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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
2章 迫る怪物と挑み守るもの ‐‐私情の多い戦場‐‐
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帰還、4

 携帯端末にトヨからのメールが届いてトキハルは以前にトヨときた喫茶店にいた、多少文面におかしな点は見られたものの、その後通話で話して本人であることを確認し、トキハルはコーヒーを飲みながらトヨが来るのを待っている。


 しばらくしてトヨがいつも通りヘラヘラと笑いながら店に入って来た。


「お待たせしました」


 彼女は胸元の大きく開いた黒に近い青色のワンピース型のドレス姿、装飾や紫色の模様などは袖やスカートの端だけと少なく慎ましいドレスだったがそれがかえって彼女の体のラインを浮きだたせていた。


 癖毛はヘアアイロンで伸ばし癖を若干だが抑え、その前髪にはライカにプレゼントした髪留めが付いていた合わなかったため返却されたのか、化粧で雀斑もほとんど消え無理をして作る表情と声以外は別人のようだった。


 普段トヨの胸を抑え込んでいた蒼薔薇隊のスーツ型の精鋭制服、それがなくなりで今まで強化繊維で抑えられていた大きな胸を恥ずかしそうに手で覆う。


「……どう、ですかね?」


 彼女は顔を赤くし恥ずかしさから少し上擦りながら話す。


「寒くなかったのか?」


 しかしトキハルはトヨの期待した答えと違い質問で返し、彼女は質問に答えてもらえず少し悲しそうな表情を浮かべる。


「トウジがここまで追ってくれましたので」


 つまらなさそうにそう答えるとトヨはトキハルの横の席に座り、店主にカフェオレを注文した。


 トヨの方から話があると呼ばれていたが彼女は一向に話そうとせず時間だけが過ぎていく、大扉の付近の騒ぎの音もここまでは聞こえない、シェルターに迫る危機は去ったという放送とシェルターに住む人々の安堵の声も聞こえない時計の秒針が動く音と店主の作るカフェオレが出来上がるまでの工程で出る音以外何も聞こえない静かな店内。


「トヨ」


 しびれを切らしトキハルが話を切り出す。


「なんですか?」


 注文していたカフェオレが出来上がりトヨの前に差し出されると、彼女はそれを一口すすると不思議そうに返事をした。


 呼び出したのが彼女なはずなのにその反応はおかしいと思ったがトキハルは話を続ける。


「蒼薔薇隊を抜けたらどうする」

「え、ええっと。どう、とは?」


 急な質問についていけずトヨは困った表情を浮かべ考えるとカフェオレの入ったカップを手で回しながら答える。


 王都に提出する生体兵器との戦闘報告書は現場にいたトヨに書いてもらうとして、トキハルはこれからの蒼薔薇隊のことを考えなければならなかった。


 まず副隊長のトヨがいなくなるとして、大型のエクエリを使えるものがいなくなるためこれからこの隊は戦力が落ちる。


 トヨの除隊に一度王都に帰ることになるが、トキハルは隊長として彼女の次の配属先を探さなければならない。


「追い出されて別の隊に行くわけですし、どこか別の隊に入れてもらうか、どこかのシェルターで一般兵の育成教官として職をもらうかですかね?」


 いつも通り暗くも明るくもない声でそういうとトヨは作り笑顔でアハハと笑って見せる。

 いつもの作り笑顔、いつも通りのはずなのだがトキハルはなぜかそれが気に入らなかった。


「何かおかしいか?」

「あ、いえ。でも、笑っていた方がいいって言ってのトハルじゃないですか」


 そういうと困った表情をして作り笑顔をやめてトヨは真顔に戻る。

 彼女の目付きが険しくなり目にうっすらと光がともる。


「これで戻りましたか?」


 睨みつけるような目、不機嫌というより何かに対して怒りを持っているような目。


「昔はそこまでではなかっただろ、その目」

「そうですね、何でですかね。戦ってるうちに?」


 その目つきのまま首をかしげるトヨ。

 話をするのはこんなことではなくもっと重要な事だったはずとトキハルは話題を変える。


「俺も蒼薔薇隊をやめようと思う。隊員の管理がしっかりしていなかったからな」

「え、あの、ライカちゃんたちは? いえ、違う、責任を負うは私であってトハルじゃないです!」


 カッと目を見開き驚くトヨ。

 思わず自分と一緒に抜けてくれるものだと喜んだが、急いで蒼薔薇隊のユキミネ・トヨとしての性格に戻した。

 反射的に席を立ってその声は静かな店内に大きく響いた。


「蒼薔薇隊は解散だ、シジマやムギハラ、ハシラの新しい配属先も決めないとな」

「何もそこまでしなくても。私が、私が抜ければ、そんなことには!」


 どうしていいかわからずオロオロとするトヨ。

 そんな彼女を無視してトキハル話を続ける。


「それで新しく隊を作ろうと思う。そこにお前を誘いたい」

「あ、え、あ、あの。はい!」


 話している間一口もカフェオレも飲んでいないのに勝手にむせ返るトヨの背中をさする。


「大丈夫か?」

「はい……突然すぎて唾が肺に。えっと、本当ですか……その、私を……」


 彼女を隊に誘うのは二度目だ。


 まだ新しい隊になるとは決まっていないが、精鋭を失うより名前を変えて王都の管轄から離れても別の隊として活動すると言えば許可は降りるだろう。


「ああ、お前は放っておくと今回みたいに勝手に敵に向かっていく。それに朝顔隊から引き抜いたのは俺だからな」


 蒼薔薇隊を任されたとき自分の隊に誘うメンバーを探しているときに彼女と再会した。

 一人で突っ走るところがあるものの彼女は十分に強く、目付きは気になるがそれ以外に彼女に何か惹かれるものがあった。


 目付きの悪いとトヨも笑う時だけ目が多少和らぐので、作り笑顔でいいから笑っていろと言ったがその結果が今のヘラヘラとした変な作り笑顔になる。


「それで、お前の話は何だトヨ」

「あ、その話ですか、えっと……あの」


 トキハルは自分の話が終わり彼女の話を聞く体制を取る。

 空気が変わり今までの口調から急に喋り辛そうになるトヨ。

 店に入って来た時と同様にトヨは顔を赤らめる。


「私はトハルが好きです。ライカちゃんやトガネの反応からうすうすみんなが知ってることは知ってました。ので、今回の除隊を期に全部話します」


 意を決したようで彼女は真っすぐトキハルを見て落ち着いた口調で話し始める。


「最初のあったときは、ただかっこいい人だと思っていました、朝顔隊に入って久しぶりに会ったときは私のことをあってすぐに思い出してくれず忘れていました。でも、私を蒼薔薇隊に誘ってくれたのは嬉しかったです」


 顔を赤らめ恥ずかしそうに話を続ける。


「私がトハルのことを好きになったのは、一般兵だった時に一人浮いていた私にあった戦い方を考えてくれて。トハルが隊長になった時、私を副隊長としてそばにおいてくれたことです。生体兵器に対しての憎しみしかなかった空虚な心の中に、いろんな感情や思い出ができ私の心を満たしていきました。朝顔隊では私はバメちゃんやシローメとくだらない遊びしかしてこなかったので、副隊長という責任感ある仕事を任されて……その、最初は面倒だったのですがいろいろと考えることができてよかったです」


 トヨは作り笑顔などせず鋭い目つきのままトキハルに向かって話を続ける。

 会話の内容を聞いていないものがこの状態を見れば告白ではなく別れ話の最中にしか見えないだろう。


 目付きとは逆にトヨの声はとても穏やかなものだった、親しいものに昔の思い出話を聞かせるような優しく懐かしむようなきれいな声。


「トハル……は何で私を誘って副隊長に選んでくれたのですか? 連携のとれない私が指示を出すに向いているとは思えません。今でこそですが昔はそこまで分を書くのが得意手はありませんでしたし社交性もなかったです。それに隣にいて花がある様なトハルと並んで歩くには向かないようなこんな私に」


 トキハルはトヨの話を黙って話を聞いていたが話が疑問形になり、少し考えたのち答えを返す。


「今まで出会った精鋭の中でお前が一番一緒にいて疲れなかったからだ。気を遣わず黙って指示に従って放っておいても問題ないと思っていたこともあった。どれもお前を誘った時の印象だが」


 声をかけた当初トヨがここまで厄介な性格とは知らず、淡々と仕事をこなし生体兵器との戦闘だけ彼女が独断で動かないように注意を向けていればいい存在だと思っていた。


 しつこく話しかけてくることもあったがそれでも苦と呼べるほどではなかったし、髪を整え化粧をした今の彼女は明るさこそないが結構な美人の部類に入る。


 人を褒めるといったことが得意ではなく、先ほどの入店時の彼女の姿や服装を褒めてはいないがトキハルはトヨの変わりように一度自分の目を疑った。


「今の私はどうですか?」

「面倒くさいやつだ」


 勝手に出て行って今度は呼び出す、迎えに行かされ待たされる、今日トキハルはトヨに振り回されっぱなしだった。

 わがままというわけでもなくそれほどの身勝手でもない、今日起きたことは数年同じ隊にいて初めて起きた出来事で予想だにしていなかったため彼女の策に引っかかってしまった。

 トヨの過去は彼女自身から聞いたこともあったし他のメンバー同様生い立ちや経歴を調べたこともあった。


「告白されて迷惑ですか?」

「ああ」


 彼女が薬を入れたのはこちらを信用していなかったからかもしれない、彼女の話を聞き思考を理解していれば彼女はトキハルたちとともに戦場へと向かったかもしれない、何もかも推測だが。

 薬が切れ目が覚めトヨがいないのはわかっていた、彼女は信頼できる仲間を連れて出ていったことも予想で来ていた、そこに蒼薔薇隊のメンバーが一人もいないのが二年間同じ隊として過ごした仲間として悲しさがあった。


「じゃあなんで私を誘うんですか?」

「面倒くさくても、俺もお前が好きだからだ」


 トキハルの発言にトヨは目を丸くする。


「……言っていて、恥ずかしくありませんか?」

「黙っていろ」


 二人はそれきり無言になり、カフェオレを飲んでからトヨが口を開く。


「トハル……私を抱きしめてもらっていいですか?」

「断る」

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