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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
3章 幽霊たちの日常 ‐‐捨てられた場所で揺らめく光り‐‐
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廃基地 3

 外観だけでなく建物の中もコンクリート造りのようで、隠す気のないパイプやケーブルの類がむき出しの状態。

 壁や天井はそれらでほとんど見えなかった、やや道は広いが船の中を思わせるような圧迫感がある。


「入り口にトラップなーし。敵らしきものなーし」

「暗いな、電気系統は生きてないのか?」


「そーらーはつでん? とかなんかだったから、溜めておく蓄電池みたいなのが壊れて無ければ使えるはずだけど……ここから撤収するときか、ここの売れそうなものをあさった私達みたいなのが持っていったんじゃないかな、精密機器何なんて貴重なものだし」

「まず、明かりのボタンどこだよ」


「その辺の壁についてないの?」


 キンウから借りたエクエリを構え、普段歩くスピードの半分以下の速度で進む。


 数歩先を進んでいたキンウが通路の端でしゃがみこみ、なにやら指でつまみ拾い上げた。


「あはは、生体兵器の物らしい、毛、発見した」

「やっぱいるよな。誰かのカツラの破片とかじゃないのか」


「こんな汚くてとげとげしたカツラ、誰が使うのさ」

「まぁ、そうだよな」


 キンウが持っていた毛を捨て、その手をセーギの服にこすり付ける。


「俺に服で拭くな」

「あ、そうそう、言い忘れたけど、セーギの持ってるエクエリは、トリガー引いても弾丸発射までにチャージに2秒かかるから。発射、ぎゅーん、バーンって感じに」


「は? 旧型かこれ、何十年昔のだよ。やつらに囲まれたら役に立たないじゃん」

「骨董品だからね、最近のモデルなんか市場に出回るわけないじゃん」


 セーギは手にした銃を銃身の太い長方形の銃を見る。


 旧型の中古品とはいえ、生体兵器から身を守る者はこれしかない。


「そして、冷却に5秒かかる。だから合計7秒に一発しか打てないから注意してね」

「だから、生体兵器が複数出てきたら、ほぼ役に立たないじゃないかよ」


「いざとなったら私、セーギおいて逃げるから! 胸を張れるような立派な囮になってね!」

「お前も何とかして戦え」


 結局、その場の壁一帯を捜したが、天井の電気のスイッチを見つけることはできなかった。


 仕方なく二人は奥へと進む。

 奥は暗くキンウはペンライトを取りだしあたりを照らした。


「暗いね」

「暗いな。他に灯りにないのかランプとか松明とか? 車の中か?」


 ペンライトの灯りはものすごく明るいがその灯りの円の外は漆黒の闇。


「あはは、持ってきた灯りはこれだけ、完全に準備不足」

「使えねぇ」


 暗闇に完全に腰が引けてるキンウ。

 おそらくは暗いところではなく生体兵器に恐れをなしているのだろう彼女が今、脅かしたら面白いだろうが今はそういう時ではないとセーギは内に秘める悪戯心を封じ込めた。


 外からさす光りが届かなくなる位置まで来ると、キンウがピタリと立ち止まる。


「何してる、何かあったか? ほら行くぞ。すすめ」

「先行ってよ」


「じゃあ、その、明かりを渡せ」

「やだよ、何で渡さなきゃならないの」


 子供のような駄々をこねるキンウは顔色が悪く、今にも泣きそうな感じだった。


「暗いとこが怖いのか?」

「生体兵器が怖いの!」


「明かりはお前に任せるからちゃんと照らせ。光を揺らすな」

「寒くて指が震えるの」


 両手でペンライトを抑えて闇の中に一歩、踏み出す。


「ねぇ、冗談でも絶対脅かさないでよ」

「それなんかの振りか?」


 彼女は振り返る際の勢いを利用してセーギにおもいっきり肘打ちした。


 セーギは腹を抑え言葉の出ない悲鳴を上げる。



 廊下を進むと途中道が二つに分かれていた。

 どちらも壁に掛けられた見取り図? 設計図的には、どちらの道も地下に続いているらしい。


 二人はそこで位置を歩みを止める。


「右と左どっちがいい?」

「手分けして探すとかでいいんじゃないか」


「嫌だよ。エクエリは1つしか無いから。というかライトも一つしかないよ!」


 冗談のつもりだったが、キンウはそれを信じて震える声を荒げ全力で否定する。

 特にどちらとも決めず気分で適当に曲がる。


「こっから先は本当に真っ暗だね、入り口からの光も届かない」

「見ればわかるよ、だからしっかり照らせよ」


「先を? 足元を?」

「交互に」


 ペンライトは光を一点に集めることでかなりの明るさを保つタイプのようで、ライトのレンズ部分をひねって光の範囲を広げることはできないようだ。


「見取り図では階段まで、ざっと20メートルらしいけど、全然見えないね。ていうか以外にこの建物でかい」

「あんま引っ付くな、歩きずらい」


 キンウはセーギに引っ付き、片方はペンライトをもう片方はセーギの背中を力を込めてがっしりと掴んでいた。


「寒いんだから、こうやって温めあって暖を取りながら行った方が、体力の消耗を減らせるかなって」


 そうは言うが防寒着越しにでも、彼女の早い鼓動が伝わってくる。

 セーギは廃シェルター内で見せるキンウの態度との違いに調子を狂わされながらも歩を進める。


「この震え、寒さだけじゃないだろ。生体兵器怖いのはわからなくもないが、そこまで怖いのならこんな仕事受けなければいいだろう」

「お金欲しいもん」


 間髪入れずに彼女のシンプルな答えが返ってきて、セーギは何か言おうと少し考えたが結局何も言えなかった。


 十数秒で行ける距離を数分かかって、ようやく地下に続く階段の扉を見つけ、ゆっくりと鉄の扉を開ける。


 扉の奥を確認し生体兵器が飛びかかってきたり、潜んでいないかを確認する。


 階段には非常口と書かれた非常灯がついていた。


 非常灯で通路が多少明るくなった途端、キンウはセーギの背中を降りペンライトで、下手なペンまわしをするほどの余裕がでてきたわけだが、いまだに腕に引っ付いている。


「人も生体兵器もなにもいないな。もう、目的の物も持ってかれた後なのかもな。んで、生体兵器もあらかた倒して帰っていった……おいペンライトふざけて落とすなよ。落として壊れたら洒落にならないぞ」

「あはは、迷彩柄の車列の人達は反対側の道を使っててすれ違いになったかな? 地下階段はここだけじゃないし。それとペン回しそんなに下手じゃないと思うけど、下手?」


「すれ違いって、まだ戻れる距離だが、もしもうここに目的のものが無かったらその場合ってここまで来たのに無駄骨か?」

「そうだね。骨折り損。急いで追いかけないといけなくなる」


 階段の扉を開け目的の階の通路に出る、やはり電機はついていなかった。


 二人で手分けしてスイッチを探そうとセーギの提案に、手をつないでいてくれたならとキンウが返し仕方なく手を強く握られている状態で手探りで電源のスイッチを捜す。


 キンウの方からパチンと音がして電気が付いた。

 ほとんどが切れていたが生きている電球は激しく点滅し今にも切れそうな薄暗い明かりが二人を照らす。


 足元には割れたビーカーや紙くずが落ちている。


「たぶん、この階のどこかにあるんだけど。ああ、チカチカする光の目が痛くなる」

「研究所?」


「上は基地って話だったけど、地下はそうらしいね。何の研究してたとか気にする必要はないよ、用事を済ませてささっと帰ろう」


 通路の先には左右にいくつもの部屋があり、通路の途中はバリケードのように荷造りの途中でいらないものを山積みにしたものがつくられていてそれが崩れて道を塞いでいる。


 再びキンウはセーギを盾にして進む。


 セーギの我慢の限界でしがみつかれると動きずらいと彼女を突き放すと、彼女は腕ではなくマフラーを握り、犬の散歩見たいな状態になった。


「首、マフラー放せ、苦しい」

「ん、締まってた?」


「ああ」


 慎重に進み一番近くの部屋の前に立つ。


「一部屋ずつ、開けていくしかないのか?」


 頼りない明るさの元で、割れたガラスや実験道具が落ちている通路を、足場を確かめながらゆっくりと進む。


「だね、気を付けて」


 そういう彼女は扉から数歩離れ逃げ出す用意をしている。


 通路の一番手前にあった、最初の部屋のドアを少しだけ開ける。


 暗くてよく見えず動く物ないし敵はいないかなぐらいだが、中に何もいないことを確認してセーギは扉を一気に開ける。


 部屋は学校の教室を二つほどくっ付けたように大きく広かった。


「キンウ、今更遅いと思うけどさ」

「ん? なに?」


「トラップとか気にしなくていいのか?」

「あー、生体兵器で頭の中一杯でした。すみません」


「死んでないし、結果オーライだな」

「珍しくプラス思考だね、確かにほんと結果オーライだけど、ここまで無事に来たんだし、ないのかもねトラップ」


「油断してるとひどい目に合うやつだなそれ」

「禍は忘れたころにってやつだね。この場で関係ないけど」


 目的のものがないので部屋を移動する。


「ところで、俺ら何探してるんだっけ?」

「自分とか存在意義とか?」


「明るいといつも通りなんだなイラッとする。さっきまで端末のマナーモードみたいに震えが止まらなかったのに」

「はいはいうるさーい、あれは寒かったからでーす。で、探してるのは資料、資料はこの階のどこかにある金庫に入ってるってさ。どこの部屋にあるかわからないけど」


「逃げるときになんで持っていかなかったんだろうな?」

「きっとそれを知ったら明日には生きてないよ。セーギ……ごめん嘘」


「ふーん、怖い怖い」


 話を聞いているようで聞いていない二人の会話。


 そして、二つ目の部屋の扉の前に立つ。

 先ほどと同じように扉をちょこっとだけ開ける。

 そして一気に開ける。

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