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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
3章 幽霊たちの日常 ‐‐捨てられた場所で揺らめく光り‐‐
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回想

 セーギとキンウと出会ったのは半年前、夕立の降った蒸し暑い夕方だった。


 彼は一人で走っていた。


 前線基地が特定危険種レベルの生体兵器に攻撃され基地は放棄、皆逃げ出した。


 基地を襲った生体兵器は車両を優先的に攻撃していた。

 強力な武器が積んである戦車や装甲車と戦ったことからそれらを先に破壊していたように見えた。


 撤退の指示を出し真っ先に逃げた指揮官が乗った重装甲車が、生体兵器に囲まれ横転させられ破壊されていくのを見届けるとセーギも自分の身を危ぶみその場から逃げ出した。


 初めは数人会話したことのない仲間とともにシェルターに向かって歩いていた。

 瓦礫だらけの廃墟を通るより物資を輸送するための真っすぐシェルターにつながっている補正された道を歩いていた。


 だが逃げた先に基地を襲ったのとは別の生体兵器が現れ、体力的にも精神的にも疲労していた一般兵たちは戦おうとせず散らばって逃げ出した。


 仲間ともはぐれどちらの方向が住んでいたシェルターだかわからず、夜もあまり眠れず走り歩き通しようやく見つけたシェルターがまさかの廃シェルター。


 一度は涙を流し吠えてまで喜んだセーギの心は完全に折れていた。


 だが廃シェルターには向かった。


 もちろんそこには知人もなく頼る当てもない。

 水や食糧だってあるかどうか、下手をすれば廃墟を根城にする生体兵器と出会うかもしれない。

 かといって再び外を彷徨うだなんてことをするなんてことは考えられなかった。


 元々雲行きが怪しかったが雨が降り始めた。

 強くはなく小雨程度だったが飲まず食わずで逃げていた身としてはその雨は恵みの雨だった。


 瓦礫を伝って流れていた水で水分を補給すると高い高層ビルの立ち並ぶ瓦礫の街を歩く。


 自分の住んでいたシェルターの近くにある廃シェルターは数少ない。

 瓦礫に埋もれていたシェルターの名前の入った看板を見てこのシェルターは10年前に放棄されたもののはず、歩けど進めど人の気配などない。


 雨に濡れながらふらふらとセーギは町の中央部へと向かうが、どこを見ても破壊された瓦礫同じような景色しかない。


 中央部へ向かう途中に食料品店だったものがあるはず、食べ物を探すためそこへ行くつもりだった。

 瓦礫に埋もれてでもそこには缶詰か何かがあると思ったからだ。


 廃墟と化した街を歩き足を踏み外し道に転がる。


 立ち上がる気も起きず近くにあった壁だか瓦礫だかわからない物に寄りかかり座るとその後意識が飛ぶように眠りに落ちた。


「やぁ、どうしたのそんな顔して、お疲れかな」


 薄れた意識の中声をかけられセーギが目を開けると赤い髪が目に入った。


 最初は目に血が入ったのかと思ったが声をかけてきたのは血のような赤黒い赤毛の女性で、デコボコと大きく膨らんだ肩掛けのカバンをかけていて重さから少し曲がった立ち方をしていた。


 焦点が合い彼女を認識すると、数歩離れ瓦礫の上からセーギを見下ろし彼女は笑う。


「ボロボロだね、それに疲れてる。外から来たの?」

「ああ、死にそうな思いしてここまで来た」


 一度は彼女をしっかり見れたものの疲労から徐々に視界がぼやけセーギは焦点の合わない視界のまま瓦礫に彼女を見上げた。


 彼女の風貌はこの廃シェルターで生き抜いている者としては普通の痛み泥だらけの服を着ている。

 彼女も雨に打たれ赤い髪も白いシャツも濡れて肌に張り付いていた。


 セーギは廃シェルターに人がいるという驚きはなく、人がいたと奇妙な安心感があった。


「行く宛てはある? もしよかったら私が面倒見てあげようか?」


 そういうと彼女は瓦礫から降り軍手を外してセーギに向かって手を伸ばす。


「こんな見ず知らずの俺を助けるのか?」


 疲れはあるが眠気は取れ彼女の行動を不審に思いつつもセーギはキンウに手を伸ばす。

 そして彼女は握った手を引いてセーギは立たせた。


 普通にシェルターで暮らしていれば法が彼らを守る、しかしここはこの場所は普通ではない。


 彼女が何者なのかすらわからない。

 この廃棄されたシェルターに平然と一人で現れたあたりにセーギは疑問を感じていた。


「見たところ服装から一般兵っぽいし、助けたらなんか役に立ってくれるでしょ。言っておくけど善意じゃないよ、わたしはちゃんと見返りは求めるからね、きっちり働いてもらうよ。まぁ、逃げてもいいけど、私から逃げたたら次は誰も助けてはくれないんじゃないかな。それで、あなたは私の役に立ってくれる?」


 ついて行った先で臓器を売られる、歪んだ趣味で殺されるなど想像したが、そういうことではなく少なくとも生きて利用される。


 そう思うとセーギはほんの少しだが警戒を解いた。


「ああ、わかった」


 振り返ってみると何で彼女の言うことを素直に聞いたかわからない。

 あえてなら疲弊していてまともに考える力が残っていなかったからなのだろうかそれとも救いの手を差し伸べる女神に見えたか。


 一緒に過ごしていて彼女が女神などではないことはすぐにわかったが。


「よしよし、自己紹介は後でするとして私の手伝いをすることにいくつかルールがあるから、まもってね。まず自分の安全。命は大切だからね、何を犠牲にしても私は私の安全を第一にするよ、例外もあるだろうけど99%は自分が大事。次に物の安全、これも大事! 金属とか宝石とかだけど、これをお金にするから。これがないと私たちはシェルターに行って食べ物を買えないから。自分の安全と物の安全が確保出来たらだけど、最後に他人の安全。まぁ、あなたからしたら私の事ね、私の身は私で守れるけど自分の身は自分で守ってね。言っておいてなんだけど、私はあなたを助けないからそのつもりで。だから実際は自分の身と物だけを大事にして、他人の心配は二の次さんの次」


 彼女はカバンから取り出したタオルで濡れた顔を拭うとセーギの手を引いて歩き出す。


「なぁ、とりあえず食べ物を分けてくれないか?」


 彼女は女性としては出るとこ出ておらず細身ではあるが、痩せてはおらず健康そうな体つきだった、


「ん? ああ、ごめんね今ちょっと持ってないかな。家まで戻れば何かあるからそこまでついてきてくれる?」


「今は疲れていてしっかりは歩けない、少し手伝ってくれないか」

「え、やだよ。起き上がる手伝いはしたけど肩貸して家まで連れていきたくはない……あんた汚いし」


 それがこの廃シェルターで彼女と生活をするきっかけだった。

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