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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
3章 幽霊たちの日常 ‐‐捨てられた場所で揺らめく光り‐‐
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出発 1

 旧工業シェルター『ハギ』


 十年くらい前、前線基地を破壊した数匹の生体兵器によって防壁を破壊してシェルター内部に侵入、破壊の限りを尽くしシェルターの機能は失われ、人的にも建物的にも大きな被害を受け放棄された生産開発系シェルター。


 その開発系統の会社があったであろうビル群のどこかの一室。


 昔はオフィスとつかわれていたであろう決して狭くはない部屋の中に、近くの廃屋から持ち出した使えそうなものが所狭しと置かれていて、場所によってはそれらの上を通らないと進めない。


 その衣服、生活用品、チリの積もった何かの部品などが散らかった部屋の中でキンウはセーギを捜した。


「さあ、おきて。出発の時間だよ、出発しようかセーギ」


 キンウがセーギの布団の綿の偏った布団を引きはがそうとして手を伸ばし、力いっぱい引きはがすが布団を半分まで開けたとこでセーギが抵抗した。


「……もう少し寝かせろ」


 手を払い、キンウの手から取り戻した布団のなかに潜っていく。


「ダーメ、ほら起きてー」


 再び、彼女は布団を引きはがそうと両手を伸ばした。


 枕元に立っていたがごろりと転がり布団を挟んでセーギの上に馬乗りになると、体重をかけて体をゆするキンウを彼は無言で振り払った。


 振り払われた勢いで布団をつかんだまま、後ろへとひっくり返り悲鳴と尻もちをついた。


 布団をひきはがされ、横になるセーギの体を朝冬の寒さが包む。


 キンウがそのままガラクタの向こうに布団を隠してしまい、身震いしながらセーギは渋々顔を上げ周囲を見渡す。


「寒ッ、いたたたた、昨日の傷が。つか、何時だよ、まだ朝日すら登ってないし」

「まったく、ほんと朝弱いよねセーギは、空は明るいそれでいいの」


 セーギは服の下に手を伸ばし昨日の自分の怪我の具合を確かめる。


「あー、くそ、体中いてーな」


 布団から出ると伸びをして大きな欠伸をする、起きるまでが動きが遅いのでキンウが背中に回り抱き着くように体を密着させ布団の上に座るセーギの背中を押したり手を引いたりする。


「聞いてる?」

「聞いてない」


 聞こえるか聞こえないかの小さな声で「バァカ」と言ったキンウの頬をつねる。


「あ、ちょ、待って待って、暴力よくない」


 手を放し本格的に布団から起き上がる。


「ほんっと、朝からイラつくやつだな」

「別にいいでしょ~、昨日今日始まった事じゃないんだから~、あはは」


 そういうとキンウは冷えた指先をセーギの首元に当てる。


「お前嫌い」

「私は大好きだよ、からかいやすい人」


 指先を振り払いセーギは無言で腕を上げる、それを見たキンウは急いでセーギから離れ。


「待って待って、暴力よくない」


 そういうとキンウはガラクタを飛び越え逃げるようにセーギの部屋から出て行った。


 その後その辺に置いてあった服に着替えを済ませキンウを捜す。



 彼女は部屋の前に荷物を並べて壁に寄りかかりながらラスクのような携帯食料、軽食を取りながら立っていた。


 荷物は皆大きなトランク、十年という時間の経過か扱いが雑だったのかすれてボロボロだったが、高級階層の人間が他のシェルターから物を取り寄せるときに使う大きなそれがいくつも壁に寄せられていた。


「やっと来た」

「で、なにすればいいんだ」


 残った携帯食料をボロボロとこぼしながら口に押し込んで、急いで飲み込むとセーギのもとに歩みを進める。


「ん、何が? ああ、すでに荷物はまとめてあるから、セーギはこれらを下に持ってって車に運び込むのを手伝ってもらえればいいから」

「わかった」


「おお、今日はやけに聞き分けがいいね」

「お前と話してると朝から頭が痛くなるからな。今日は長い一日になるんだろ」


「ひどい」


 笑顔のまま大げさにショックを受けたそぶりを見せる。


「ふざけてないで、さっさと案内しろ」

「はーい」


 何事もなかったかのように、外に向かって歩き出すキンウ。


「ちょっと量多いけど、荷物は全部車の後部に乗せてくれればいいから」

「ん」


 ヒョイと近くにあった二つのトランクを持ち上げキンウの後に続き外に向かう。


「いやー力持ち~、私なんて荷物全部用意するだけしておいて、一つずつ持つのがやっとそんな軽々と持ち上げることできないよ」


 昨日の夜はこんなものはここにはなくセーギが起きる前に部屋の前に並べておいて平気で嘘をつくキンウを無視して外に向かう。


「こんなにたくさんあるけど、なに入ってるんだ」


 かなり丈夫そうなキャスター付きのトランクを叩いて、あたりに並べられた鞄の中身のものを説明し始めた。


「とりあえず、寄り道を入れて予定時間は行きと帰り合わせて三日だったけど、なんかあった時に念を入れた一週間分の携帯食料と水、私とセーギの着替えと何かあった時の医薬品、対生体兵器用兵器エクセプション・エリミネーター、エクエリってやつ。あ、セーギは知ってるか。あとは……今私が持ってるのが爆弾? 爆薬? まぁ、そんなもんかな」


 装飾の施された黒い箱を刺激しないようにそっと置く。


「おいおい、最後のやつ、なかなか物騒だな」

「まぁ、これから物騒なとこ行くわけだし?」


「それにしても……そんな量いるか?」

「別に必要ないなら、使わなければいい話だし、あって損はないかと」


「誤爆とかこええよ」

「緊張感あるよね。というか一般兵だったのにセーギ知らないの、電源入れないと爆発しないよ?」


 物騒な箱を他の荷物と一緒に置く。


 外見に多少の違いはあるが、全体的に黒いトランクしかないので、遠目には全部同じ色の同じ大きさの同じトランクしかない。


 ごちゃ混ぜにしたら一回一回開かないと中身が分からなくなるのではと思ったが、セーギは解決案もわからないので口にしないことにした。


「ほら、塞がった道とか壊せるし。爆薬の使い方はいろいろできるでしょ? どれくらいの威力があるのかわからないけど」

「ふーん……まあ、使うかどうかはキンウに任せる。俺、使い方知らないし使う気もない」


「任せて」


 意味もなく張り切るキンウに不安しかなかった。


「よっと、じゃ運び込もうか。セーギ」


 キンウは一列にならべられた荷物で軽いものを持ちあげ下の階に向かって歩き出す。


 別に誰かに追われているわけでもないのだが、誰も来ないような瓦礫だらけの危険な地域を隠れ家にしているビルの前で周囲を警戒する。


 留守の住処を他の人間に荒らされないためと偶然生体兵器と鉢合わせないようにするために。



 ようやく昇りはじめた朝日が、ビル群を照らし始めたころ。


 吐く息は白く、ポケットから出している手が寒いを通り越してもはや痛い。


 そんな寒さの中、建物の上の階から持ってきた荷物をすべて表に出し、ポケットに手を突っ込み身震いしながら、車を取ってくるといっていキンウを待つセーギ。


 しばらくするとエンジンの音とタイヤが石を踏みつぶす音が聞こえ、瓦礫の陰から昨日とは別の車がやってきた。

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