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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
3章 幽霊たちの日常 ‐‐捨てられた場所で揺らめく光り‐‐
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逃げる 2

 ――彼をおいて行くのに躊躇いはなかった。最初からそのつもりだったし。


 キンウの背中、閉じた鉄の扉の向こうから怒号が聞こえる。


 ――大声出しても生体兵器を集めるだけだよ、せーぎ。


 扉に内側から鍵をかけ、隅に置いてあった廃材で扉をしっかりと埋めている。

 向こうから推すこちらから引く鉄の扉は叩こうが騒ごうが開く気配がない。


 ――これでよほどのことがない限り向こうからは開けられないだろう。どう頑張っても。


 廃材にもたれかかり、一度大きく息を吸い、吐く。気持ちを切り替える。


 そのあとは、ただ自分に暗示をかける。


 走れと、階段を全力で。

 走れと、決して後ろを振り返るな。

 走れと、生体兵器が囮に夢中なうちに。

 走れと、助けに戻るとか考えるな。

 走れと、安全な地上まで。


 自身に暗示をかけ終わるとキンウはケースを脇に抱え、つかんだ手すりを軸に地下二階の踊り場を曲がる。


 ――いやぁ、セーギ、怒ってるだろうな、きっと。たぶん、昨日、血の臭いとかで追ってくるとかを考慮して、わざと怪我させたのとかは気が付いていないだろうけど。


 ――ん、怒るのかな? 恨むのかな? 化けて出てほしくはないね、仕方ないさ、私が、一番生き残る確率の高い手段を取っただけなんだから。


 ――でも、まだこれだけじゃ安全じゃないし、階段は一つじゃない、別ルートから生体兵器が上がってくる前にここから離れないと。


 ――生体兵器の縄張りだとしたら住処から出ていけば、おそらくは必要に追ってこないだろう……。


 ――本来の目標、資料を持ちかえる。仕事の達成。それ以外は考えなくていい。


 キンウはアタッシュケースを握りなおしゆっくりと進みだした。



 キンウに置いて行かれ鉄の扉の向こうセーギは、扉から離れ生体兵器にから逃げていた。


 帰り道をキンウにふさがれた、別の階段を捜すため障害物だらけの通路を走る。


 ――もう一か所、この建物には上につながる階段はあるはずだ。


 ――だが、その方向から生体兵器がやってきているわけで、そこを強行突破はまず無理だ。


 最短ルートに生体兵器がわんさかいるので、遠回りをして反対側に行きつく必要があるのだが、その道には足元のゴミやガラス片が走る妨げになっている。部屋の中をとおってもよかったのだが部屋に鍵がかかっていたらそれで終わりだ。


「ったく、走りづらいな!」


 崩れた荷物を飛び越え踏み越えながらもその足は前に進む。


 そうしている間にも生体兵器は壁や天井をよじ登り、這って真っ直ぐこちらに向かってくる。


 ――本当にやばいな、このままだと追いつかれる。


 ペンライトで後ろを照らすと生体兵器がもう5メートルの距離もなかった。


 物は試しに生体兵器の目に光を当ててみたが、ほんの一瞬だけ怯んだだけでその後またすぐ襲ってきた。


 ――駄目だ、光、目つぶしでも足止めにもならない。


 壁に寄せられていた荷物などを倒し少しでも時間を稼ごうとする。


 片手にエクエリ、顔は正面と足元後方の生体兵器を順にみて余った手で手探りでキンウの肩掛けカバンを調べるとペンや手帳のほかに発煙筒や爆薬が入っていた。


 爆薬。


 キンウが爆薬といっていた黒い塊と取り出す。


 ――そういえば、これがあったか、天井とか壁と壁とか崩せれば……って使えないけどもさぁ。


 リモコンの方も取り出してみる。


 精鋭が持っているはずの携帯端末。


 ほとんどの機能は止められてはいるが、これもどこからか手に入れた物なのだろう。


 画面にひびが入っているがそれは動いた。

 小さい字で操作方法が詳細に書かれたメモが端末の裏に張り付けてあった。


 ――不幸中の幸い、止まって読む時間さえあれば爆弾使えそうだな、メモがあって助かった、あいつ気が利くじゃないか。……ん? あいつが元凶なのに感謝してどうするよ。……これで書いてあることがこの爆薬と関係ない事だったらどうするか……。


 走りながらそんなことを考えていると、汗で懐炉が剥がれ落ちた。


 別に今更寒くもなんともない。

 体は命がけのランニングで健康と不健康な汗を大量にかくほど温まっている。


 すると生体兵器が剥がれ落ちた懐炉に群がった。


 暗闇に特化した生体兵器は、目ではなく鼻と熱を感知することに特化していたそのため、完全な暗闇でも汗と体温を追って行動することができるようだ。



 逃げていくセーギより、生体兵器達は目の前の汗を吸った懐炉に飛びついた。


 ――よくわからんが、今のうちに逃げるべきだよな。


 残った力を振り絞りキンウに閉められた扉とは反対側の階段にたどり着く、階段や廊下のあちこちに天井の明かりより明るく光る棒が落ちていた。


 先に来ていた迷彩柄の車の持ち主たちだろう。


 光る時間が何時間くらい持つか知らないがとりあえず明るい。


 ――……なんだっけこれ……サイリウム……だっけか、眩しい位に光るな。


 逃げながら手にしているペンライトの灯りより明るいので、落ちていた一つを灯り用に手に取り、ペンライトをカバンにしまう。


 ついでにこちら側の鉄の扉も閉めた。


 ――これでやつらは上がってこれない、たとえ扉を無理に開けようとしてもそこそこの時間稼ぎにはなるだろう……。


 扉にもたれかかり一息つく。


「よっしゃぁ! 逃げきったぜ! これならしばらく追ってこられないだろ。今のうちに爆薬仕掛けて、起爆方法も読んでおかないとな、扉があいても、階段ごと埋めてやるぜ、化け物どもめ!」


 そして障害物をよけながら全力疾走で走ったため、壁や手すりを支えにくたくたになりながら螺旋階段を登り心の中で勝利の声を上げ続けた。


 後ろから以前生体兵器が追ってきているのは間違いないが。

 ガンガンと鉄の扉を叩かれると後ろから笑い声のような鳴声が聞こえ始めた。


 必死に逃げてた時と違い、落ち着いた今、セーギに多少の思考力が戻ってくる。


 ――さっき懐炉に集ってたな……熱にでもよって来るのか?


 ――まぁ、それだけで追ってくるほど単純でもないか。


 鞄から真っ黒な4角形の積み木のような形の爆薬を何も考えず、ついていたスイッチを押し適当に投げ捨てていく。


 スイッチを押しただけでは爆発はしなかった。

 青いランプが点滅し、転がった先で止まる。


 鞄の中の全部の爆薬を投げ捨てたところでリモコンを取り出す。


 手すりにつかまりながら、足元に注意しながら上を目指す。


 ――えっとーなになに、セットした番号と同じ……え、番号?


 何も考えずとりあえず放って投げた爆薬、思わず階段の手すりから下の階を見る。

 誰かの置いて行った棒状の明かりに照らされ十近くの青いランプが一定のリズムで点滅していた。


 ほとんど前の見えない暗い通路を、来たときの記憶を頼りに進む。



 セーギが地下を走っているころキンウが何事もなく建物を出る。

 外は白い雪が1センチ余りぐらい積もっていた。


 ここまでくれば大丈夫と安堵し、ため息交じりに白い息を吐き、空を見上げる。


 走ってきたので一層白い息が上がる。

 時間差で汗が流れ出てきていた。


「ふぅ、うっすらだけど、積もったなー。あーあ…残念。……運が良ければ帰って来るかな……」


 もう一度、今度は大きくため息をつき誰に向かって言うわけでもなくつぶやく。


 数歩歩いて建物を振り返る。

 誰も来ないことを確認すると新雪をふみ真っ直ぐ車に向かう。


 車に戻ってきた、扉はロック開いていて運転席側から乗車する。


 服と頭についた雪を払い、助手席にアタッシュケースを置いた。


 来るときに自分の座っていた座席から水筒を取りだして水を飲むと一息つき、車のドア閉めた。


「早く、帰ろう……」


 エンジンをかけようとキーに手を伸ばす。


 そこで車に刺さっていると思っていたキーがないことに気が付いた。


 車の中をあちこち捜したが見つからなかった。


「ないっ、鍵が……えっ、そんな……。セーギ、鍵、抜いちゃったんだ……しかもたぶん持ってる……」


 前髪をつかみ、小さく舌打ちをしてハンドルを叩く。


「どうする……」


 どっかの線を繋ぐかぶつけるかして、無理やりエンジンを動かす方法があるらしいがキンウはなにをどれをどうすればいいのか知らない。


 ――このままここにいても仕方がない、どうにかしてここから移動しないと。


 上がった体温が下がりはじめ、汗が冷えはじめる。


 しばらくして、アタッシュケースを持ち動かない車を降りた。


 そして、横一列に並んだ迷彩柄の車列に目をやった。


「あっちの車には、鍵がついてるのはあるかな?」

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