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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
3章 幽霊たちの日常 ‐‐捨てられた場所で揺らめく光り‐‐
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報酬 1

 夜間、明かりをつけて車を走らせるのは生体兵器に見つけてくれというようなもので、そのため近場の廃屋に車を隠しそのまま朝を待った。


「おはよ、セーギ」


 広いが物が多く圧迫感を感じる車内で白い息を吐き、身震いするとキンウは隣の座席で寝ているセーギを起こす。


 キンウの黒みがかった赤い髪が自分の血のように見えセーギは飛び起きる。


「んぁ……起きたか。どうだ、傷の具合?」

「傷? ああ、大丈夫痛まなかったよ、布団ありがとね」


 セーギが車を隠してから荷台から持ってきた毛布をかぶってキンウは顔を赤らめ恥ずかしそうに礼を言うと毛布にもぐっていった。


「そうか、傷は? 血は止まったか?」

「うん」


 布団をかぶったまま彼女は答えた。


「お前が寝てからは順調で、生体兵器との戦闘もなかった。ゆっくり走っても明日にはつきそうだ」

「そう、ならもう少しここで休もうか。もう目的の物も手に入れたし、急ぐこともないよ」


「ああ、そうだな。ん、じゃあなんで俺を起こした?」

「なんとなく、お礼言いたかったから」


「そういえば、この地図なんかおかしかったけどどういうことだ?」

「変? なにが」


「この地図、来た時通った道と違う道を通ってないか? 行くとき来た道はこんなに時間かからなかっただろ」


 結露を拭いて車内から外を見た景色は真っ白で、木も廃墟の瓦礫も道も純白でどこが正しい道だったのかわからなくなっていた。


 地図の通りに進もうにも目印となる物は丘だったり大きな廃屋だったりは雪山になっていて辛うじてわかる程度のものだった。


「ああ、うん。遠回りしてる、私たちを同じ考えしてたら私たちがやられるから。目的地のシェルターの門の数は8門あるし、大きいシェルターだからね。何も正直に一番近い門に向かうなんてことはしないよ」


 行くときに自分たちがやっていたシェルターの付近で待ち伏せを警戒しているのだろうが、向かうときの倍以上の時間がかかる道のりはセーギには過剰に思えていた。


「そうか、まぁそういうことはよくわかんねぇから任せる」

「うん」


 冷えてかかりの悪くあったエンジンを動かし、運転をキンウに変わると地図と雪の山との誤差を見比べながらシェルターを目指した。



 雪で細かい目印お発見できず、何度か道を間違えたものの無事にシェルターへとたどり着いた。


 道をを間違えたこともあり資料を狙う同業者に襲われることはなかった。


 途中生体兵器も何匹か見たが寒さで動きが鈍っていて、全速力で逃げれば余裕をもって安全に振り切れた。



 門を守る防衛班の一般兵に話しかけシェルターに入る。


 集まって来た一般兵の何人かはよそ者に不審な顔をしたが、コートの裏地につけていたシェルター発行のバッチ型の通行書を見せると二人は何のトラブルもなく門をくぐることが出来た。


「通行書、持ってたんだな」

「うん、まぁこれがないと、どこにも行けないからね」


 シェルター発行の通行書、特殊な加工の施されたバッチ。


 精鋭の持つ草花をかたどったバッチと同じで、シェルターの防壁をくぐるとき気が付かないうちにセンサーに当てられバッチの中に入った機械と反応することで通行を許可される。


 中に機械が入っているため偽造は容易で無なく、もしも偽物を持ってくると捕まり強制的に前線基地で働く一般兵となる。


 門の付近に作られた基地を抜けて市街地に入る。


 資材回収班や要人を他のシェルターに送り迎えするときにも使われる道は真っすぐ町の方へとつながっていた。


 廃シェルターと違い補正された道、ひび割れていない建物、満たされた表情の人々それを見たキンウは若干不愉快そうな顔をした。


「賑やかだな」

「そうだね。シェルターでここは技術系の中枢の一つだから、前線基地の密度も濃いし新技術の採用も速いから特定危険種が束になって襲ってこない限り壊されないよ。まぁ、それも精鋭のがいないことを前提とした話、精鋭が特定危険種を排除してくれるからそういうこともないし、ここはかなり安全」


 セーギに返事を返しながら窓の外をぼんやりと眺めるキンウ。


「あのシェルターは精鋭がいなかったのか?」

「いたよ、防壁前に防衛線を張ってそこで食い止める予定だったらしい。でも、その作戦は失敗、大失敗。生体兵器はシェルターに侵入建物を破壊し人を襲い、シェルターを放棄することになった」


「怒ってたり恨んでる?」

「いやいや、所詮人だから。できることとできないことはあるよ、自分ができないのに無理な期待を押し付けちゃいけないよ。生体兵器は怖いもの、その怖さは私なんかより実際に戦ってるセーギの方が知ってるんじゃない? あ、そこ右ね」


 そうしてたどり着いた建物。

 植えられている木々は整えられ門や柱など装飾にこだわりのある、シェルターでも価値の高い人が使う建物。


「ここで待っててね」


 地下にある駐車場に車を止めるとキンウはアタッシュケースを持って車を降りる。


「ああ、一人で大丈夫か?」

「王都の人だからね、ちょっとセーギは……顔というか隈がね。大丈夫、用が済んだからって殺されたいはしないよ」


 セーギを車に残しキンウは建物へと向かう。



 建物の前で連絡を取ってもらい雇い主を呼んで貰う。

 というのもキンウの身なりはひどく汚く建物に入る前に近寄っただけで警備に止められた。


 建物の移動も警備をつけられキンウは建物の廊下を居心地の悪いまま歩いていると、進行方向から廊下の窓から差し込む太陽の光をキラキラを反射させる艶やかな長い髪の女性がキンウを迎えにきた。



 筋肉の乏しいほっそりとした体つきだったが、彼女の身に着けているのものはローブような強化繊維で出来た服でキンウは一目で彼女が精鋭だと理解する。


 しかし纏っている空気が今まで見たことのある精鋭とは違い気品さがあり、戦う戦士というより昔見た上流階級者という印象を受けたが、何かしらの罠などを張ってエクエリを用いたりしない戦い方で生体兵器を倒す精鋭なのだろうとキンウは自己判断した。


 案内された部屋はキンウとセーギが暮らすビルのオフィスを改造した部屋より広く天井も高い。


 廊下を歩いていくと花の入っていなに壺や何が書いてあるかわからない絵などがある。

 それは目に入るすべてのものが自分の部屋にあるガラクタの山より価値があることはわかる。


 部屋には彼女と同じようなローブを着た女性がいてそちらも先ほどと同じ印象を受け彼女の仲間だと判断した。


 自室の布団より柔らかい絨毯を踏みつけ中央に高価そうなテーブルの置かれたソファーまで案内される。


「初めまして、王都直属第一班シュゴウベニ直属対生体兵器技術開発者、ツタウルシ・カガリです。あまり会うこともないでしょうがお見知りおきを。あなた達の様な人たちを使うのは今回が初めて手よくわからないのですが、この場合、名前は聞かない方がよろしいのですよね?」


 カガリは相手に侮ってもらうため嘘を言う。


 相手は一般兵でも精鋭でも市民でもない、楽して生きるため大金に目がくらんだシェルターで暮らすことの許されない悪党、意地汚いであろう彼女を持ち込んだ資料の価値から気をそらす。


 カガリは手を伸ばし握手をしようとする。


 部屋に入ったときから周囲を警戒していたキンウは突然差し出された手に大きく驚き小さく悲鳴を上げる。


 二人の間に奇妙な沈黙の時間ができる。


「……別にどっちでもいいですよ、どうせ偽名をこたえますから」


 気を取り直しお互いに微笑みあいながら握手をする。


 しかしお互いに心の底から仲良くする気はなくカガリはその資料を早く渡してもらうため、キンウは大金が本物かセーギには大丈夫と言ったが殺されたりしないかを警戒しながら話を進める。


「そうですか。まぁ自己紹介は省いて要件に入りましょう。そのアタッシュケースが目的の物ですか?」


 膝の上に抱え込むようにアタッシュケースを持つ。


 カガリは愛おしそうにキンウの持つアタッシュケースを見る。

 その試験に気が付きキンウは指先に力が入る。


「はい、そうです。でもこれを渡す前にお金の方を」

「いいえ、まずは資料が全部そろっているか見せてください。資料が欠けているのに報酬を渡した途端に逃げられると追いかけるのが大変ですから」


「確かに……そういうことなら、まぁ」


 そういうと渋々キンウは抱え込んだアタッシュケースを開け中身を渡す。


 ソファーに腰かけるカガリの後ろに立っていた彼女の助手が、資料を受け取り少し離れたところで一枚一枚本物、欠落がないかどうか確認していく。


 若干時間がかかりそうだったのでカガリはキンウに話しかける。


「待っている間に、少しお食事でもどう? このシェルターで一番いいものを取り寄せたのですけど」

「薬とか混ぜられてると困るからいらないです」


 キンウはきっぱりと断る。


「ふふっ。警戒心が強いのね、そんなことはしないのに。そうそう、この駐車場に居るのはあなたの思い人?」

「え、突然何の話ですか?」


 そういってカガリは持っていたタブレットをキンウに見せる。


 そこには駐車場ででキンウの帰りを待つセーギが映っている。


「外の監視カメラに写っている、この彼……隈? 大丈夫、彼ちゃんと寝てる? 彼に休暇はあるの?」


 セーギは映像の中で見られていることに気が付かないまま退屈そうに欠伸している。


「……何かする気」


 キンウは身構え室内にいる人間をどれくらいの時間で倒せるかを考える。


 相手が武術等をやっていなければ倒せるなと、距離と動作を注意深く観察しながら部屋をそれとなく見渡すと正面に座るカガリを見た。


「何もしません、誤解しないでください。ただ見ているだけです。彼、やけにがっしりとした体つきね、シェルターの重労働に自棄のさした一般兵崩れ? 一般兵は命がけのわりにお給金が割に合わないから」

「さあね、お互いに過去は聞かないし触れないようにしてるから」


 キンウの反応を笑って観察するカガリ。


 なぜ彼に興味を抱いたのか不審に思いながらもキンウは表情を崩さない。


「で、改めて聞くけど、この彼はあなたの思い人?」

「仕事仲間、それだけです」


 カガリは画面に映るセーギと向かいに座るキンウの微々たる動揺を交互に見比べてクスクスと笑う。


 それにキンウは強い不快感を覚える。


「ふふっ、そうなの。素直じゃないのね」

「あなたに関係ないでしょ」


「そうね、ごめんなさい。治そうとは思っているのだけど、むきになる人をからかう癖がついつい」

「ほんと直した方がいいと思いますよ」


 カガリの助手が彼女のそばまでやってきて何やら耳打ちをする。


「そう、わかった」


 助手から話を聞くと、すぐ助手を手で払いカガリはモニターを消すとキンウの方を向く。


「書類は確かに。これが報酬になります。ごめんなさいね、少し急ぎの用ができてしまって。また会う機会があったら、ご飯でもご一緒しましょう。さぁ、これを。お約束の報酬です」


 そういうとカガリは黒いカードをキンウに差し出す。


「ありがとうございます……」


 それを素早く受け取ると胸ポケットにしまい、足早に出ていこうとするキンウに向かって。


「あとは人の恋にちょっかいを出す癖も直さないといけないんでした」


 そうカガリはつづけた。

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