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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
2章 迫る怪物と挑み守るもの ‐‐私情の多い戦場‐‐
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帰還、3

 トラックに揺られる眠りの中、トヨは昔の夢を見ていた。


 数年前、精鋭になる前、昔は背中までかかる髪を束ね前髪もコンプレックスだった雀斑を隠すため目の下あたりまで伸ばしていた。


 シェルターが生体兵器に襲われ放棄された後の事、彼女は救助された人の乗った輸送車で揺られはるか後方で黒煙を上げ倒れていくビルを見ていた。


 誰かの鳴き声の響く揺れる車内で彼女のそばに家族はいない、彼女の両親は生体兵器に襲われ殺された。


 逃げ惑う市民が集まっている門の前に突如現れ草原を走るように市民を踏みつけていき、たまたまトヨは踏まれなかっただけ、十数センチずれていれば彼女もその場で命を落としていたかもしれない。


 追い詰められた生体兵器はエクエリを人に向かって撃たないことを理解し、それをいいように利用され他のシェルターへと逃げようとする市民を盾にし犠牲者や被害が大きくなった。


 小さくなっていく防壁を見てトヨの心は失った悲しみではなく、壊された殺されたという憎悪が支配していく。


 門から脱出し近隣シェルターまで無事に移動できたのは数万人いた中での数千人、そして避難した先の暮らしも楽ではなかった。


 避難民を受け入れたシェルターは急に人口が増えたためあらゆる施設が足りず、学生で学校暮らしだったトヨも両親がいなく引き取り手もないため入隊試験を受けずに強制的に一般兵に入隊させられ、シェルター防衛は定員オーバーで実戦経験のないまま前線基地へと送られる。


 十分だった。


 彼女は生体兵器への憎悪を日に日に増していき、生体兵器に対する知識をため込んでいった。


 運動が不得意だったわけでなく体力は平均より少し上な程度だった、学力も普通より少し上程度の特に秀でた個性のない子だったが、生体兵器を狩るという憎しみが戦闘に関する知識と技術の吸収を速めていく。


 彼女がトキハルと出会ったのはそんな時、出会いは旧市街地の工場跡に逃げた手負いの生体兵器の駆除で多くの一般兵が逃げ道をふさぐ形で集められた際の出来事。


「今回の作戦は大がかりだな。サジョウ・トキハルだよろしく頼む」


 戦場に同い年くらいの一般兵がいたので彼は気まぐれで話しかけてきた。


「私はユキミネ・トヨ」


 その時は生体兵器さえ倒せればどうでもよかったので適当な返しをした、彼はトヨの目を見て怪訝な顔をする。


「そんな髪だと視界が狭くないのか?」


 顔半分を覆い隠す伸びた髪をみてトキハルは言う。


「別に、戦闘時は左右に分けるし」


 そういってトヨは髪をかき分けて彼を見た、生体兵器に対する憎しみのこもった鋭い眼差しで。


「目つきが悪いな」

「私にどうしてほしいの?」


 彼のストレートな反応、昔はそれなりに喜怒哀楽のある普通な表情だったがシェルターから逃げている最中に目つきが悪くなり、前線基地にきて日夜生体兵器と戦うことでもっと目つきが悪くなった目は、今ではそれが標準となりちょっとやそっとじゃその目つきは変わらず、今も意識して作り笑いをしていないと目つきが戻ってしまう。


 話しをしていると生体兵器が逃げ込んだとされる建物で土煙が立つ。


「いや、すまなかった。俺がどうこう言うことじゃないな。向こうに動きがあったな、こっちに来るか」

「じゃあね、サジョウ君。生きてたらまたどっかで合うでしょ」


 そういうと自分の持ち場に着き戦車隊とともに包囲の輪を縮めるため前進を開始する。


 それが記憶にあるトキハルとトヨの最初の出合いだった。


 その後、戦いの成果でトヨもトキハルもそれぞれ別の精鋭に誘われた。

 生体兵器に対する恐怖心がなく気後れすることなく立ち向かうことのできる勇気、的確な損傷個所に対する追加の攻撃が評価されたらしい。


 それから三年ぶりにトヨはトキハルに出会うことになった。


 背も伸び大人っぽい顔つきになった彼は身に纏う空気が一層冷たく感じたが一目見て彼を見間違えることはない。


 前線基地を転々としトヨの所属する隊が付近を通りがかった際、複数の精鋭が合同で生体兵器の巣を攻撃するということで集められ偶然会った。


 見て見ぬ振りもいけないだろうとトヨはあいさつのためトキハルの元へと向かう。


「何か用か?」


 トキハルは駆け寄って来たトヨを見て冷たく言い放つ。


「わたしです。覚えてはいませんか?」


 彼はトヨを見ても表所を変えず早く話を切り上げたいという雰囲気を出していた。


「すまない、どこかであったか?」


 思い出してもらえなかったことにショックを受けたもののトヨは前髪を上げその目を見せる、するとトキハルは彼女のことを思い出したようで彼の反応が変わった。


「ああ、ユキミネ……だったか。お前はいまもそんな目をしているのか」


 軽くあしらってこの場を後にしようとしていたトキハルだったが、知り合いと知ってか彼はトヨの話を聞く気になり質問してくる。


「ええ、まぁ。……私の事覚えていませんでしたね、私は覚えていたのにサジョウ君」

「すまないな、何年振りだ? 今、お前はどこの隊にいる?」


 トヨの少しネチッとしたことを軽く流して質問を続ける。


「朝顔隊です」


 それを聞いてトキハルは少し驚く。


「……あの朝顔隊か」


 今の朝顔隊はそれほど話に聞かなくなったが前期の朝顔隊の隊長をはじめ、ツバメ、トヨ、シロヒメが朝顔隊のメンバーとして所属していた時の朝顔隊は全精鋭の中で最もひどい隊だった。


 作戦を持たずに生体兵器と交戦。

 連携を取らず各個人の能力だけで戦って生き延びる鬼のような強さを持つ隊。


 その時の隊長の気の利いた判断と援護で辛うじて隊と呼べるような集まり、朝顔隊はどんな手を使っても最終的に生体兵器を倒せればいいそんな隊だった。


 生体兵器を倒すことだけに命を費やすトヨとしては願ってもなく彼女は戦い続けた。


 もちろん同じ隊のメンバーで連携が取れないのに他の隊と連携を取るのは不可能で合同作戦時はその足を大きく引っ張っる、その隊にトヨが属していることをトキハルは知らなかったようで前にも後にも彼のあれほどの驚き方を彼女は見てはいない。


 その後、朝顔隊を作戦に呼んだことでもちろん作戦はうまくいかなかったがm何とか生体兵器は駆除できた。



 懐かしい昔の夢を見ているときに誰かに肩をゆすられ、トヨは昔から今へ連れ戻され目を覚ます。


「トヨ」

「……はい?」


 起きようとしてシートベルトが食い込み座席に戻される。


「シェルターについた、降りろ」


 トキハルはトヨが起きたことを確認すると自分の荷物とトヨの大型のエクエリを持ってトラックから降りていった。


 トヨはシートベルトを外し辺りを見回す。


 車内に朝顔隊の姿はなくすでに移動したようで外の音が大きく聞こえ、トラックの外はお祭り騒ぎで他の精鋭達もその騒ぎに交じっていた。


 トラックから降りるとトヨはトキハルを探す。


 ここまで勝手なことをしてのだからちゃんと話さないといけないことがある、トヨは走って彼の後を追おうとした。


「トヨちゃん」

「トヨッチ」


 話しかけられ声の聞こえた方にトヨは振り返る。


 後ろからライカとトガネがトヨの後を追って走って来ていた。


「トヨちゃんサジョウ隊長のところへ向かうんでしょ」

「トッキーのところに行く前にちょっとこっちに来てもらっていいかな」


 そういうとライカがトヨの手を取り蒼薔薇隊の止まっている部屋とは別の方向に連れていく。


「先輩、トウジは?」

「ジープに乗って今こっちに向かってきてる、たぶん迷子にはならないと思うけど」


 抵抗しようともしたがせっかく自分に何かをしてくれようとしているので、そんな二人を不愉快にさせるわけにもいかずなすがままついていく。


「どこに連れていくんですか? 私はトハルに話が……」

「すぐに終わるからさ」


 トガネがそういうとトラックの前まで戻され、ライカとともに乗り込んで奥の部屋に連れていかれる。


 トガネは外で待つようでライカが乗り込むとき彼が持っていた荷物を彼女に渡した。


 トラックの後部、主に寝室として使う私生活のスペースは丈夫な走行で守られており覗き窓はないため、入って来たドアからの明りで薄暗くライカはすぐに明かりをつけた。


「何するんですか?」


 ドアを閉めると鍵をかけライカは手にした荷物を開ける。


「トヨちゃん服脱いで」

「は?」


 荷物を取り出しながらライカはトヨに指示を出す。


「それと携帯端末貸して。それで先輩がサジョウ隊長にメール打つから」

「え、え。ほんとに何するんですか」


 準備ができ自分で脱ごうとしないトヨの制服を脱がしにかかるライカは、トヨの上着のボタンとズボンのベルトを外したところでその質問に答えた。


「罰ゲーム」

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