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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
1章 滅んだ国と生体兵器 ‐‐すべてを壊した怪物‐‐
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前線基地、5

 緩やかな丘を登りコリュウとイグサは丘の頂上に着いた。

 丘の上には人はおらず資材が積んであるだけで、ここの工事は終わっているか後回しにされているようだ。


「んんっ、ここは風が気持ちいいね」


 そういってイグサは両手を伸ばしその体に風を受ける。

 どこもかしこも建築用の資材が無造作に置かれていて雨から守るシートすら被ってはいなかった。


「来てよかっただろ見晴らしもいいし」


 見晴らしはよかったが見える景色はどこも一緒だ、どこも工事中、遠くはこの基地を囲むような丘。


「結果論だけどね」


 ふらふらとイグサはあたりを見て回る、そんな彼女をコリュウは見ていた。


「まぁな、それでもいいじゃん。結果オーライだ」


 イグサは後ろにある建物を見る。


「ここには何ができるんだろうね」


 盛土の丘の上に作られた建造物は、大きな建物からにょっきり塔のようなものが出ている。

 昔の時代にあった空港の管制塔に似ていたがそこに滑走路はない、そもそも飛行型の生体兵器に離着陸を襲われ撃墜されるだけなので生体兵器の多いこの時代に飛行機などない、おそらくこれがちゃんとした周囲を一望できる見張り台だろう。


「見張り台とかだろうな、この大きさだから司令部とかもここにできそうだ」

「ふーん、お店じゃないなら興味ないや。大きいからショッピングモールかと思った」


 興味を失いイグサは近くに置いてあった資材の山へと向かっていく。


「こんなところにお土産屋とかできないだろ、そもそも基地に必要ない設備作るのはおかしいし」

「わかってるよ、言ってみただけだよ」


 彼女を追いかけコリュウも資材置き場らしき場所へと向かう。


「でも、さっきの笛買ったお店はあったから絶対にないってこともないだろうけどね」

「……確かに」


 二人は近場にあった資材の上、コリュウは鉄骨の上に、イグサは山と積まれた木台の上に腰を下ろすと丘の下、兵舎や食堂の方を見た。

 兵舎にはいまだに重機がゆっくりと資材を運んでいる。


「しかしほんとに何もできてないね、というか逆にこんないっぱい何作ってるんだろ」

「そういえば、今ここ兵隊より建築業者の方が多いんだってよ」


 昨日イグサと険悪にあってから時間を潰すのにこの基地の公開情報をダウンロードしていた。


 初めからこの基地に何もないのは知っていたが、それを言ってこの散歩を不意にするようなことはしなかった。


 先ほどの笛を買った店があったのは知らなかったが。


「壁はできてるから生体兵器は入ってきにくいんだろうけど、侵入されたら被害大きそうだね。兵隊少ないんでしょ?」

「食堂の下に、この基地の人間全員が避難できる避難区画があるんだってさ」


「ふーん。そういえばコリュウ、なんでそんなにこの基地のこと詳しいの、私たち昨日来たばっかだよね?」

「え、ここに来る前、出発前にシェルターで説明受けただろ」


「あー、んー。もう二日も前のことじゃん、覚えてないよー」

「聞いてなかっただけだろ」


「長い話は眠くなるの。ほらあれ見て、戦車、戦車」


 駐車場らしきところにトラックに紛れて数台の戦車が止まっていた。


 カクカクとした傾斜装甲の車体や砲塔に長い棘が生えている、これは飛びかかってきた生体兵器を串刺しにできればとつけられたもので、一、二メートルほどの大きさの小型生体兵器に対してそれなりの効果を持っていた。


 メインとなる主砲はエクエリをかなり大きくしたもの、とても高火力で当たれば5メートルから10メートル程度の大型の生体兵器を容赦なく吹き飛ばすことができた。

 もちろん相手に当たればの話だが。


 イグサの使う大型エクエリと同じで、この種の戦車も主砲の弾を変更することができる。


 火力を減らすことで連射速度を上げることで、通常のエクエリではできないような鬼のような連射をすることもできるがエネルギー消費が激しいらしいからそれを撃っている所をコリュウたちは一度も見たことないが。


「戦車ねぇ、使い手の熟練度が低いと何もできないで壊されちゃうあれか」

「そういう言い方はひどいよ、うまい人が使えばうまいって言わないと」


「戦車で思い出したけど。そういえば、戦場跡地もこの付近にあるんだっけか」

「コリュウ」


「ん、なに」

「馬鹿にしないで聞いてほしい」


 どこかフワッと知多雰囲気をしている彼女は、今まじめに真っすぐコリュウを見ている。


「お、おう。なんだ畏まって」

「戦場跡地って、なに」


 --これ、シェルターからここに来る際に事前情報として、説明されたはずなんだけどなー。


 自分で調べろと言っていつもなら終わりだが、かといって他に会話の種もないのでコリュウは説明を始めた。


「ああ、んじゃ簡単に説明してやるよ」

「うん、よろしく」


「旧時代……俺たちの親の親くらいが、その当時の最新兵器を総動員して海を越えてきた生体兵器と戦った場所、それが戦場跡地だ。すっごく簡単に言うとそれだけ」


 端的にわかりやすく伝えたつもりだが、彼女はあんまりぴんと来ていないような反応。


「その戦い勝ったの?」

「勝ったらこの世界に生体兵器はこんなにいないさ」


「あー……負けたのか」

「それで、その戦いの跡が今でもそこに残ってるんだ、昔の戦車とか飛行機とかな。資源として貴重な金属だから回収してはいるらしいけど、障害物が多く隠れる場所もあるから今は生体兵器の住処になってるらしい」


「ふーん、私歴史は苦手だなー。……おいてっ!」


 イグサは空を見上げるとそのまま山と積まれた木材の上に横になった。

 その際に頭をガツンてぶつけうずくまって頭をさする。


「あーあ、生体兵器がいなかったら、私どんな生活してたんだろうなー」


 イグサはこの手の話が好きだ、もし生体兵器のいない世界がったら、もし精鋭じゃなかったら、もし朝顔隊じゃなかったら……と、暇なときそんなことを言う。


 面倒なら付き合わないが、先ほども思ったが話のタネに困っている、今日はイグサと少しでも会話していたい、コリュウは少しその話に付き合ってみることにした。


「普通にシェルター内での生活みたいな感じじゃないか」

「いやいや、昔は人もお店もたくさんあったんだってさ、おいしいものもいっぱいあって、服もアクセサリの専門店もいっぱいあったんだってさ」


 彼女はすぐに否定した。

 気のせいかその喋り方に少し熱が入っている。


 どこかのシェルターによったとき、昔の本や雑誌に書かれていた知識。

 その雑誌などに書かれている場所は今や瓦礫と生体兵器しかない。


「服屋ならどこにだってあるだろ」

「そうじゃない、そうじゃないの! もっときれいなのとか、かわいいのとかがいっぱいあるの、何でわからないかな」


「よくわからねぇなぁ」


 残念ながらイグサの見ているビジョンはコリュウには見えない、見ようと努力もしたのだが女性向けの本だ、読んでいても深く入り込めない。

 男性には難しい話だ。


「私が精鋭になった理由知ってるでしょ、おしゃれがしたいからってやつ。小さなド田舎シェルターじゃ、同じ服持ってる人いっぱいいるもん、私だけの個性がほしい」

「まぁな」


 よくわからないが相槌はうっておく。


「あちこちのシェルター回っていろんな服買い集めて、いろんなアクセサリー買って。かわいく着こなすの、そのために精鋭になったんだから」

「あいも変わらず、すごい行動原理だよな」


「それなのに、なんでこんなお店の無い基地にいるの私!」

「思ってることは、思い通りにいかないものだよな」


「そういえばコリュウは? コリュウは何で精鋭になろうと思ったの。あれ? 私そういえば聞いたことないよね?」

「そうだっけ。まあいいじゃん、人それぞれだよ」


「えー、教えてくんないのー」


 作戦中に勝手なことをし前線基地も知らないようなお前が心配だったから。

 なんて彼女の前では恥ずかしくてとても言えない。


「けちー」


 見晴らしのいい丘で話していると故郷のシェルターを思い出す。

 静かでいい場所だった、またいつか帰れる日はあるのだろうか。

 別にそこがなくなったわけではないが、精鋭となった以上あちこちを回り命がけで戦わないといけない。




 イグサの精鋭になった理由の話を聞き昔のことを思い出す。


 数年前、朝顔隊に入るずっと前。

 故郷のシェルターでイグサとコリュウは同じ学校に通っていた幼馴染。

 その日も何の用事もなくただだらだらと畑に落ちている石を土手のほうへと投げ捨てていた。


「私、外に行く。せいえいになる」


 何の脈絡もなく彼女は突拍子もなくそんなことを言い出す。


 精鋭になるには生体兵器と戦える力がないといけない、突然不思議な力に目覚めるだなんておとぎ話はこの世界にはない。

 まずは一般兵に志願し、そこで実績を積んだものが精鋭になるのだ。


 当然イグサの両親は反対したが、当時の彼女は思ったより頑固で行動力もあった。

 志願したのはイグサが最年少というわけでもない、同い年の友人も何人かいた、皆男子だが。

 たいてい彼らは畑仕事が面倒という理由で一般兵になる奴が多い、要は仕事に飽きたから畑仕事がつらいから一般兵になろうとしたのだ、どのみち基礎体力を上げる訓練で疲れることに変わりはないが。

 その中でイグサのようになんらかの目的があるのは30人中5人もいればいい方だろう。


 面倒くさがりの彼女としてはびっくりするくらいの行動力で、彼女の親が反対するころにはすでに一般へに志願しており、入隊のテストを受けることになったのだが、一番最初の試験、彼女は体力テストに落ちた。


 これであきらめると思っていたイグサの両親だったが、半年後またしても親の知らぬ間にもう一度入隊試験を受けに行く。

 今回も落ちるだろうと彼女の両親も俺も思っていたが、結果は合格、皆驚いた。

 そしてその後、次の試験を受けることになりさらに皆を驚かせた。


 次の試験は筆記と実技、地形を使った戦い方や身の守り方、基本的な生体兵器の型や種類、怪我の対処法、地図の見方、便利な機械が壊れた際に太陽や星の動きで目的地にたどり着けるかどうか、射撃訓練などなどを行った。

 結果は合格。

 このころはイグサも勉強ができ、この試験も通過した。


 最終試験の生体兵器との模擬戦闘、実際にシェルターの外へと出むき先輩の一般兵とともに生体兵器を少なくても一匹殺す貢献をする。


 入隊したら仲間となる一般兵とともに生体兵器と戦う、戦い方と人間性、実際に仲間として命を預けられるかなどを見るテストだ。

 シェルターの周囲の生体兵器は比較的弱く熟練の兵士と一緒なら安全だが、絶対ではない、生体兵器の群れや特定危険種がいないなんてことは誰にもわからないのだから。


 その点を踏まえ前もってマークを付けた生体兵器を、テストのため戦いやすい地形におびき出すといった方法がとられる。

 生体兵器をおびき出さないとテストが始まらない、その準備が整うまで彼女は待機命令を出されていた。


 彼女の両親は彼女の部屋に鍵をかけ、試験当日に家から出さないようにしようとしたが、彼女は前もってそれを察知し、最終試験日の三日前から失踪していた。

 後で知ることになるが、コリュウの家の下に穴を掘ってその日まで住んでいたらしい。


 そして、その日が来た。

 彼女は生まれて初めて訓練用以外のエクエリも持った、まだ小型化がうまくいっていなかったこのシェルターのエクエリは大きく重い。


 できれば片手で持つのだが、彼女は両手で持たないと狙いが定まらない。

 まだ彼女には大きく扱うには困難だと思われたが、使い方を教えてもらいながらだが何とか扱えるようだ。


 そして戦場に出た、ここまでのイグサと同じ同級生の合格者は6名。

 当日の辞退、欠席者は4名。


 そこにイグサの両親はいない、心配で見にきてエクエリを持った彼女を見たとたん、二人そろって気を失って医療施設に搬送された。


 試験開始、生まれて初めて彼女はシェルターの外へ出た、一緒にいたもう一人の挑戦者は緊張のあまり失神しイグサの両親と同じ場所へと送られたと聞いている。


 そこから先は知らない、見ていないからだ、コリュウはそもそもテストを受けていなかったし、彼女がシェルターの外に出るというのを話半分に聞いていた。


 また落ちるんだろうと思って、シェルターから出ていったその後、彼女が試験を受けている間、いなくなった彼女の分の畑の手伝いに明け暮れていた。


 コリュウは彼女が外に出るのを恐れて、あるいは生体兵器に恐怖し泣きわめき、一般兵の志願を辞退すると思っていた、当日欠席した4名のように。


 そしてその日のうわさで誰かが緊張のし過ぎで気絶したという話が入り、彼はそれがイグサだと思っていた。


 その試験の結果はすぐに出る、敵を目の前に逃げずに戦えれば合格なのだから。

 次の日、彼女から聞いた言葉で彼の人生は大きく変わることになる。


「ねぇねぇ、コリューこれ見てー! 合格した。私、一般兵になった!」


 彼女は新調された子供向けの一般兵用の戦闘服と彼女専用のエクエリを持ってコリュウの家に来た。

 

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