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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
3章 幽霊たちの日常 ‐‐捨てられた場所で揺らめく光り‐‐
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廃基地 1

 セーギたちの乗った壊れかけの装甲車両は廃シェルターの外、跡形もなくなった廃墟を走っていた。


 この辺りは近くのシェルターの金属回収やハギに残った人の手によって、あらかたの金属を探しつくされ価値がないと残されたものも時間にむしばまれ元々の形そのままでは残っていない。


 新しく作られたものもある。

 鉄筋を取り出すために壊されたコンクリートが小石となってあちこちで山と積みあがっている。

 木造家屋などは木片は冬を乗り越えるために薪として持ち出されていて場所によってはまだあるところもあるが、この10年でこの辺りはだいぶ綺麗になった。


 予期せぬ利点として生体兵器が身を隠す場所がないため発見は簡単ということ。


 ハギ自体は高層の建物が多く下手をすると大惨事が起きるため建物の破壊は行われていない。

 木造家屋にしても金属回収の手が入っていても薪として解体されることはなく、むしろいつかハギが復興する時を待っているかのように建物は必要以上に破壊されず残っている。


 セーギみたいに外からくるものは少なく、放棄されてなお住み続けている住人たちにとっての廃シェルターの内側には思い出があるのだろう。


「何で一回別のシェルターによったんだ? まっすぐ目的地に向かうんじゃなかったのかよ」

「んー? ああ、あのシェルターで受け渡しする予定だから一応確認にね。もう資料が届いてるってこともあるだろうから。それと、とりあえずこの道を通って入れば、向こうから来るのはほぼ間違いなく書類を持った自分たちと同じ仕事を請け負った人、鉢合わせたたら戦闘は避けられないよ。普通はないと思うけどもしかしたら死ぬかも」


 運転しているセーギの横で、大きく席を倒して仰向けになりながら携帯食料を貪るキンウ。


「じゃあ、呑気に軽食なんか食ってないで武器かなんか構えてろよ」


 キンウが依頼を受けた以来の受け渡し場所が背を向けているシェルターであるため、届け先のシェルターで待っているとそのうちに向こうからやってくるだろうがこちらから迎えに行く。


 書類を持った誰かが通るであろうゴールに向かう道からの逆走。


「見えたら警戒するよ。さっきのシェルターで聞いたけど、今日雪降るってさ」

「どおりで防寒着着てても冷えるわけだな」


 セーギは運転しながらちらりと厚くなって暗くなってきた空を見かける。


「ごめんね、この車エアコン壊れたままで治りそうもないから直さなかったんだけどね」

「もう何枚か着込むか? 生体兵器との戦闘時に鎧になるかもしれないし」


 キンウと暮らしていてたまに起きる不思議の一つだったがキンウがどこからか持ってくる服は、廃材の中から持ち出してきたものとは思えないほどきれいな服が多かった。


 セーギの服もいつの間にか用意されていることもあり、おそらくは後ろにあるシェルターから買い足したりしているのだろう、知らないうちに。


「いやいや、金属すら容易く貫く生体兵器の攻撃を、重ね着程度では防げないでしょ。甘く見ないほうがいいよ、名前に兵器ってついてるんだから」


 彼女に言われるまでもなくセーギは生体兵器の恐ろしさを知っていたが黙って運転に集中した。


 目的地、北部第三地区前線基地が見えてくるころには、すっかり太陽が雲に隠れその雲も厚さをましはじめ空は黒ずんでいた。


「結局、鉢合わせなかったな」

「そうだね、苦戦してるのかな。それとも裏の裏をかかれたかな?」


 すでに目的地のすぐそばまで来ており最短ルートで獣道を走って目的地を目指すため、螺旋を描くように緩やかに作られている道をたてに一直線で登る。


 当然道なき道で急斜面を車内は大きく揺らして登っていた。


「争奪戦の末、資料が燃えたりしてな」

「うわ、ありそう。ダメだよセーギ絶対そういうことしちゃ」


 枯草の生える獣道を抜けても急斜面と岩だらけの悪路。


 片方は急斜面かたまに崖でこれ以上は登れず、もう片方はうっそうとした森が下に広がっている。


 ここが放棄されて数か月、本来ならまだきれいなはずの悪路の原因は、軍の重車両が通れるように補正したコンクリートを何らかの目的で破壊していったようで、大小いくつものコンクリートの塊が、水の枯れた川原のような情景を作っていた。


「こっ、この山の隣の頂上が、あぅ、目的地なんだけど、っどぉ、来るもの通れる道は、いてっ、ここしかないから」

「舌、噛むぞっ」


 払い下げの軽装甲車両はオフロードとはいえ手入れも行き届いていない中古品、悪路で装甲車両は金属の擦れる嫌な音を立てながら大きく揺れていた、車内のすべての物バウンドし、荷台がガタガタを音を立てていた。


 そういえば後部には爆薬が積んである。


「誤爆、しなっ、しないだろうな?」

「なに、が」


「爆弾、だよ」

「リ、モコン、での、起爆式、だから、勝手に電源、入って、スイッチぃ、入らな、ければね」


「……勝手に?」

「祈ろう!」


 がくがくと揺られながら道だったものを進んでいく。


 一定の場所まで上がってくると急に補正された道に戻った。


 キンウに止めるように言われその場に停車した、朝よりも白い息吐きながら彼女は車を降りて登ってきた道を振り返る。


 破壊されていない道路を歩く彼女の足元には先客の物であろうタイヤの跡があった、キンウがその上をなぞるように歩く、セーギも後から車を降りる。


「おお、寒っ。道、急にきれいな道に戻ったな。なんだったんだこれ」


 割れた地面のかけらだろうか、石を蹴飛ばす。


「そうだね、さっきは揺れてて痕跡とか見えなかったけど、誰かがつい最近、この道を破壊したっぽいよね。あの道から来なかったってことは、まだここにいるね」

「先客が来てるってことか。とりあえずもう一枚、防寒具さがしてくる、本当にさみぃ」


 まだ敵にも接触していない二人の背中に寒気が走り緊張が走る。


 ただ単に寒いだけかもしれないが。


「警告か縄張り主張か勝利宣言か……何にしろ、意味もなく道を爆破させる必要はないはず」

「さき越されてイラついた誰かがうっぷん晴らしにとかじゃないか」


 ぶつぶつと呪文を呟くようにキンウは独り言を発する。


「まぁ、ここからは車隠して歩いて行こうか?」

「何だ急に? 待ち伏せなんだから、ここから動かず車で待ってた方がいいんじゃないか? 積んできた荷物も置いてくのか?」


「そうだね。作戦変更、必要な物だけ持っていこう」


 キンウは軽装甲車の後部に回り荷物を取り出す。


「こんなにいらねーじゃん。荷物」

「まあまあ、必要な物は全部持ってきてるから、ここで万全な状態にして行けるじゃん。そう怒んないでよ」


 肩掛け鞄に必要最低限の荷物を選別し詰めていく。


 そして、ある程度鞄に物を詰め込んだら森の中に車を隠すためちょうどいいスペースを捜す。


「車、動かした方がいいのか?」

「そうだね…えーと。車、隠すとこもうすこし先にしよう」


 隠せそうな場所を探し、少し上まで道路を歩く。


 キンウの見つめる先には草の間から、踝くらいの高さに銀色に光る線がピンと貼られていた。

 おそらく線をたどって探せば爆弾的な物が発見できるだろう。


 このトラップの解除の仕方がわからない二人は、下手に触らずここを去るしかなかった。


 ちょうど車を隠そうとした場所にトラップ。


「あははぁ、これ、私たちの動き、読まれてるね。敵は生体兵器じゃなくて対人相手のプロかな?」

「どうした?」


 もう少しで車を隠すところだったと場所の銀色の線を見つめ、訓練も受けていない素人がどうこう出来ないような相手がいることを思い知らされた。


 ――元軍人かそれに近い人間が来ている、待ち伏せをしても返り討ちに合う可能性がある。


 ――まず敵の数を確認しなければ、でも撤退はない。


「ゆっくり上まで行こう。扉は半開きで、シートベルは外しておいて、何かあってもいつでも飛び出せるように」

「ん?」


 車は、先を歩くキンウと同じ速度でゆっくりと頂上への道を登って行った。


 途中に何か所か車の隠せそうな場所があったが全部さっきと同じように爆発物が仕掛けられていた。


 キンウはセーギの乗った車を引き連れ迂回していると、とうとう山頂にある基地の前まで来てしまった。


「……しまった、頂上まで来ちゃった」

「なんかまずかったのか」


 結局のところ車の止められそうな場所にはすべて罠が貼られていた。


「これはまずい非常に」

「なにがどうマズイ?」


「隠れて、待ち伏せて、ちゃっかり略奪するつもりで、どっかに車を隠す予定だったのに、これでは真正面からぶつかることになる」

「道を逆走して正面から戦おうとしておいて今更か」


「爆弾を持っていても、大した知識も効果的な使い方も知らず、ただ、無造作に爆薬を仕掛けてそれを起爆するくらいしかできない私に何ができるだろか」

「使い足しってるだけで、技術的には俺と大差ないのか」


 対人用の銃や対生体兵器用兵器エクエリなど持ち出されたら、おそらく逃げる間もなく一方的にやられるだけだろう。

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