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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
3章 幽霊たちの日常 ‐‐捨てられた場所で揺らめく光り‐‐
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廃屋 3

 廃墟の民家を漁り使えそうな家具や金属を近くのシェルターに売って生計を立てている、どこのシェルターも金属不足でどんな鉄くずでも持っていけばそれなりの高値で売れる。


 ーー正直、キンウの作った傭兵会社とは名ばかりでこっちが本業だと思っていた。

 ーー今回も傭兵とは関係はないが。


 セーギは溜息をつきながらゆっくりと温泉に身を沈める。


「静かに」


 割れた窓の外から聞こえた鳥の鳴声で、両者が同時に振り返り、耳を澄ませ外を警戒した。


 廃棄されたシェルターの内側でも一応は生体兵器が目撃されている、いつどこで生体兵器と鉢合わせてもおかしくないような場所だった。


 だからと言って怖いから外へ出ないというのも結局のところ見つかるか見つからないかの確率の違い、生体兵器に見つかれば殺される。


 耳を澄まして警戒するが温泉の流れる水の音だけが聞こえるだけで、生体兵器ではなさそうとお互いに顔を見合わせ、何事もないと判断するとキンウは話を続ける。


「出発は明日の朝を予定」

「そんな急で勝手な」


「あはは……一人で勝手に決めたのはわかってる。急なのも……けど、この依頼。受けたのが私たちだけじゃないから割と急ぐ必要があるの。そんなに拗ねないでほしい」

「どういうことだ?」


「この以来、私たち以外にも何社、というか何人も依頼を重複させてるらしいの。要は早い者勝ちの争奪戦ってこと、まぁだからこっちの依頼が来たわけだし。正確にはもらってきただけど」

「……じゃあ」


「私たちはこの依頼、参加、達成させるってこと……いい? おねがい」


 キンウが手を合わせ深々と頭を下げる。


 彼女が決めたことに対して文句は付けるがセーギにはじめから拒否権など無い。


 ーー普段自分勝手なこいつが今、目の前で冗談でも悪戯で罠にはめるつもりでもなく、割と本気で頭を下げている……のだろう。


 セーギはキンウと半年間過ごしてこの行動は初めてのことで、彼女が頭を下げるこのことだけでも十分危険な感じがした。


「別に最初の仕事がこんな危険なことじゃなくてもいいだろ」

「……お願い……します……」


 彼女は普段頼みを断るとひたすら駄々をこねるだけで頭を下げたり手を合わせたりしない、半年付き合って初めての出来事。


「やだよ……」

「ねぇ……セーギ……」


 なおも引き下がらないキンウ。


 セーギは半年前一般兵だった、だが前線基地が生体兵器の攻撃を受け放棄。

 指揮官は部下を置いて逃げ出しており、そこで戦っていた一般兵たちは散り散りになって逃げだした。


 そして当てもなく彷徨いようやく見つけた廃シェルターでふらふらしていたセーギを、キンウが金属回収仕事にスカウトし他のシェルターから指名を受けて調査などを行う二人だけの会社を作り半年たってようやくの金属回収以外の仕事らしい初仕事。


 その初仕事ということでキンウが少し浮かれているところもあるのだろう。


 しかし、どこをどう考えても危険しかない。


 そもそも彼女は生体兵器と闘えるのだろうかと疑問なのだが。


「……わかったよ。頭上げろ」


 セーギは嫌と首を振っていれば考え直すのではないかとおもってしばらく沈黙していたが、頭を下げたままのキンウが、仕事を下りる気がないと判断し呆れた声でしぶしぶ了承した。


 その答えを待っていたかのように頭を上げると同時にキンウは飛び上がり、大きな波を立てセーギに飛びつく。


「やったー。もう荷物はまとめて置いたから、出発の準備はもうほとんど済ませてあるからあとは荷物を車に乗せて目的地に向かうだけ。今日はゆっくりくつろいで疲れを取っておこう、これからすごく疲れるだろうから」

「競争じゃないのかよ、他の連中はもう出発してんじゃないのか、目的のなんだっけ、書類を探すのだって時間かかるだろう急がなくていいのか?」


「かもね。でも、焦ってもいい仕事はできないよ、どーんと余裕をもって構えていかないと」


 あははと笑うキンウは、すっかり明るく面倒くさいいつものペースに戻っていた。


「どういう意味だ?」

「書類なら他の人が探してくれるでしょ」


 彼女の言いたいことを理解する。


「ああ、それを奪い取るのか」

「争奪戦だもの、ね」


「ふーん。ほんとに間に合うのか? 今日か昨日の話だろ?」

「大丈夫だって。じゃ、話も済んだし、あんまり長く入りすぎるのも、のぼせるからそろそろ切り上げて上がろうか」


 温泉から出て濡れた服を持ち上げるとキンウは荷物の置いてある更衣室に向かった。


 一足先に着替えを済ませたキンウは濡れた衣服を再度絞り、それを大きなビニール袋にしまい肩掛けの鞄にしまう。


 そして、二人は沈む日の光を浴びた廃館を後にする。


 息が白く身に凍みる風が吹くキンウが小さく震え小走りで駐車場へ駆け出した。


「さて、今日はぐっすりと休んで、明日、移動中にでもじっくり打ち合わせをしようじゃないか」

「わかったよ。今日のお前のテンションのアップダウン激しいけど大丈夫か?」


「よし、じゃあ温泉入ってさっぱりしたし、この館の裏に車止めてあるからそれでさっさと帰ろうか。うう、風が寒い」

「キンウところでさ」


「ん、なに?」

「こんな離れたとこまで来て、人に聞かれないようにって、言ってたけど、普通に部屋で話しても聞かれないんじゃあ……」


「いや、本来ここには温泉入りにきただけだよ、本当に私が温泉に入りに来たとは思ってなかったの? 息抜きって言ったでしょ、廃棄されて十年くらいたつけど、この廃シェルターはまだ知らないことがいっぱいあるからさ、物探しでなんとなくここらへんを調べてたら偶然ここを見つけて、たまたま温泉でたからここに呼んでみた。んで、話があるってのはただセーギを呼び出す口実。それでセーギも一緒に入ろうと呼んだだけ、普通に呼んでも来なかったでしょ。旅は道連れってね。まぁ旅はこれからなんだけどさ。」

「わざわざ3階に呼んだ理由は?」


「特にない」

「俺、仕事前に無駄な怪我したな」


「そだね。確かに。こことか結構痛そうだしね」


 キンウはセーギに近づくと庇って落ちたときの彼の血のにじむ傷に触れる。


「っつ。やめろ、これ以上触れたら、お前、真冬の川に叩きこんでやっからな」

「おおう、ごめんなさい……そんな起こるとは思わなかった」


 先ほどのイラつきが戻って来たのか吠えるように怒るセーギへのこれ以上の悪戯は危険と判断し、キンウは両手を上げ後ろに下がる。


 ちょっと怒っただけだったが距離を取り身構えるキンウを見てセーギは何もそこまで驚くことではないの野ではと思ったが声を落とす。


「お前は怪我しなかったか?」


 誰の事と言っているのだろうと一回後ろを振り返って自分のことを言われているのだと気が付くキンウ。


「私? この防寒着とセーギのおかげさまで無傷、ごめんねセーギ、今度からはなるべく落とし穴の規模は小さくするよ」

「反省してないな」


 キンウはエヘッと笑顔を返すと車に駆け寄った。


 直ぐ近くの駐車場には車が一台だけ泊まっていて、どの車かを探す必要はなかった。


 最も廃墟にあるほとんどの車は使える部品を抜き取られていて車と呼べる品物ではないのだが。


 車の前まで来ると突然キンウの足をふらつかせ車にもたれかかった、あまりにも突然すぎたので突発的な何かを警戒し身構えた。


「……うぅ」

「どうした?」


「大丈夫、少し気分悪い……だけ。のぼせたかな……急にくらっと」


 うつむいたまま返事を返すキンウ。


「あー……ダメっぽい……悪いけど、車セーギが運転して、ちょっとと後ろの座席で横になってる」


 セーギは彼女の言葉にうっすら違和感があったものの警戒を解きとりあえずは寒いので、車に乗ることを優先した。


「……わかった、キーを貸せ」

「鞄の後ろのぽっけに入ってる」


 濡れた衣服の入った肩掛けの鞄から車の鍵を取りだしドアを開ける。


「開いたぞ。キンウ、乗れ」


 スッと起き上がり、後部のドアを開け乗り込む、あらかじめ乗ってた荷物と自身の肩掛けの鞄を車の奥にやり、キンウは後ろに座席に横になると一つ欠伸をして目をつむった。


「じゃ、ついたら起こしてね」

「ん、のぼせたってのは」


 彼女は演技がうまくいったとにんまり笑う。


「うーそ。あはは」


 以前から気分が悪いという手は使っていてもしかしてと、うすうす予想はしていたものの目の前で軽やかに車に乗り込む雑な演技姿を見て、もはや怒りを通り越し怒る気にもなれなかった。


「雑に運転して酔わせてやる」

「うわ、陰湿。これ掃除してるの私なんだからね」


 車は二人の住処にしている廃ビル群見向かって走り出した。


 そしてキンウ達の生活する隠れ家についたとき、車に酔っていたのは運転をしていたセーギだった。

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