。

 それでは本題に入ろう。

 異世界にある大聖堂は一体何の目的で存在するのだろうか。

 それはとても単純な理由で『暗黙の教会(インプリセント)』と呼ばれる宗教団体の本拠地であるからだ。

 その名もクラティアリアン大聖堂。

 この異世界に唯一既存する大聖堂である。

 そんな宗教建築の屋上に一人の女の姿があった。


「あらら、彼ら程度の実力では駄目でしたか…。強奪くらいはできると思ったので依頼したのですが、がっかりですね」


 腰まである黒髪の女性は呟く。

 彼女は誰もが美しい、と無意識に言ってしまうほどの美貌を持っている。足元まである黒いコートは不気味な程ボロボロになっていて、中にはコートと同じ色の装束を着ている。その装束は体を覆うための表面積が少なく第三者から彼女を見れば痴女と間違えられてしまうだろう。さらに、下腿(かたい)全体を黒のタイツで隠しきりまさしく全身黒ずくめである。だからなのか、首から下げている金色の十字架が一種のチャームポイントとなっている。


「それにしても、あの竹の棒?刀?を持った少年、なかなか面白いですね。大剣では無いのだから両手で持つ必要なんてないのに。それともそういう風な型か構えが存在するのでしょうか。はたまたそんな戦法なのか」


 美しい女性は、まるで誰かにでも話しかけるかのようにして呟く。


「まあ、そんな事はどうでもいいのですが。それより少し時間的余裕が無くなってきました。さて、どうしたものでしょう」


 首を少し傾げる。

 そして結論が出たようだ。


「仕方がありませんね、私自身で『禁忌の箱(パンドラ)』を奪いに行きますか。それ以外に良案が無さそうですし。正直私が動いてしまうと後々面倒なことになってしまうのですがそこは妥協するしかないでしょう」

 溜息を付いた。あまり気が進まないらしい。しかし、何度思考を巡らせても同じ結論しか見出せなかった。

 と、ここで思い出したかのように軽く言う。


「その前にあの無能な山賊共をどうにかしなければなりませんね。今後、『禁忌の箱(パンドラ)』について他の方々にペラペラと話さないとは限りませんし、もしもそんなことをされてしまえば困ります。ここは口止めをするべきですかね。二度と他者と話せないように」


 そう言って『暗黙の教会(インプリセント)』に所属している女性・トトはどこかに消えてしまった。



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