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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
3章 幽霊たちの日常 ‐‐捨てられた場所で揺らめく光り‐‐
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報酬 2

 しばらくしてキンウが建物から出てくる。


 セーギは額を聞かされていないが大金。


 少なくともシェルターへの移住権を買い、しばらく堕落をして暮らすにも十分な額。


「終わったか」

「うん。全部、この決済カードに入ってる」


 厚さ2ミリ縦7センチ横3センチの黒い無地のカード、本来は色とか柄とかが入っているがそこから持ち主を特定されないようにするためだろう。


 彼女はそれをセーギに見せると胸ポケットにしまった。


「それでね、お願いがあるんだけど」


 急に彼女のまとっていた空気が変わる。


「このお金、全部私に頂戴」


 数秒、二人の間に無言の時間が過ぎた。


「なにいってんだ、おまえ」


 セーギがキンウに近づこうと一歩踏み出すと、彼女は大きな軍用ナイフを抜き取った。


 その刃は20センチくらいの黒く、食事用のとは違い大きく長く分厚い刃、上手く使えば腕を切り落すことのできる紛れもない対人用の武器。


 資料を取りに行ったときは車に置いてきてそれっきり存在を忘れていたものだったが、シェルターへ向かう移動中食事を取ろうとトランクを漁っていると偶然見つけたナイフ。


 彼女はそれをセーギに向ける。


「欲に目が眩んだか」

「……まあね。で、どうする? 私生体兵器は苦手だけど人間相手は得意だよ?」


 すでにキンウがセーギを見る目付きは敵対に変わっており、返事次第で彼女は飛びかかってくるようすだった。

 喧嘩で争った際、手加減をするほどの余裕を持っているキンウ。


「全部くれるなら、また一緒に暮らそうよ」

「それはここか別のシェルターで暮らすってことか?」


 表情も声も優しく問いかけてくるキンウ。

 普段の彼女を見ているセーギとしては違和感を覚えるほど印象が変わる。

 だが彼女がセーギに向けているのは大きなナイフ。


「ううん。またあの廃シェルターで、だよ」

「じゃあ、その金は何に使うんだ」


 あの廃棄されたシェルターで大金など使いようがないしシェルターでの暮らしを捨ててまで不便な生活を続ける理由がわからない。

 セーギはしまう気のナイフに対して一般兵時代に護身用として教え込まれた構えを取る。


「内緒。今は私の最も触れられたくない大事な物の為とだけ、答えとく。このお金、私にくれるなら教えてあげるけど」


 聞きたい答えが返ってこず若干不満そうなキンウ、腕が疲れてきたのか一度ナイフを下におろすが代わりにセーギを警戒し始める。


「何だよそれ、全然意味が分からん。大事な物ってなんで手元に置いておかないんだ、どんな奴だ、それと金どんな関係がある」

「内緒だってば、話聞いてた?」


 あらめて腕を上げると、黒い刃を確かめるように指先でナイフの背を撫でセーギに向けなおす。


「動かないで、それで返事は」

「嫌に決まってるだろ」


 セーギがそういうと彼女はゆっくりとナイフを胸元で構え姿勢を低くし彼に向かって駆け出す。


 一瞬で間合いを詰めたキンウは首を狙った回し蹴りをしセーギを掠める。

 ナイフでの攻撃が来ると思って刃先だけ見ていて避けるのが少し遅れた。


 話の途中、いきなりの攻撃てどうしていいかわからず、彼女のナイフに当たらないように躱し無力化する為セーギは仕方なく彼女を殴る。


 セーギの拳を見て躱しキンウは軽い身のこなしで数歩離れ体勢を立て直す。


 女性だからかキンウだからか殴るのにためらいがあって手を抜いたと言え、普通に当たってもおかしくない速度と距離だった。

 しかし彼女はセーギの拳を見てから避けた。


「おまえ、本当と何者だよ!」


 少し喧嘩慣れしたとも違う動き、一人で無法地帯を生き抜いてきた動き、普通なら逃げ切ることのできない生体兵器から隠れ逃げてきた一瞬で判断し最小限の動きで躱す無駄の少ない動き。


「私は私だよ、キンウ。偽名だけどね」


 一般兵もシェルター内勤務の際治安維持の為、気持ち程度に対人戦闘の訓練を受ける。


 しかし、それは対人戦闘の素人を無力化させる最低限の動き、キンウはその程度ではどうにもならないとセーギの危険センサーが警報を鳴らしていた。

 もっとも習ったのは外で生体兵器と戦う前のことで何となく体が覚えている程度のものなのだが。


 その後二度彼女はセーギに向かって飛んできた。

 蹴りを防御しナイフを命がけで躱す。

 取り押さえようにも彼女はすばしっこく逃げ指先は空をつかむだけだった。


 キンウは明らかに戦闘慣れしている、一撃一撃が体勢を崩し致命傷を与え殺しにかかってきている。

 殺意はなくキンウは全力でナイフを彼のギリギリの距離をかすめさせていた。

 セーギは全力を出せば相手にもならないほどの普通すぎるただの人、裏切り置き去りにしたことを深く攻めずにまた一緒にいる。

 ただ金が目当てで、仕事相手を知らないセーギは交渉し決済カードを持ってくるのを待っていて、それまで一緒にいる可能性もあったが半年間過ごして彼がそこまで賢くないのも知っている。


 半年間ほとんど同じ空間で暮らしていての彼女の知らない一面、正直何度か斬られてもおかしくない状態だったがキンウ自身も手を抜いてセーギと戦っていた。

 最後にもう一度首すれすれにナイフの刃を滑らせると距離をとる。


「考えは変わらない? 私はセーギ好きだよ。いやこんな私を助けてくれたから恩的なやつで好きなんだけど、このままお別れかな?」

「だからその金の目的を言えって」


「言えない。好きだけど、そこまで信頼してない。言ったらたぶん怒るよ?」


 セーギが一歩づつ移動し、乗ってきた軽装甲車を挟んで睨みあう。


 キンウは車を乗り越えセーギに傷をつけることは容易かったが、なるべくセーギを殺したくはなく、殺意を放ちながらも心の奥でよい返事を待っている。

 そのため彼女は好んで攻撃は仕掛けたくはなくただ返事を待つ。


 セーギはなぜそこまでして金にこだわるのかの答えを聞きたく、また対人戦闘に長けている彼女にこちらから攻撃を仕掛けるのは勝ち目がないと護身するために自分からは攻めずにいた。


 そのままお互いに動かず時間だけが過ぎる。


 お互いに戦闘態勢のまま無言で見つめ合って数分がたったころ、ぞろぞろと物陰から男たちが現れる。


 皆服装は統一されていなかったが頭や腕に、皆同じ迷彩柄のバンダナをつけていた。


「一般兵? ……違う。あはは、私と同業者か」

「あ? これあの地下で生体兵器に襲われていたやつらの仲間か?」


 キンウ、セーギ、お互いにお互いを視界に入れながらその後ろから現れた者たちを見る。


 その質問にリーダー格の男は答える。

 その彼だけ全身迷彩柄の服装で他のバンダナ男たちとは違う雰囲気をまとっていた。


「ここで待ち合わせしていた仲間は来ず、そこに現れたお前達。お前たちが書類を持っていることに気が付くのが遅れたが、お前たちが一体何を運んでいたのか、わかっているのか!」

「……? さぁね、紙だよ文字の書かれたそれ以外は必要ない、でしょ? 同業者さん」


「お前のような薄汚い子悪党と同じにするな。お前たちが運んだのはこれから先多くの人間を殺すことになる装置の設計図だ、お前たちが運んだことによって多くの人間が死ぬことにあるんだぞ」

「何の石灰図だろうが知らないよ。それに私たちとあなたたちに違いはないように見えるけど? あなたもこのお金がほしいんでしょ?」


 いらだっているのか強い口調で話しかけてくる迷彩服の男、だがキンウは聞く耳を持たない。


「お前たちのような、身勝手な奴らとは話しても無駄なようだ。これから先、数年後、お前たちのしたことで多くに人間が死ぬんだぞ!」


 そういうと迷彩服のリーダー格の男は下がり、代わりにバンダナ男たちは引きずってきた斧や鉄パイプを振り上げる。


「数は18名、鉄パイプとかの持ち方から剣術や槍術を習った様子はなし。できるのは適当に振り回す程度かな、どうするセーギ。一時休戦?」


 後ろに居る人数を含めどのタイミングで数えていたのかセーギに数と情報を渡すキンウ。


「だな、話が終わるまで死ぬなよ」

「あはは、それはそのままセーギに返すよ。というか流石に殺人級の犯罪はしないと思うよ、手足折られたりして捕まるって感じかな。シェルターの外に連れ出されたら生体兵器の餌にされるかもだけど」


 一時休戦とキンウとセーギはお互いに背を向けまずは目の前の厄介ごとを何とかするため身構える。


「女の方はあまり痛めつけるな、見ていた限り男より女の方が立場が上の様だ、聞きたいことがある。それにカードを持ってる、胸ポケットだ。シェルター内だから間違っても殺すな、女はカードがあるから回収するまで取り押さえて無力化しろ、男はどうでもいい」


 声を張ってリーダー格の男はほかの男に指示を伝える。


「カードを盗って聞きこととやらを聞いたら、その後この赤毛の女はどうする」

「好きにしろ」


 ヘヘヘと下品な笑いを浮かべ男たちが笑う、考えていることは同じようでリーダ各以外の男たちの彼女を見る目は等しく卑しい。


 彼らの腰にもエクエリがあった、迷彩柄のバンダナをつけていること以外服装は一般人のようだが態度からこの町に住む一般兵の様には見えない、キンウと同じようにシェルターに住まないもの、難民か傭兵のようだ。


 彼らのエクエリは腰に装備したままでそれを使う気はないらしい。


 シェルター内でエクエリの使用が禁止されているのと、やはり生体兵器を殺す為だけの武器というのがシェルターの中でも外でも同じ認識なのだろう。


「セーギ、出来ないと思うけど殺しちゃだめだよ。大怪我とかなら問題ないけど殺人級の問題を起こすと、場合にもよるしシェルターにもよるけど、王都の援助を受けているほとんどのシェルターには指名手配されて入れなくなるから」

「安心しろ殺す気はない。というより俺は身を守るので精一杯だ」


「心強い発言ありがとう、セーギ」


 男たちが一斉に動き出すとキンウが軽装甲車を乗り越えセーギの隣に立つ。


「へまして私が襲われたら、また助けてくれる?」


 ハンカチでナイフをいったん拭うとセーギに笑いかける。


「人間相手ならお前の方が強いんじゃないのか?」

「あはは」


 振り降ろすだけの武器を躱し、キンウは囲まれる前に男たちをすり抜け、股、脛と足に一文字を刻んでいく。


 悲鳴を上げ倒れていく男たちを振り返らず、キンウは囲まれないよう距離を取り次の男を狙う。


 セーギは最初に襲い掛かって来た男から鉄パイプを奪い冷静に振り回される武器を一つ一ついなす、彼女が戻ってきて彼に意識を向けていた男たちの足に傷をつけていく。


 男たちはセーギよりキンウの方が危険と判断し彼女を狙うが、キンウは囲まれる前に距離を取り追ってくる男たちを各個撃破していった。


 何度か彼女は鉄パイプに殴られはしていた、しかし強化繊維のコートと厚着した服でそれほどのダメージはないのかもしれない、だが手斧は何とか身をよじってよけていた。


 さすがに鉄パイプとは危険度が違うためだろう。


 あっという間にキンウがケリをつけ最後にリーダー格の男が残ったが彼は特に何もせず引いて行った。


「セーギ、話の続きは後。増援呼ばれる前にここから離れよう」


 走り去っていくリーダー格の男を追わずキンウはセーギのそばによる。


 建物の方が騒がしく、警備達がどこかと通信を取っていたり野次馬も集まり始めたため車に戻る。


「すぐに治安維持の一般兵と衛生兵が来る。傷は深くは斬ってないからすぐに手当てされれば失血死もしないよ、シェルターだから治療が速いしね」

「ああ」


 キンウが運転席に座りセーギは急いで回り込む。


 エンジンをかけ彼が乗ったことを確認すると、キンウはクラクションを鳴らして道を塞いで倒れている男たちに危険を知らせる。


 もちろん進路からいなくなるまで待ってあげる義理はなくキンウはアクセルを踏んだ、彼らは足を引きずって死にもの狂いで道を開ける。


 這って逃げる何人かの足に乗り上げはしたが、下から聞こえてくる悲痛な声を聞いてもキンウは表情一つ変えない。


「それでどこに行くんだ」


 一般道に出てシェルターの規則に従いゆったりと走るが、いつどこから襲ってくるかびくびくしながらシェルターの開閉門へと向かっていた。


「私たちの家に帰る、あそこなら彼らも追っては来られない」

「なんでそんなことが言える」


「下手に立派な武装した人が来ると、うちの貧しくたくましい人たちが装備を欲しがるから」

「俺らを探すどころの話じゃなくなるのか」


「そういうこと、それに広いから。私が決済カードを持ってるだなんて知らないし、みんなはこんなぼろ装甲車に乗った私に見向きもしないしね」

「それで、金の話……」


「いまその話したら、セーギこの寒空の下に置いて帰るからね」


 二人を乗せた軽装甲車はシェルターの外へ向かう。



 キンウと別れ資料の内容を流し読みをしようとテーブルに紙の束を置いていたカガリはその作業をやめタブレットを見ていた。


「すごい……というか強いですね。彼女、一方的な無双ゲー状態じゃないですか。さすが外で生きる人といったところ……気に入りました、ああいうのは駒としてほしいです」


 駐車場の映像を映したタブレットを置くと助手を連れ外に出る支度をするように指示を出した。

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