【続編】大きな背中〜先生と私〜
連載版の続編です。連載版を読んでこちらを読んでいただけたら嬉しいです。
先生…――
あなたが星になって
もう3年にもなるんだね
私…
もうお酒飲めるようになったんだよ
車を運転出来るようになったんだよ
毎日の生活に
不自由ない日々を送っていますが
夜になると
孤独を感じ
星空を見ながら
独りで泣いています…
社会人になって
大人になった私のことを
あなたはちゃんと
見てくれてますか?
毎日無理に笑顔作って
笑ってる私に
あなたは
気付いてくれてますか?
多分…
あなたの年齢を
私が追い越す日が来ても
私はあなたを
愛しています
今でも私は…
あなたを
愛しています……
- For ever love -
あなたが亡くなった次の日から
私は何度
死のうとしたか…
薬をたくさん飲んだり
屋上に行ったこともあった
包丁を手にしたことだってある
全て止めたのは
私のお母さん
『止めて…愛美…ホントに止めて……』
お母さんは私の手を握りしめ涙を流しながら訴えた
『…先生のとこに…行きたいの……』
『行きたいのっ!』
お願いお母さん…
逝かせて……
私はお母さんの顔を見た
目に涙を浮かべながら…
その時…
― バシッ!
お母さんに頬を叩かれた
頬を抑え思いっきりお母さんを睨む
『…先生からのビンタよ…』
小さい声でお母さんはそう言った
『…愛美が先生のとこ行っても先生は愛美を叩いているわ。なんで来たんだって。先生は望んでない。先生は愛美の幸せを望んでる。』
さっき叩いた私の頬を撫でるお母さん
『…私の…幸せは……先生と一緒に居ること……だよ……』
撫でるお母さんの手を離してお母さんの手を握る
お母さんは横に首を振る
『…違う……愛美がそう思っていても先生は違うと思う。先生の幸せは愛美の笑顔。愛美が毎日笑顔で生きていることが先生の幸せだと思うよ。愛美は先生の幸せを壊すの?……そんなことしたら先生に嫌われるわよ?…』
お母さんには何かが見えるのか…
先生が私の一番好きな所をお母さんは知っていた
“俺は愛美の笑顔が好き”
あなたは確かにそう言った
でも今の私に
笑顔なんて忘れていた
だって笑顔の源は
あなただから…
源が居ないと
笑えないでしょ…
『それに…』
お母さんが続ける
『…愛美がそんなことしたら先生以外にも悲しむ人たっくさん居るのよ?お母さんだって…お父さんだって…友達だって……愛美が居なくなったら困る人、悲しむ人たっくさん居るの…。わかるわよね?大学生になったんだもん。』
そっと優しく微笑むお母さん
先生のことしか考えてなかった
先生しか頭になかった
私を産んでくれたお母さん
私を育ててくれたお父さん
二人が居なかったら私はこの世には産まれて来なかった…
やっと気付く命の大切さ
『…私……頑張る……。先生のぶんも…ちゃんと…生きる……』
もう親の悲しむ顔を見たくない
悲しませたくない
心配かけたくない
ありがとう…お母さん
『…そうよ…愛美…。先生もきっと今褒めてるわ』
そう言いながら私の首に付いてるネックレスを見る
―― ホントに褒めてくれてるの?… 先生 …
あなたなら鼻で笑ってそうです
当たり前だって
お前アホかって
そう思いながらネックレスを握りしめた…
あなたが死んだ翌日から
大学を休み続けていた
約1ヶ月ぶりの大学
『愛美!待ってたよ!』講義を飛び出して以来の友達の声
友達には何も話していない
嫌われたくなかった
不倫をしていたこと
教師と付き合ってたこと
やっと慣れない大学生活で出来た友達なんだから
『…ごめん、体調良くなくてさ。…でも単位ヤバイから来た』
無理に笑顔を作る
『そっか!気分悪くなったりしたら言ってね』
優しく心配してくれる私の友達、花香大学に入学して一番に早く声をかけてくれた明るい子
つくづく思う
私はホントに友達に恵まれていると…
心配してくれる友達がたくさんいる
ありがたくもあり、たまに悲しくなる
こんな素敵な友達に嘘ついて…最低だよね、私
久しぶりの講義を受ける
教授の声が子守唄に聞こえるくらいにつまらない話
私の首には星マークのシルバーのネックレス
裏にはあなたのイニシャルと私のイニシャル
星の真ん中には輝くダイヤモンド
あなたからの
プレゼント
一時も外したことなんてない
講義を聞きながらいつも考えることは先生のこと
―― 先生 …
今私は講義を受けています
将来の夢のために…
そう言えば先生に将来の夢語ったことあったよね
あの時はまだ自分がわからなくて、先生の第2のお嫁さんなんてバカみたいな答えしたけど
今ちゃんと見つかったんだ
なれるかわからないけどね
講義が終わる
『愛美!久しぶりの食堂行くぞ!』
そう花香に言われ
ついていく
『…またそれ?』
そう言ってきたのは
花香の幼馴染みでもあり
私の男友達でもある裕也
ラーメンにオレンジジュース
いかにも変な組み合わせ
『…どっちかにしろや〜』
『…いいじゃん、好きなんだもん』
ラーメンも
オレンジジュースも
特にオレンジジュースはね
あなたとたくさん飲んだ
たくさん注いでくれた
『…てか東原って…いっつもそのネックレスつけてるよな。』
ソバをすすりながら裕也が聞く
『…彼氏居るっけ?…プレゼント?』
聞かれたくない質問が来てしまった
『あっ!これ?…お気に入りなんだ』
ネックレスを掴み見せる
『…素直に言えよな!プレゼントだって!プレゼントなんだろ?』
『……うん……まぁ…』
曖昧に返事をする私
『へぇ〜彼氏センスあんじゃん!…今度紹介しろよな!』
そう言いまたソバをすする
『…………。』
ラーメンを食べるのをやめオレンジジュースを一口飲む
いかにも私が変と思った花香が声をかける
『…愛美?…どした?』
『………あっ…いや…なんでもない』
唾を飲み込みラーメンを食べ始める
言えない…言ったら絶対泣く
『…あっ!ケンカ中とか?……意地張んなよな〜東原!』
色々探り始める裕也
『…違うから……もうやめよ…この話』
ホントやめて…
泣きたくなるから…
『…えっ!いいじゃん!聞かせろよ〜…どんな人?……照れないで教えろよ〜』
照れてない…
やめてほしいって言ったのに…
『…やめて……』
『なんで〜』
『やめてっ!!』
大きな声で裕也を怒鳴ってしまった…
固まる花香
『…ごめん……』
これしか言えなかった
気まずくなり食堂を出た
『愛美っ!』
花香が私を呼ぶが無視をして出ていった
結局午後の講義は休んだ
完璧嫌われた…
とぼとぼ歩き
たどり着いたのは
高校近くにあるカフェのお店
そう…あなたが助けてくれた場所
コーヒーを飲みたくて寄った
『ブラックください』
あなたが好きなブラックのコーヒーを頼む
―― 先生…
ブラックコーヒー飲めるようになったんだよ
あっ…ごめんね
講義休んでしまいました
そう先生に心の中でメッセージを考える
ブラックコーヒーを飲みながら携帯を見る
……受信メール一件
裕也からのメールだった
“さっきはごめん!今どこにいる?”
メールを見て謝りたい気持ちで一杯になる
裕也が悪いんじゃない
素直に言わない私が悪いんだよ
“私こそごめん。裕也くんは悪くないの。◯◯高校の近くのカフェ屋さんに居るよ”
そう返信した
すぐに受信メールが来て
裕也がカフェに来ることになった
『…あっ!東原!』
裕也がカフェに来た
『…裕也くん……ごめんね…』
すぐに伝えたかった
『…いや…しつこい俺が悪かった、話したくないことだってあるよな』
『…そのことなんだけど……ちゃんと話すよ、このネックレス貰った人について』
ブラックコーヒーを飲み終わり裕也を見た
『無理しなくていいんだ。ホントにしつこすぎた…』
『ううん…いつか言わなきゃいけないことだと思った。……友達だもん。ちゃんと伝えようと思った』
『…東原……いいの?』
申し訳なさそうに聞いてくる裕也
『…いいの……裕也くん、ついて来てほしい所があるの』
そう言ってカフェを出た
向かうは私の母校
先生と私が愛し合った場所
『…東原?』
裕也が高校の校門前で立ち止まった
『…私の母校……ついてきて…』
そう言って校内に入る
体育館からは部活をしている生徒たちの声
それを通りすぎ向かったのは…図書室
『入って…』
そう言って裕也を図書室に入れさせる
『…綺麗な学校だな』
裕也が周りを見ながら言った
『…花香にも言いたいんだ。呼んでもらえない?』
そう言い裕也に呼ぶのを頼む
『わかった』
そう言って携帯で花香を呼ぶ
15分後
図書室に花香が来た
『愛美…大丈夫?』
走ってきたのか汗が出ている花香
『…ごめんね、花香。いきなり怒鳴ったりして…私…ちゃんと話すから。』
そう言って二人の目を見る
『…これを聞いたら…ひくかもしれない……けど二人は私にとって…大切な友達だから……ちゃんと隠さず話します…』
ネックレスを握りしめ目を閉じた
先生に許可を頼む
―― いいよ、愛美…
そう言ってくれてる気がした
『…この…ネックレスをくれた人は……私の好きな人…』
堪える涙
先生が亡くなってから初めて友達に話す
『…ここの図書室で結ばれた……最初はね、憧れだと思ってた……私の好きな人は……ここの学校の…先生だった…』
その言葉に裕也の眉毛がピクリと動く
『……ここのね、体育教師で……妻子持ちの人。……私ね、凄く好きだったの。高校1年からずっと……』
花香が手で口を抑える
『…先生は泣き虫で弱い私をちゃんとわかって助けてくれた……スーパーマンだって笑い合った日もあった…もうその頃には私の中には先生しかいなくて…2年の時に想いを伝えたの……先生は“何もできないよ”って言って私を悲しませないように優しい言葉で全てを受け入れてくれた……私は想っているだけでも幸せだった。先生には大切な家族がいるし、先生の家庭を壊すなんて高校生の私には出来なかった。』
手を震わせながら涙を堪える私
『…想いを伝えるだけで止めておこうと思った。だけど……先生と私の気持ちは1つになってた。“愛したいと思った”って泣きながら先生は私に言ってきた…それから放課後に隠れて会って愛し合った。ここ…図書室は…先生と初めてキスをした場所。幸せだった。最高に……。先生の中で一番じゃなくても…私のそばに居てくれるだけでも…嬉しかった。』
窓の外を見て雲を見る
『…私たちは愛し合った。キスもしたし、身体も重ね合った…ホントに心から愛してた。離れたくなかった。だけど…やっぱり神様はそれを許さなかった……私たちに罰を与えたの…………愛し合った次の日……全てがバレてた。学校の先生にも先生の奥さんにも……。先生は学校を辞めて…私は停学処分になった。それから先生の居ない学校生活が始まった。毎日がつまらなくて悲しくて…学校に行く意味がわからなくなった。受験も終って卒業式に先生とここで待ち合わせしたの。先生は優しく私を抱き締めてくれた。そしてこのネックレスを貰った。私のために買ってくれた。そして先生は最後にこう言ったの………………“愛してる”……………って。その言葉が最期だった……』
私の最後の言葉に裕也と花香がハッとする
『先生ね…病気だったの。あの卒業式の日も勝手に病室飛び出して私のところに来たんだって……あとから全部先生の奥さんに聞いた。そして………昨日まで休んでた理由…体調なんかじゃないの。花香は知ってると思うけど1ヶ月前くらいに私に講義中に飛び出したでしょ?』
私は花香の方を見る
花香は泣いていた
『……急変したって奥さんから電話がきたの。病室に行ったらね、もう先生は……白い布被って…静かに寝てた。何も言わないで先生は…天国に行ったの。何が起こったかわからなくて……頭が真っ白になって…何度も先生って呼んだ、叫んだ……』
堪えきれなくなった涙がついに出た
『………泣き崩れてる私に先生の奥さんはこう言ったの。
“彼は確実にあなたを愛してた”って……そして奥さんは一枚の手紙を渡してきた。
先生からの最初で最後のラブレター。
そこには先生の素直な想いが書いてあった。“今でも愛してる”って…“世界で一番愛してる”って……奥さんよりも誰よりも……先生は確かに私を心から愛してくれてた……一生分の涙が出た……たくさん泣き叫んだ……私たちは純粋に愛し合ってたの………そのことを……先生が亡くなったとき……初めて気付いたの……』
『…くっ……んっ……』
花香が声を出して泣き始める
『…大学休んでた時………先生に着いていこうと思って自殺も正直考えた。でも…お母さんに言われて命の大切さを最近知ったの。だから学校に来た。先生のぶんもちゃんと生きようって……先生に頑張ってる姿見せようって…………』
静かに目を閉じた
まぶたに浮かぶのは
あなたの最期の顔
乾いた唇にキスした顔
『…まだ……今でも……私は……先生を愛してる………多分…これかも……一生……。愛し続けるわ……。私を…私のことを……最初に……愛してくれた…人だから……命がけで……愛してくれた人だから……世界で一番……愛してくれた人だから………だからっ………今度は…私が………先生を…愛する番なの……』
涙でぐちゃぐちゃになった顔をしながらネックレスを強く強く握りしめる
目を閉じ…
先生を想う…
『…世界で……一番………愛してるから……』
ホントは直接伝えたかったこの想い……その想いを空に伝わるように願いを込めて言った
――――………………
『…ひいた…でしょ?……私は最低なの……人のものを平気で奪う女なの……罪を犯した…女なの……』
そう言って床に倒れ込んだ
『まっ愛美っ!』
花香が私を抱き締める
『…ううん……そんなことない……ちょっとビックリしたけど……けど………愛美…凄く……愛されてたんだね……羨ましいよ……あたし……』
涙を流しながら花香が言った
『……ごめんな、東原……思い出したくなかったよな……』
裕也も泣いていた
泣いて謝る裕也
大きく首を横に振った
『……過去は変えられないの……でもね…後悔なんてしてない……』
花香に支えられながら立ち上がる
『……これが私のすべての過去……大恋愛したの……』
そう…
私ね…
高校時代の青春は
先生一色だったんだよ
大恋愛したの…
一生……
忘れない…
恋愛を……。
『…ありがとう…愛美……話してくれて……』
花香がお礼を言う
『……長々ごめんね…帰ろうか!』
そう言い図書室を後にする
懐かしい学校
廊下を歩いてるだけで
どこかにあなたが居そうで
無意識に探している私
『………東原…?』
振り替えるとそこには高校時代の担任…山口先生
『……山口先生!』
久しぶりの再会
高校時代…一番迷惑をかけた先生
停学が決まったときも毎日私の家に来て励ましてくれた
『……東原……知って……』
『……知ってます…』
多分先生のこと
深くは聞かない山口先生
『…そうか……居なかったから…お葬式……』
『…行けませんでした……』
山口先生はお葬式に行ったんだ
仲良かったもんね、先生と…
『…頑張ってるか?』
『…はい……あっ!大学の…お友達です』
そう言って、花香と裕也を紹介する
『…頑張ってるようだな……また、いつでも来なさい』
そう言って山口先生は職員室に入っていった
『……じゃあ帰るね』
花香が校門前で言った
『…うん、また…明日』
そう言って三人は解散した
あっと言う間の大学生活が過ぎていく
夜にはベッドで仰向けになり星空を見る
そっと…手を伸ばしてみる
遠い…遠い……
星は掴めない
私の頬に涙が流れ落ちる
夜は孤独を感じる
星が現れるから…
『…せんせ……どこに…居るの……?』
キラキラ輝くたくさんの星の中…
あなたを見つけるのは難しいです…
そのとき
1つの星だけがピカッと輝いた気がした…
――――……………
『……花香…ついてきてほしい所があるの…』
いつものように講義を終え大学をあとにする
『…いいよ……どこ?』
『……少し遠いけど……』
夏の終わりかけを告げる…葉っぱの紅葉が緑から黄色になりかけ季節も秋
あなたが亡くなったのもこの季節…
近くのお花屋さんで
お花を買って、先生の大好きな缶コーヒーを買って
花香と向かった所…
『…ここ……』
目の前には
“斎藤”と書かれた文字
『……愛美……ここ……』
花香が震えた声で私に尋ねた
『…うん、先生の…お墓』
そう言いながらお墓の前で静かにしゃがむ
『…先生……久しぶりです…先生の大好きなコーヒー…持ってきたからね…』
そっと缶コーヒーを置く
花香も揃って私の後ろにしゃがんだ
『…先生!……紹介するね……私の友達……大学で一番信頼出来る人……全て知ってる…先生と私のこと……』
『……はじめまして……愛美の友達の浅田花香です。』
花香が挨拶をする
後ろを振り返り驚く私
『…いいじゃん、挨拶ぐらいさせてよ』
そう言って微笑む花香
『…先生…私……頑張るから……先生のぶんも生きるから……見守っててね……先生……』
そう言いながらお墓に花をそえた
『……東原…さん??』
後ろから女性の声
振り返ると…そこには先生の奥さんが居た…その横には男の子
先生が亡くなった日以来奥さんには会っていない。お子さんに会うのは初めて
『………。』
私は静かに礼をした
『……久しぶりね…お元気?』
お子さんと手を繋ぎながら片手にはお花
『…はい……』
邪魔になると思いお墓をあとにしようとした…
『…待って……お線香…あげてって…』
奥さんが私を見る
『………。』
奥さんからの予想外の言葉
なんでそんなに優しいのか
私は愛人なのに…
『…あげてって…』
お子さんが居る前で
違う女がお線香をあげる
こんなこと…
『……愛美……』
立ち止まってる私に花香が声をかける
花香は気付いていた
この人が先生の奥さんだと言うことを…
『…ママ〜この人だぁ〜れ??』
奥さんの横に居たお子さんが私の方に指を指しながら言った
『……んっ?……パパのお友達よ』
あっさりと奥さんがそう言った
『………。』
何も言えなかった
先生のお子さんが見ることが出来なかった
『…健ちゃん!おじいちゃんとこ行ってなさい』
奥さんが子供に声をかける
素直に聞いてお子さんはお墓をあとにした
『…旦那のお父さんとお母さんも来てるのよ…』
そう言いながら奥さんはお墓のローソクに火をつける
そして私にお線香を差し出す
『…彼が喜ぶわ…』
そう言われ震えながらもお墓の前に座りお線香をあげ静かに手を重ねた
同じく花香も私と一緒にお参りする
『…あなたに……渡したいものがあるの……』
奥さんの一言に振り向く
『…家に来てくれない?』
私の顔を見ながら奥さんは優しい笑った
どこか私に似ている笑顔
先生が惚れた奥さん
『……行けません…』
小さく首を横に振った
『…じゃあ…』
そう言って紙に何かを書き始めた
『…渡したいものがあるの……もし良かったら明日…ここにきて…』
そう言われて紙を私に差し出した
静かに受けとる私
深くお辞儀をした
『……誰かしら?』
息子さんを連れ老夫婦がこっちに来る
唾を飲み込む
……先生の親……
『……君…もしかして!』
先生のお父さんが私に指を差す
『…滅相もない!…良くここに来れたわね!!』
先生のお母さんが私の足元に水をかけた
『…やめてください、お母さん』
止めたのは奥さん
『信吾さんが見てるわ…』
そう言いお墓を見つめる奥さん
『……すっ……すみません……』
足が震えだし私は深々く頭を下げた
『…す…みま…せん……すみません……』
何度も何度も謝った
『……非常識者……』
小さく先生のお母さんが囁いた
そう…これがホントのこと
言われて当然のこと
私は
人のものを奪った非常識者
返す言葉がない…
『…花香…帰ろ…』
深くお辞儀をしてお墓をあとにした
『…愛美…大丈夫?』
花香が心配して声をかける
『…うん……大丈夫………なっ…なんかごめんね〜……巻き込んで…』
無理に笑って見せた
『…愛美……』
『…当然のことなんだよ……言われて……一生背負うの……』
歩きながら花香に伝えた
そう 一生償わなきゃいけないの
罪を犯したんだから
一生恨まれるの
―― 先生…
私が全て背負います
ちゃんとこれからも
家族に謝り続けます
謝っても許してもらえないだろうけど…
――――…………
翌朝…
いつものように大学に行く
ふとコートに手を入れると一枚の紙
昨日先生の奥さんが書いたメモ用紙
“渡したいものがあるの”
私に渡したいもの…?
気になった
『…愛美…行くの?』
花香が尋ねる
『…一応…行こうかな…』
メモ用紙を見ながら言った
『私もついて行こうか?……なんか心配だよ』
『……ううん……大丈夫…』
花香にこれ以上心配かけたくない…
講義が終わり行く準備をする
『…何かあったら連絡して?』
『…うん、ありがとう…行ってくるね』
笑顔で大学をあとにした
メモ用紙には住所が書いてある
調べてたどり着いた所はかわいいデザート屋さん
いかにも若者が来るであろうお店
お店の中に入りチラチラ周りを見る
『…東原さん!』
椅子に座ってる奥さんを見つけた
軽く礼をする
『…来てくれてありがとう……座って?』
そう言われ椅子に座った
『ここのパフェ美味しいのよ』
奥さんが言い店員にパフェを頼む
『…………昨日のこと……お母さんが言いすぎたと反省してたわ』
『…………。』
下を向き小さく首を振る
何も言葉が出ない私
『…渡したいものがあるって言ったわよね………これよ…』
そう言い奥さんはテーブルに袋を差し出す
『色々考えたの…考えて…考えて……やっぱりあなたに渡した方が言いと思って………開けてみて…』
奥さんを見る
目には涙が浮かんでいた
言われた通り袋を開けてみる
―――………
『…こっ……これ………』
震えながら私が手にしたもの……
『…すぐにわかったでしょ?……………旦那のジャージ…』
そう私が手にしたもの
私が追いかけた
すぐに見つけられた
先生の目印でもあった
……黒いジャージ……
そっと触れてみる
撫でてみる
私が愛した黒いジャージ
自然と涙が出た
『…黒いジャージしか着ないのよ…私が違う色買ってきても……黒が大好きだった……このジャージが一番お気に入りだった』
やっぱり…
どんな黒いジャージでも
このジャージは
先生に一番似合ってた
私もこのジャージが
一番好きだった
『……いいん…ですか?……ダメですよ…』
貰ってはいけない気がした
こんな大切なもの
私が貰う資格なんて…
『……貰ってほしい……前にも言った通り…彼が愛してたのはあなただわ。あなたに渡すべきだと思った……』
『…そっそんな……』
何も言えなくなった
泣くことしか出来なかった
『……遠慮なんてしないで……私自身バカなことをしてるって思ってる。ホントはあなたが憎いのに…恨んでるのに……こんなことして……。だけど…彼が愛してたのはあなたなの……私の勘でもなく……事実なことなの……』
その一言に奥さんを見る
『……事実…?』
『…そう、事実。まだあなたに1つだけ言ってなかったことある…………正直…言いたくなかったのかな……彼ね、いきなり…離婚してくれって…言ってきたことがあったの…』
手で口を抑える
止まらない涙
『…ふゆ……冬だったかな……ビックリしたわ。いきなりで……理由を聞いたら…守りたい人が出来たって。何言ってるか最初はわからなかったわ。何度も土下座して頼むってお願いして…しまいには…俺を殴れって。本気なんだってわかった。……だけど許せなかった。息子も居るし、夫婦も円満だったから。……誰なのって聞いても彼は答えなかった。あなたを守りたかったのね…………東原さん………はっきり言うわ……彼は…あなたとの未来を…考えてた……私に土下座してまで…息子を捨てようとしてまで…………彼は…あなたと一緒に居たいことを望んだ……彼の頭の中にはあなたしか居なかったのよ……』
テーブルにおでこをつけ泣き崩れる
――― 私との未来を考えていた…
一緒に居たいことを望んでた…
全て初めて聞く事実
『…くっ……くっ……バカ……』
出てきたのは先生に向けた言葉
『……だからあなたに渡そうって思った。持ってて…彼だと思って。』
そう言って席を立つ奥さん
『……あの!……』
席を立つ奥さんに声をかけようと思ったが言葉が見つからない…
『……彼を…愛してくれて…ありがとう……』
そう言い微笑みながらお店を出ていった
なんて素敵な奥さんなんだろう
先生と愛し合ってた奥さんだもんね…
パフェを頼んでくれたが食べる気になれず残して家に帰った
袋を両手で抱き締めて
中にはあなたが着ていたジャージ
あなたの温もりが伝わってくるジャージ
ソファーに座りゆっくりジャージを取り出す
『…先生……おかえり…』
抱き締めそっと呟く
先生の香り
目を瞑るとホントにあなたが居そうで愛しく感じる
『…大好き……大好きよ……』
そっとジャージに口づけした
『…これからはずっと…一緒…見守っててね』
そう言いながらジャージを着てみた…ブカブカだが暖かい…
そしてポケットに手を入れて窓の見る
『……んっ?』
ポケットの中から冷たいものが私の指にあたった
それを握りしめて
グーにしながら取り出して見てみる
手を開き
見てみた
『…………。』
私の手のひらにあるもの
『……ゆ…び……わ?…』
キラキラ輝く
プラチナのシルバーリング
指輪の内側を見てみる
『……う…そ……』
そこに彫られてある文字
“Shingo&Manami forever”
文字がだんだん涙でぼやけていく
『……んぇっ…くっ……』
そこには
先生の名前と
私の名前…
そして“永遠”と言う文字
震えながらそっと自分の左薬指にはめてみる
『……!……ぴっ…たり……』
いつサイズなんて調べたのか…確かに私の薬指にぴったり…はまった
『……あ゛ーっ////』
あなたに泣かされるのはこれで何度目?
そのまま床に座り込み
薬指を握りながら
泣き叫んだ…
―― まさか…
卒業式のとき……
今になって思い出す
卒業式に着てきたジャージは紛れもなくこのジャージ
私が勝手に別れ話だと決めつけて止めた…
ホントは違っていた…
先生は…
プロポーズしょうと思っていた…
全てが繋がった
バカだったのは…私だった……
『ごめん…ごめ……ごめんねぇ……』
ジャージの袖を掴み
涙がジャージに染み付く
その夜
ジャージに包まれながら
眠りについた
――――…………
翌朝
目が覚めたら
左薬指には冷たく光るもの
下には黒いジャージ
夢じゃない…
夢じゃなかった……
―― 先生…
ずっと私はあなたの
そばに居ていいんですか?
私が天国に行くまで
私はあなたのそばに
居ていいんですか?
あなたを愛し続けて
いいんですか?
こんな素敵なプレゼント
置いていかれたら
別の人と幸せになるなんて
出来ません……
『……行ってくるね…学校……』
ハンガーにジャージをかけ簡単にお化粧してリビングへ向かう
『おはよう!』
お母さんが朝御飯の準備をしていた
『…お母さん?…見て…』
そう言ってお母さんに左手を差し出す
『…どうしたの!それ!』
驚くお母さん
『…先生が…天国から届けてくれたの……』
指輪を触りながら微笑む
『…ぴったりじゃない…素敵よ…』
そう言って 私の頭を撫でるお母さん
独りじゃない
私は独りじゃない…
そうあなたが亡くなって
初めて感じた
『行ってきます!』
お母さんに伝える
これからは先生にも
“行ってきます”を…
先生が私の近くに居る
自然と笑顔になれた
――――………
『愛美!……おはよう!』
花香が笑顔で挨拶する
『おはようっ!』
満面の笑顔で…
何年ぶりかな……
『…愛美!…それっ!』
花香が私の左手を見て驚く
『……昨日ね、奥さんに会って……先生のジャージを貰ったの……そのポケットに……』
そう言い左手を花香に見せた
『…先生……まさか…』
花香が口を抑え涙する
静かにうなずいた
『…私…幸せ……』
そう言って笑ってみた
『…幸せそう…すんごく……いい顔してるよ、愛美……』
そう言って笑顔で私を抱き締めてくれた
――――…………
私の人生に
笑顔が戻った
太陽が戻った
あなたがそばに居ると
実感出来るものが
近くにある
“永遠の愛”を
誓える所に…
そして現在
一週間に一回
あなたのお墓に
お線香をあげてます
缶コーヒーを
あげてます
指輪を見せて
微笑んでいます
近状を必ず
報告しています
毎日…ジャージを見ながら
“愛してます”と
伝えています ……
これからも
ずっと…
永遠に……
あなただけを想っています
先生……
ずっと ずっと
一緒だよ……
これからも…
ずっと……
ちゃんと
捕まえててね
ちゃんと
見守っててね……
For ever ……
あなたの
“大きな背中”は
私だけのもの ……
END
読んでいただきありがとうございます。連載版よりもほぼ実話です。最近と現在のこと書いたのでとても書きやすかったです。私の歩んできた人生に苦言をお持ちのかたがいらっしゃると思いますが、私たちの愛の糸は切れません。永遠に。たくさんの後悔、たくさんの悲しみがありますがそれ以上にたくさんの幸せ、たくさんの愛を私は先生に貰いました。……これからもずっと……一緒なんです……。