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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
1章 滅んだ国と生体兵器 ‐‐すべてを壊した怪物‐‐
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前線基地、4

 

 井草は全く関係のない籠に手にした鈴を戻し笛をレジに持っていこうとした。

 その後ろ姿をコリュウは止める。


「イグサ、待った」

「ん、なに、どうしたの?」


 それを見てコリュウは道をふさいでいる脚立に戸惑っていた彼女を追いかけた。

 レジに向かうのをコリュウに止められ不思議そうな顔で振り返るイグサ。


「えっと……」

「ん? どうしたの?」


 覗き込んできたイグサと目が合いコリュウは恥ずかしくなって目線を少し反らすと、彼女から笛をひったくり代わりにレジへ持って行った。


「買ってやるよ、これ」


 そういってコリュウは通路をふさぐ脚立は登って降りて向こう側へと渡っていく。


「あ、ありがと」


 突然のことで脚立を挟んでイグサが少し慌てていたが会計を済ませると彼女は店の外でまつ。

 そして会計を終えたコリュウに尋ねる。


「どうしたの、急に?」

「何でもない、気分だ気分。ほら」


 不思議そうな顔をしているイグサとともに店を出るとコリュウは買った笛を彼女に渡した。

 受け取った後も不思議そうな顔をしていたが、そのあとは素直にイグサが喜んでいてその笛を大事そうに握る。


「ありがと、大切にするね!」

「お、おう、ならよかった」


 テンションを上げたイグサの声を聴いて気を良くするコリュウ。

 早速封を解き買ったばかりの笛を掌にのせた。


「まぁ、私が選んだんだけどさ」

「まぁな。ところでそれ、その笛は音はなるのか?」


「ん、そういえばそうだね。どんな音か気になるし不良品だったら損だもんね。ちょっと待ってて」

「ゴミその辺に捨てるなよ、怒られたくない。なんか知らないけど」


 イグサは笛を持ち直し、吹き口を上に向ける。

 そして彼女は笛を口に咥えるとそれを勢いよく吹いた。


 想像を超えるほどの甲高い音が出て工事中だった作業員たちが一斉にこちらを見る。

 工事の音より大きな音の出る笛、その音にイグサ自身もびっくりして眠そうな目がぱっちり見開き咥えていた笛を落とす。


「ち、ちがうよ。ちょ、ちょ、ちょっとしか息込めてないからね!」

「え、なに? 今ちょっと聞こえにくくなってる。すげぇ耳いてぇ」


 先ほどのコリュウより顔を真っ赤にしてイグサが周囲の目から逃れるように彼の背中に隠れた。



 耳の様子が治ってから二人は落ちた笛を見た。

 何をする笛か知らないが、とんでもない音がすることはわかりイグサはそれを急いで拾い上げるとポケットにしまう。


「すごい音がしたな、まだ耳が変な感じがする」

「ほんとにね、これは殺せるよ人を。もしかしたら生体兵器も」


 いまだに耳に変な感じが残りコリュウは頭を振ったりしてみる。

 赤くなった顔のまま暑そうに手でパタパタと仰ぎ笑うイグサ。


「その場合、自爆覚悟だな。必要のないときは絶対吹くなよ、目立つ」

「多分もう二度と吹かないよ、エクエリにくっつける飾り用に買ったんだし」


 申し訳なさそうに上目遣いでコリュウを見た。


「二度と吹かないけど、大切にはするからね。大丈夫」


 なんて言っていいかわからず困ったような様な表情のイグサ。

 そして二人は再び並ぶとさっきより近い距離間で歩きだす。


「いや、俺としても吹かないでほしい、注目集めた時俺も恥ずかしかったし。シェルター内でもあぶない」


 のんびりとそういって笑って見せるコリュウに、まだ注目を集めていないかと時折周囲を確認するイグサ。


「さてさて、次はどこに行く? なんか行きたい場所とかある?」


 笛をしまったポケットを軽くたたきイグサは前を向く。


「特にないな」

「じゃあ、もう部屋にでも戻る?」


 二人は遠くに見える自分たちの借りている兵舎を見た。

 ここからそう離れていないちょっと話しながら歩けば、すぐについてしまう距離。

 散歩に飽きた感じのイグサだったが、せっかく隊長のツバメのいない二人きりだけでの自由時間にコリュウはもう少し彼女と一緒に外を歩いていたかった。


 部屋に戻っても隊長が帰って来るまでコリュウとイグサの二人っきりだが、一緒に行動していない分今より会話は減ってしまうだろう。

 コリュウは彼女とともに何か時間を潰せそうな場所ないか周囲を見渡すと、一つの建物が目についた。


「あっち行ってみようぜイグサ、あっちの丘の上」

「ん、どこ?」


 指さした先は兵舎の奥にある広場を抜けた先の丘。


 そこでも何か作られているようで何らかの建物が見える。

 あそこなら行って帰ってくるだけでもそれなりの時間がかかり、それに基地を一望できそうな丘の上、彼女との時間をもう少し長く一緒に居ようとコリュウが提案した。


「何があるの?」


 彼の視線を追って同じ景色を見るイグサ。


「さぁな、行ってみてから考えようぜ。もしかしたら何かあるかもしれないし」


 そういうとコリュウは歩き出しそのあとをイグサが追う。


「もしかしたら何もないかもね」

「そういうこと言うなよ」


 一度来た道を振り返ったイグサは小走りでコリュウの横に並ぶ。

 追いかけてきたイグサを見てコリュウは歩く速度を落とし、イグサが追い付くとまた速度を戻す。


「どうせ最初から、目的なくふらついてたんだしいいじゃんか」

「笛を忘れちゃう前に、エクエリにつけたかったんだけどなぁ」


 そういう彼女と一緒にコリュウは広場を抜け丘を登る。

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