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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
3章 幽霊たちの日常 ‐‐捨てられた場所で揺らめく光り‐‐
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中央 2

 白い石畳を歩きシェルター中枢の居住区画を進んでいた。


 外の乱立するビル群と違い、二人の背丈より高い切り整えられた針葉樹の刺々しい緑色の壁は行く先にどこまでも続いていて、どの家も木の品種が多少違う程度の差、分かれ道に立っている文字の禿げた看板は役には立たず今どこにいるのかわからない迷路を歩く。


「ここさっきも通らなかったか?」


 何度目かのアーチ状に作られた街路樹の下をくぐり、歩きながらセーギは白い息を吐きながら来た道を振り返る。


「いや、そんなことはないよ。あはは、同じような道は多いからね。大丈夫もうすぐ着くから」

「お前のすぐは、すぐじゃないだろ」


 緑の壁は高く、その向こうが見えないため、歩いても歩いてもただひたすら緑の壁が続く。

 初めは手を握るだけだったが途中で腕を組み鬱陶しく寄りかかり体重までセーギに預けるキンウ。


「でかい家なんだよな?」

「そうそう。お屋敷、ね」


 ようやく大きな建物らしいものが見てきたと思ったら、その建物は二階と三回は建物の様だった。

 しかし一階は太い柱が何本もあるだけの橋のようになっていて二人はその下をくぐりぬける。


「そんな大きなもの見えないんだけど」

「え、ちょっと何を言ってるかわからない? がぁ!?」


 含みも持たせた彼女の物言いに風呂に入るときと寝るとき以外は結びっぱなしの三つ編みを握って後ろへ引っ張る、すると彼女は変な声を上げた。


 後ろ髪の一部だけを切らずに伸ばしその部分を三つ編みに編んで肩に乗せるように前に持ってきて、小さな胸の前に持ってきて、その髪の一部だけを結んだそれをつかまれたキンウは嫌がってセーギから離れた。


「なに?」

「前々から思ってたけど変な髪型だなって思って」


 セーギから離れると自分の髪が変になっていないか手で触って確認する、何でもないとわかるとキンウは少し距離を取って並んで歩きだした。


「引っ張ったの痛かったか?」

「あんまり痛くはないけど、髪を触られるのは嫌。なんか……とりあえずよくわかんないけどなんか嫌」


 二人は緑の壁を抜ける、目の前には畑が広がりその向こうに大きな建物が見えた。


 二階建てで白塗りの屋敷。

 蔦のような装飾が外観の柱や壁すべてに施されていたようだったが風化して土埃などで薄茶色に汚れていて、子供の落書きらしきものもいたるところに見えた。


 屋敷の前はここまでの道のりと同じような石畳ははがされ、ネギやキャベツなどが区画分けされて植えられている。

 セーギの目は驚きと好奇心で輝いていた。


「畑か?」

「そりゃ、食べ物作らないと生きていけないからね」


「だからってなんでこんな場所に?」

「なんでそんなに驚いてるの? 作ってるのはここだけだよ、家庭菜園レベルの小さな畑。野菜の作り方知ってる人が少なくて、種も遠出してもらってきたの。この場所は泥棒からも守りやすいし……聞いてる?」


「地面に植わってるの初めて見た、俺の住んでたシェルターは工業系だったから畑なんてほとんどなかったんだよ」

「へー。あ、ちょっと待って」


 息を大きく吸い込んでキンウは後ろを向いた。


「ヒナー! おいでー」


 キンウは後ろとに向かって声を張る。

 すると二人が歩いてきた道から小さな影が小走りでやって来た。


 キンウの胸より下ほどの身長、幼さを持った顔の少女、コートに着いたフードを目深にかぶり、マフラーを巻いて泥だらけの大きな手袋をはめた、顔以外は完全防寒装備の子供。


 マフラーを巻いた少女はキンウの顔を見て首をかしげる。


「ん……えっと、なまえ……キンウ、だっけ?」


 小さな声で確認を取るとキンウは頷いた。


「そうそう、今はね。ただいま。ごめんね畑作業の途中だった?」


 キンウは少女に近づいていき抱きしめるとフードを外しその頭を撫でる、されるがまま少女は頬を赤く染め嬉しそうにしていた。


「だいじょぶ、皆でおやつ食べてたから。おかえり、そっちの人は?」

「今の家族」


 キンウがそういうと、ヒナと呼ばれたマフラーを巻いた少女はわかったと返事を返し来た道を戻っていった。


「変な誤解されるんじゃないのか?」

「いや、これであってる。暗号だよ、物騒だからね。いまので仕事仲間っていうと、脅されてここにきているこいつを殺せって意味になるから、セーギが死んじゃう」


 走り去る少女の腰にはキンウの持っている大きな黒いナイフがぶら下がっており、遠ざかっていく少女が道を曲がり見えなくなるまでいつまでもその存在感があった。


 セーギがキンウの方を向くとすでに彼女は畑の隅を歩き建物に向かって歩を進めていた、それを急いで追いかける。


「おい、今の子。お前の持ってるナイフと同じようなの持ってたぞ」

「あ、気が付いた? 私もここでもらったから、あの対人用のナイフと、あとセーギに渡したやつもだよ」


「危なくないのか? あんな子供に持たせておいて」

「逆だよ。普段から持たせておくし、使いこなす訓練もする。あれの使い方に慣れていないと襲われたらどうしようもなくなる。ここじゃ生体兵器だけが敵じゃないんだよ? 誘拐だってなんだってあるんだから」


「だったら今の子は一人でこんなとこふらふらしてんだ、その方が危ないだろ」

「ここは……ん、まぁいいや。とりあえず奥に行くよ。作物に手を出しちゃだめだよ、私でも頭が上がらないんだから」


 キンウについていき畑を通り抜け、目の前の大きな建物の中に入った。

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