弱き者の結論 ーAnswerー
いつの間にか夜になっていた。
小鳥遊冬也とリラの二人は近くにあったボロボロな空き家の壁を背もたれ代わりにして座っていた。リラの傷はまだ万全には治っていないようで、いたるとこに包帯が巻かれている。
「怪我の方は大丈夫か?」
ちなみに、ここには小鳥遊とリラの二人しかいない。神谷は、一応、トトの索敵のため、リィーはそれについて行ったからだ。神谷が言うには、トトを見つけることは無理だろう、とのことだった。逃げるために全力で戦ったトトの速さは誰も追いつけないらしく、その上、彼女は索敵を騙すことを得意としている。しかし、念のため、安全を確証するために索敵するようだ。
「平気よ。応急処置もしてもらったことだし。ま、応急処置と言っても自己治癒を一時的に高めただけのようだけど」
ため息交じりにリラは言う。
平気とは言っているもののまだ痛みは残っているようで、軽く体を動かしただけでも苦い顔をする。
そんなリラの姿を見て小鳥遊は俯いてこう、呟いた。
ごめん、と。
「俺のせいで、俺が足手まといだったせいで、こんな目に合わせてごめん。俺がいなければもうすでに王都に到着していた。俺がいなければ、リラは生命を脅かすなんてことは無かった」
そう、だった。
結局は、小鳥遊がいたせいで引き起こされたことだった。もしも小鳥遊がいなければどうなっていただろうか。山賊達から襲われてはいたものの自力で巻いていたかもしれない。仮にトトと遭遇していたとしても、二人しかいないため空間魔法で王都まで移動できていたのかもしれない。
Ifの世界。
並行世界。
小鳥遊冬也さえいなければ、きっと、まだましな未来が待っていたのかもしれない。
「本当に、ごめん」
悔しかった。
守っているつもりがいつの間にか守られていたことが。
悔しかった。
ただ茫然と、傷ついている彼女を見ていたことが。
悔しかった。
何もできない自分が。
力が無くて、弱くて、一人じゃどうしようもなくて…、ただのお荷物で。
そこにいる意味なんて何一つなかった。
それなら、いない方が何十倍もマシだ。鬱陶しいだけで邪魔なだけだ。
だけど。
そのはずだけど。
それを彼女は否定する。
「確かに、トウヤは弱いわ。魔法が使えるわけでもないし、身体能力が他より高いわけでもない。多分、下手をすれば王都の中でも下の方じゃないかしら。でも、それが何なのよ。そんなの関係ない。貴方は、貴方だけの強さをきちんと持っているわ。他の誰でもない、小鳥遊冬也だけの強さが。それがなければ今頃、私は死んでいたわ」
リラは立ち上がり、お尻についた砂や土を払い落とす。
「トウヤが足手まといだったせいでひどい傷を私が負った?トウヤがいたせいで王都に到着できなかった?馬鹿じゃないの。そんな結果だけを見て、自分が全て悪いですーとか、自己満足にも程があるわ。良いかしら。Ifのことなんて考えたところで無意味。トウヤと出会わなかった未来なんて私は知らない。知りたいとも思わない。だって私は、トウヤのお陰でこうやって五体満足で生きているもの。これこそ、結果論だけで言うなら、貴方がいて助かったってことじゃないかしら。だから、自分を卑下する必要は無いわ」
小鳥遊は、リラを助けた。
だったらそれで十分ではないのか。自分のいたせい、だとか、自分が弱いせい、だとか、そんなものは、きっと、リラにとっては些細なこと。どうでもいいこと。
それが小鳥遊にとっては救いだった。
敵を倒せるほどの力が無くても、チートや特殊な能力が無くても、誰かを助けることができる。そんな力を持っている、と。
「分かったら、ちょっと移動するわよ。もうそろそろでリョウが戻ってくるわ。何か乗り物でも拾ってきてくれれば助かるんだけど。数キロも歩きたくないわ」
リラはブツブツと言いながら歩き始めた。相変わらず、わがまま少女だ。
そんな彼女の後姿に。
少年は言った。
「あり、がとう」
その声が彼女に届いたかどうかは分からない。
それでも、小鳥遊は、それでいいと思った。
そして、胸の奥で密かに決意した。
もう誰にも負けない。