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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
3章 幽霊たちの日常 ‐‐捨てられた場所で揺らめく光り‐‐
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出発 2

 キンウがどこからかもってきた、軍の払い下げの軽装甲車両。


 ビルの前に止まるとセーギは車の中を覗き込んだ。

 前は二人乗り後ろは窮屈になりそうだが四人は乗れそうだ、後ろに荷台もあるからもっと乗れるだろう。

 分厚い鉄板のドアを開けキンウが下りてきた。


「お待たせ。準備できたし、さっさと荷物乗せて出発しようか」


 二人はその後部に、手際よく先ほど用意した荷物をすべて積み込んだ。

 荷台だけに載せきれず後部座席にも乗せると、車内はかなりの圧迫感を感じるようになった。


 後部座席にしまったトランクを開け中から灰色の銃の形をしたものを取り出す。


 シェルターで使われる暴徒鎮圧用のゴム弾を放つ銃と違い、角ばったそれは銃身の部分がやたらと大きかった。


「これが、さっき言ってたエクエリ。何かあったら使って」


 対生物用生体兵器、一昔前の銃火器では有効なダメージを与えられないために作られた生体兵器専用の兵器。


 高性能な最新型のエクエリなどは大きなシェルターでも手に入りにくいので、これは時代遅れで廃棄されかけていた骨董品だろう。

 昔の銃にいろいろ付け足し多様な外観のごつごつとした形の多いエクエリ。

 それは通常のものとは形がやや異なり一回り大きくバッテリーを変えるマガジンの横に追加の装置が取り付けてあり凝ったデザインの模様の入った形をしていた。



 もともとセーギが持っていたエクエリは前線基地から撤退した時。

 生体兵器と戦いながら逃げていると何日かしてバッテリーが切れたので荷物になるため途中で捨ててしまったためない。


 その一回り大きなエクエリをキンウから渡される。

 見た目通り通常のものより少しばかり大きい。


「生身で生体兵器に勝てないでしょ」

「そーだな。こんなんどこにあったんだ……?」


「気にしないで、古いものとはいえ正当じゃない入手ルートだから」


 深く聞き込むと機嫌が悪くなる前兆の暗い声で言うとドアを開け、キンウはトランクを押し込み隙間を作ると後部の座席に乗り込む。


「じゃ、セーギ。しゅっぱーつ」

「ん? お前、運転じゃないのか」


 荷物に埋まる様な形だが細い体は荷物の隙間に収まった。


「ほら、私は朝早かったから、後ろで二度寝する」


 キンウが手当たり次第に積み込んだトランクを開けると荷物をあさり一枚の紙の束を取り出す。

 その過程で車内にいろんなものが散らばったがキンウは何事もなかったかのように隙間を作りなおし座りなおす。


 渡されたゴム紐で束ねられた地図。


「はい、地図、これ使って場所はこの座標。だけどこのあたりで車止めておくから、それでこっち側に回ってこの建物のあたりについたら教えて」


 紙の束、地図をめくり、番号の振られた赤い丸の付いた場所をキンウは指差しで順に教えていく。


「わりとというか、結構遠いな。ていうか遠回りするのか?」

「じゃ、おやすみ」


 言うだけ言うと開いたトランクからさらにタオルを引っ張り出しさらに物を散らかす。


「まてまて、おやすみじゃないだろ」


 タオルを膝にのせて横になる前に荷物を再度動かす。

 後部座席のキンウの首根っこをつかみ奥へと行くのを阻止する。


「え、なに、首、ちょ、痛い、離して。暴力よくない」


 引きはがすというより添えるように首をつかむ腕を手で押さえるキンウ。


「寝かさないからな。今日のこと説明してもらうからな」

「えーと。何を?」


 半笑いでとぼけるキンウ。


「仕事の内容をだよ。昨日は大雑把にしか聞いていないからな詳しく」

「いまから?」


「いまから」


 露骨に嫌な顔をするキンウ。


「えぇ……、向こうについてからで……」

「寝かさないといっただろ。俺をたたき起こしておいて自分だけ眠るなんてズルいだろ」


「なるほど、さっきのことを気にしているのかな。それとも日ごろの皮肉悪戯嫌がらせのささやかな仕返しか。私をいじめて楽しいか?」

「二度寝を阻止するのは虐めじゃない」


「なるほど、わからん」


 キンウはあきらめたようで小さく舌打ちし後部の座席から降り、前の座席に移動した。


 しかし、まだ眠ることに関してはあきらめていないようで、座席を大きく後ろに倒した。


「でさ、仮に私が、実は一睡もしていませんといったら?」

「じゅあ、明け方、俺の布団で何してたと聞く」


「朝トイレ行って帰ってきたら布団が冷えていたので、暖を取りにあなたのところへ」

「そのあと布団の中で俺のこと蹴ったろ」


「たぶん? 寝てたから、わかんなーい」


 両手を大きく上げ、金烏はわざとらしくとぼけた態度を取った。


 キンウは助手席に移動しシートベルトを着け倒した座席を少しだけ起こした、そして先ほどの地図を広げる。


「とりあえず、此処で話すのもなんだし出発しようか」

「そうだな」


 出発、倒壊したビル群を、瓦礫を避けて縫うように走る。


 朝焼けの空の下、キンウの視線の先には高く立ち登る黒い煙。


「相変わらずここは治安悪いね」

「いつもの光景だろ。何をいまさら」


 煙の下ではごみを焼いているか、シェルター内に入りこんだ生体兵器を倒しその死骸を焼いて処分しているかのどちらかがほとんどで、毎日どこかしらで煙は上がっていた。


「でも、こうして改めてじっくりとみると、思うとこがあるよね」


 めくれ上がったアスファルトを乗り越え、ガタンと大きく車体が揺れた。


「脇見できないから知らん」

「それは、まぁ、仕方ないね」


 暇つぶしに地図を広げては畳んでを繰り返すキンウ。


 突然何を思ったか、ため息をついた。


「なんだ?」

「セーギがここに来てから半年弱かぁ」


「どうした急に?」

「あの戦いから、10年たったんだね」


「ん、ああ……そうだな」


 話題が飛びすぎ会話が噛み合わずそれきり無言になる。


 折りたたまれる紙の音が大きくなった気がした。


「キンウ、あの戦争のときどこにいた?」

「おや、私に興味がおありかな。めずらしいね。どうしたの?」


「お前が話振ったんだろ。別に暗い話だから怠かったら話さなくてもいいけどさ」

「んー、私ねー、城塞都市ヒバチにいたよ」


「あの?」

「あの。ヒバチですよ。すごいでしょ」


 窓の外の向いたまま答えるキンウ。


「あれだろ……生存者がほとんどいないやつ、あんな危険なとこでよく生きられたな」

「そりゃ、私だもの……あははぁ。まぁ、私の生まれがあそこってだけで、あの時私はちゃんと避難したし。徒歩で……だけど」


 現在セーギたちが暮らしている廃シェルター『ハギ』以外にこの付近にはもう一つ廃棄されたシェルターが存在する。


 城塞都市『ヒバチ』

 ハギと同じく工業系のシェルターで、ハギは日用品をヒバチは軍需品を作っていた。


 この世界にまだ国が存在したころに首都とされていた。

 現在は魔都と呼ばれる生体兵器の発生地の一つに近いシェルターの一つで、当時はほかのシェルターより防衛能力が高いシェルターだった。


 前線基地の数は多くハギとヒバチは同じ生体兵器に破壊された。


 正確にはハギはその生体兵器が壊した防壁から別の生体兵器が侵入してきたのだが、書類上そういうことになっている。


「……詳しく……話そうか?」

「どうやって生体兵器から逃げ延びたかは気になるな」


 へらへらと笑って場を濁すキンウ。


 声色は変わらないものの突然言葉使いが変わりどうやらあまり触れられたくない様だった。


「……別に話したくなかったら話さなくていい、話を振ったのお前だし話したくないなら無理には聞きたくない、重そうだしな」

「朝から、胃にもたれる的な?」


 無理やりな曲げ方で話が変わる、やはりそれ以上は話したくないようだ。


「胃ではないけど、そういえば朝食どこで食うんだ」

「あ、携帯用の食糧、荷物と一緒に後ろにしまっちゃった。私は食べたから、セーギのことすっかり忘れてたよ」


 キンウは助手席から後ろを確認して、そこから見える範囲でセーギの朝食の入った鞄を捜した。


「町出たら、一旦車止めて。ここから見えないから下の方に積んだっぽい」

「……わかった」


 車は町を囲う生体兵器の手によって半壊した壁に向かって走って行った。

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