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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
3章 幽霊たちの日常 ‐‐捨てられた場所で揺らめく光り‐‐
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廃基地 2

 ――さて、どうしたものか。


 キンウは浮かれた気持ちを切り替え考える。


 頂上、つまり目的の旧北部3地区基地に到着した。


 視線の先に高い塀と有刺鉄線に囲まれた、鉄柵の門の先にお目当ての施設が見える。


 広がる駐車場には8両の軍用トラックが止まっていた。


 まとまった位置に横一列に駐車され、同じ迷彩柄の塗装がされていて同じグループだと嫌でもわかる。


「あ、セーギ、ストップ」


 キンウがそういって停車させる頃には、車体を門の入り口まで持ってきていて完全に手遅れに思えた。


 ――気が付かれたか、隠れるにはまだ間に合うか、ここには何人いる、何人で来ている? 


 三つ編みをいじり自分が助かる方法を考え、とりあえず向こうの出方を窺う。


「後ろに下がるのか、駐車場に入ってもいいのか?」


 声を抑えないセーギに苛立ちを覚えたが口には出さず、一度逃げようかと思ったが並んだトラックに何か違和感があった。


「車のそばに誰もいない、見張りは、駐車所の隅に隠れているのか、建物の中からこちらを狙っているのか、見張りがいないのかそれらしい気配もない、なぜ、隠れているのか、車の中か、この車の持ち主たちはいつ来た、生体兵器と戦闘した後も見られない」


 気が付くと無意識のうちに三つ編みを指に強く巻き付け弄りながら、ぶつぶつと呪文のように考えを口に出していた。


「おちつけ、キンウ」

「ああ、セーギこっちに入れていいよ、車そっちに停めておいて」


 彼女は頭を抱える、なんかあってから対処しようとのんびり構えていたが急に頭を働かせて考えが混線した。


 しかし先に来た人間のそれらしい気配はない。


「来た全員で施設に入っていったとは思えない、見張りがいるはずだ……地面や車などに血は、傷は、戦闘の痕跡は、荷物とか散らばってないだろうか」


 さらにぶつぶつ呪文のように続けるキンウ。


「大丈夫なのか……?」

「かな、ここではなく建物の中で暖でも取りながら待ち伏せでもしているのだろうか?」


 駐車場に入るか入らないかの所で止まっているセーギの車に一度戻る。


「おい、どうすんだ?」

「もういい、その辺に車止めて。エクエリ持ってきて。キーは刺しっぱなしでいいから」


「どっかに隠すんじゃなかったっけ、普通に止めてもいいのか?」

「それでいいよ、車適当に停めて早くこっち来て」


「寒いだろ、とりあえずこっちに戻って来ないのか」

「うんいい、早く来て」


「わかった」

「私の荷物忘れないでよ」


 少しピリピリしているキンウ、セーギは遠目から道の真ん中に立つくらいなら少しは隠れたりすればいいのにと思ったがもはやこちらの声は聞こえていないようだった。


 そしてセーギは言われた荷物を持って車から降りる。


 どうでもよかったが駐車スペースにきっちり車を止め、エンジンを切りキーを抜いてポケットにしまう。


 防寒のためマフラーを巻き、キンウに言われた銃身の太い長方形の銃をエクエリを手に取り車を降りる。


 キンウと合流して荷物を渡す。


「マフラー巻いても寒みいなぁ。で、どうするよ?キンウ。ほらエクエリもってきたぞ」

「と、とりあえず、手、握ってもらえると助かる」


「ん? いいけど、なんだ急に? 指、冷えたか?」


 不思議には思ったが、エクエリを持ち直し、開いたで彼女の手をつかんだ。


「お前、手汗すごいな」

「すぐ何とかする。離して」


 自分で手をつかむように言っておきキンウは強引に自らセーギの手を振り払った。


 服で手汗を拭くと施設に向かって歩き出した。


「ほら、いくよ、セーギ。駐車へたくそだね」

「うるせー、適当に止めたんだ」


 そういうキンウに落ち着きがなくそわそわしている。

 人ではなくいつ生体兵器が現れるかわからずその不安からだろう。

 彼女は人相手なら恐ろしく強い。


 よくわからないが、警戒はこの時点で最大まで引き上げておくべきか、一般兵らしい動きを見せるセーギを後ろにキンウそう考えていた。


「ねぇ、私の分は?マフラー」

「車の中これしかなかったし、これはたしか俺のだ」


 隠れ家にあったのでもとをただせばキンウのものなのだが、共に暮らしていくうちに先に取ったものがその所有権を持つというルールがあることがわかりセーギはそれを手放さなかった。


「ちぇー。よし、じゃあ、いざ、潜入開始だね、気を引き締めていこう」

「お、おぅ?」


 コンクリート3階建の建物、用があるのは地下で地上の建物自体に用はないなのだが、どうしてもその用のない構造物全体が気になる。


 分厚いコンクリートに縦や横に細長いが、長さに統一感のない窓、軍の司令本部というより、トーチカを増築、デフォルメの訊いたアリ塚のオブジェみたいなハチャメチャな造形をしていた。


「ひでぇ、形だな。アーティストの家とかじゃないんだよな?」


 セーギがまだシェルターで暮らしていたころ近所に住んでいた趣味の悪い家を建てたものを思い出していた。


「あはは、確かにセンスないね」


 向こうに一列に並ぶ車を調べるのは直感的に危険と判断し、寄り道なしで建物を目指す。


「中に入ったら足元、トラップに注意してね。生体兵器は大きいから見つけやすいけど、爆薬とかは保存食のカップ麺みたいに小さいから、物の下に隠せるし見逃すと木端微塵だよ」

「先に来たやつらと鉢合わせる方がはるかに危険だろ、こっちは対人用の武器持ってないんだから」


 エクエリは生体兵器用の武器であって人を殺す道具ではない。

 元一般兵のセーギもそう教えられそう思っている。


 実際エクエリで人を撃つと綺麗に穴が開くが、昔名前も知らない誰かが撃たれているの見ていたキンウはそれを黙っていた、言ったとしても空気を悪くするだけだからと。


「サバイバルナイフならあるよ、もっとく?」


 キンウは鞄の横についていたファスナーを開けさやに納まった小さなナイフを差し出す。

 セーギはそれを無言で受け取り、ズボンのポケットに入れる。


 するとセーギの顔に何かがあたったらしく、薄暗い空を見上げる。


「雨か?」


 空から振ってくるものはゆっくりと舞うように落ちてくる。


「ん、いや雪が降ってきた」

「寒いわけだ。キンウ、懐炉いるか?」


「あ、ありがと、マフラー貸してくれなかったのにどうしたの? あ、温かい……これは雨が降りそうな予感」

「雪ならもう降ってるけどな。すぐ止めばいいな、積もってほしくはない。それで懐炉はいらないのか?」


「これだけ広い敷地だったら、積もるとカマクラとか作れそうだね。懐炉いるよ、頂戴」

「どうぞ、おひとりで」


「えー」


 懐炉を受け取ると服の中に入れるキンウ、そして彼女は基地に向かって歩き出した。

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