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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
3章 幽霊たちの日常 ‐‐捨てられた場所で揺らめく光り‐‐
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逃げる 1

 部屋の大きさは先ほどと同じ、だがどうやらこの部屋があたりのようだ。

 悪い意味でだが。


 部屋の中は全ての電球が完全に割れていて、部屋の中を照らすのは廊下からの光とペンライトの光だけが頼りで部屋の中は薄暗く、はっきりと部屋の端までは見えないが凄惨な部屋だった。


 床も壁も机も棚も光が当たっている場所は全て乾いた赤黒い血で彩られ、天井にもかなりの量が飛び散っていた。

 その血の元凶はこの部屋にはない。


 部屋の奥にもう一つ扉が見えおそらくは隣の部屋とつながっているんだろう。


 床に本が落ちて空になった本棚や半開きの金庫があったが、乾いた血だらけの床に合わない迷彩模様のアタッシュケースが置いてあった。


 生体兵器の攻撃もある程度防げる防弾加工された真新しいゴツゴツしたアタッシュケース。


 部屋中に散らばる血の飛び散った跡を見て、一瞬キンウがヒッと声を上げ動きが止まったが、すぐにペンライトをセーギに押し付けアタッシュケースに駆け足で向かい拾い上げると廊下側の明かりに照らし、止金を外してケースを開けしまってあった中身を確認する。


「これ全部血か、ひでぇな何人、何匹分だよ……生体兵器と闘ったあとか?」


 セーギはキンウから受け取ったペンライトで部屋のあちこち照らした。


 天井や壁に飛び散った血は固まっていたものの床の一部にはまだべとべとした状態の血だまりがあり、それを踏んでセーギは危うく転ぶところだった。


 キンウがアタッシュケースに夢中になっている間、反対の部屋の隅に捨てられたようにおかれたビデオカメラを見つけた。


 それは、録画ボタンが押されていて赤いランプがついており、今も録画していた。


「なぁ、これなんだと思う?」

「この資料と……灯台計画、えっと、セーギ……ちょっと待って、枚数確認してから……」


 キンウは手一杯の様でセーギは適当にいじることにした。


 使い方はわからないが、拾い上げてボタンと適当に押してみる。


「隠しカメラで観察☆お化け屋敷ドッキリでしたーってされたら、容赦しないからな」

「横からごちゃごちゃ五月蠅い! すぐ終わらせるから、話は後でね……」


 睨まれキンウにすごい剣幕で一括され、セーギはびくりと身を震わせた。


「怒鳴るなよ、びっくりした。お、動いた」


 適当にいじったら、どうにか再生ボタンを押せたらしく、録画された映像が再生された。

 別のボタンも押したのか、早回しではあったが。


 映された映像は空の見える外で、10名以上で相談をしているような場面から始まった。

 その後の映像でこの施設の駐車場からの映像だとわかった。


 迷彩柄の車両から、さらに人が数人下りてくる。

 最終的にはカメラに映った人物たちは30名近くになった。


 早回しのため音声は再生されなかったが、トラックから武器を取り出すしばらく準備をしている映像が続く。

 画面端にチラッとだが今キンウがいじっている迷彩柄の防弾のアタッシュケースが映った。


「なぁ、たぶん、先に来たやつらの映像があったんだが、これってやばくないか」


 キンウは何らかの紙を数える作業に忙しいらしく反応がない。


 セーギはカメラに目を戻すと地下に進んでいる最中で、電気もつけずにエクエリの先端に取り付けたライトだけで暗闇をセーギたちが先ほど来た道とは別ルートで進んでいる。


「よし、全部あった、とっとと帰ろう。ん、セーギ、どうしたのそれ?」

「そこに落ちてた」


 キンウの手にはアタッシュケースが力強く握られていて持っていない方の手でセーギの袖を引っ張っていた。


「早回しじゃん、ここ押すと戻るよ」


 キンウがカメラの端っこのボタンを押したら、通常再生になり音声が再生された。


 頭が当たるか当たらないかの距離でカメラを覗き込み二人で続きを見る。

 音声は音が悪く誰が喋っているかわからないが映像を見る分には構わなかった。


[……を開けるぞ。3,2,1、行け]

[室内、天井異常なし]

[廊下奥異常なし]

[目的の物発見!]


 フム? と首をかしげ、キンウは手にした血まみれのアタッシュケースを見た。


 映像は金庫を開けるのと周囲を警戒する二班になって、金庫が開くと目的のものを手分けして確認し整頓してからアタッシュケースに詰める。


[目標、全てありました]

[よし、目標確保!]

【帰ろう】

【ふふん、簡単だったね】

【それ。今ここで焼かなくていいんですか?】

 [いや、これを探していいるものを見つけ出すために必要だ]

【これを餌に奴らをおびき出すんですね】

【ああ、そうだ。あの外道……】

【おい待て何か聞こえたぞ】

[……ハハ]

[なんだ?]

[敵襲! 奥の部屋にいるぞ!]

【生体兵器だ!】

[……ハハ]

[急いで戻るぞ、ここを出ると追ってこないはずだ]

[なんだこいつら、クソッ]

[回収完了、早く]

[撤収!]

[ハハハハ]

[ハハハハ]

[ハハハハ]

[ハハハハ]


 思わず二人は扉の方に目をやる。


 全く気にしていなかったが二人は入ってきた入口とはもう一つに、奥の部屋に向かって何かを引きずった跡が続く。


「なんか、やばくね?」

「確かに……そろそろ、行こうか。こんな場所に長居するべきじゃないし」


 急に手元が騒がしくなった。


【逃げ】

 ザッ

[あハハああ]

【走っ】

 ザザザッ

[キャァ]

[ハああ]

 ザザッ、ガッガシャッ


 そして、雑音交じりの音声は続くが、部屋の一点を映し映像は動かなくなる。


 神経を集中させ周りを警戒するキンウと、ビデオカメラをポケットにしまいエクエリを構えるセーギ。


 今更だが足音を立てないようにそっと歩き出す。


「書類もサンプルも全部あったし無事だった。さっ帰るよ」


 震える声をできるだけ小さくして会話を続ける。


「そのケース、俺が持つか?」

「じゃあ、私の鞄持ってて」


 アタッシュケースを置き、肩掛けのカバンを外してセーギに渡す。


「私がこっちを持つ、こっち変わりに持ってて」

「別にどっちだもいいけど」


 セーギが鞄を持つとキンウはアタッシュケースを持ちあげ部屋を出ようと廊下に向かう。


「この後は?」

「とりあえず全力で駐車場まで走っ……」


 ハハハハ


 ドアに手を掛け、二人が部屋から出ようとしたとき、向かい側の扉から野太いおっさんの笑い声が聞こえた。

 映像と違う点はその声には耳鳴りのようなキーンという耳障りな高い音が混じっていた。


 二人はこれが何の声かは考えるまでもなかった。

 つい数十秒前まで見ていた映像に録音されていた声だ。


 これが何をつまり意味するか。


 生体兵器との戦闘、用途に応じて多種多様に作られたただ縄張りを広げ、腹を満たすために殺すことだけを目的とする食物連鎖の当り前を取り込んだ兵器、それに情も情けもない。


 逃げてもすぐに追いつかれ、戦うにしても強靭な皮や鱗は対人兵器では大したダメージを与えることもできない。


 ハハハハ、ハハハハ


 笑い声らしいものの数が増えた。


 ゆっくりと向かい側のドアが開く、反対側の灰色の醜い頭が扉の端からこちらを覗く。


 生体兵器は体は猿のようだが頭は豚のような鼻と正面を向いて三角形に尖がった耳、灰色の毛むくじゃらはネズミを大きくさせたようにも見える。

 真っ黒な目玉は光を飲み込み穴の開いた暗闇が広がっているように見えた。


「もたもたすんな、走れキンウ!」


 竦んでいたキンウを廊下に引っ張りだし、セーギはエクエリの標準を生体兵器に合わせ引き金を引いた。


 銃口の先端が赤く光り、閃光と共に光の弾丸が生体兵器に向かって飛んでいく。


 エクエリはほとんど射撃時には音は出ないが耳が痛くなるような静寂の中では多少大きく響いた。


 生体兵器の頭がエクエリから放たれた眩しい光りと共に消え、残された体はその場に力なく倒れた。


 セーギは生体兵器に狙いつける集中力で袖を引っ張られるまで気が付かなかったが、生体兵器を見つめたまま力ない声でキンウが呼んでいる。


「……ギ、……セイ……、ねぇ、セイギ。少しだけ時間稼いで。今なんか考える、何とかするから」

「おう、わかった、なんか策があるのか? 時間稼ぎはやれるだけやってみるさ。早くしろよ」


 一匹倒してもそのあとから数匹、部屋に入ってきた生体兵器達は、壁も天井も這いつくようにお構いなしでやってくる。

 足の裏に鉤爪か吸盤のような何かがあるのだろう。


 もう一度エクエリを構え引き金を引いた。


 が先ほどの光が出ない。


「壊れてんのか!?」

「だーから、連射できないんだってば! エクエリの側面についたランプが赤く光ったら打てるようになるよ!」


 部屋の外に出て行ったキンウ言われてエクエリの側面を見るとエクエリの側面についた横棒のメモリが緑色に点滅していた。

 一秒に一本ずつ横棒のメモリが色づいていきメモリ全てが緑色になると緑色の光は赤く光が変わった。


 本当に一発撃つまでに時間がかかる初期の初期のエクエリ。


 一般兵時代だった時に使っていたエクエリとの違いに、戸惑い苛立ちを覚えながらもセーギは生体兵器に狙いをつける。


 最初は3匹ほどだったが、今は7匹ほどに増えている。

 この様子だとまだ増えるだろうセーギはエクエリを構え、じりじり下がりながら生体兵器を2匹ほど倒した。


 どうやら今相手をしている生体兵器はまだ成体ではないようで俊敏さも頑丈さもなかった。


 しかし数は多く苦労して倒したそばから、その倍くらいの数が奥から現れる。


 猿のような体つきの4足歩行の割には後ろ脚が前足より異様に大きい。


「カエルかバッタみたいに飛びついてくるのか……射程内入ったら一斉に飛びかかって来るぞ、こいつら……」


 独り言のようにつぶやくとセーギはどこかに行ったキンウに向かって叫んだ。


「おい、もう持たないぞ!」

「じゃぁ、もう十秒くらいだけ粘って!」


 廊下の奥からキンウの声が帰って来る。


「それが限界だからな」


 おっさんの笑い声みたいな鳴声を鳴らしながら、切れかけた電球に照らされた真っ黒なビー玉みたいな小さい目を光らせ、不気味な生体兵器はジリジリと近づいてくる。


 奥の扉から次から次へと出てくる。


 ちょっと空いていた気づいた時にしっかりと閉めておけばよかったと後悔する。


「これどうどうすんだ? なんかうじゃうじゃ出てくるぞ!!」


 生体兵器を牽制しながら隙をついて一瞬だけ後ろ振り返ると、そこにキンウの姿はなかった。


 一瞬ほかの部屋に入って何かを取りに行っているのだと思ったが、策があるにしてもそろそろ何か起きていいはずだ、セーギの額に汗が流れる。


「まさか!」


 嫌な予感がする。


 再び生体兵器と向かい合いチャージを終えたエクエリを一番近くにいた生体兵器に撃つ。


 それとほぼ同じくらいにどこかでガシャンと鉄の扉が閉まる音が聞こえた。


 この階にある鉄の扉は階段の出入口のみだったはず、残りはすべて木製、セーギはその音を聞いて一気に脂汗が出る。


「あいつ、マジでにげやがったのか!!」


 生体兵器は蜂の巣を突いたように次から次へと湧いて出てくる、一斉に飛びかかられたらひとたまりもない数にまで増えた生体兵器を目にし、いなくなったキンウに向かって怒鳴る。


 7秒に一発しか打てないので、近寄られたら2匹の時点でどうしようもないのだが何とか持ちこたえてきたがそれも終わり。


 今いた部屋の扉を閉め来るときに使った上に上る階段に向かうが、残念なことに階段の扉は固く閉ざされていた。

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