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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
2章 迫る怪物と挑み守るもの ‐‐私情の多い戦場‐‐
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帰還、2

 装甲トラックは強引に階段を上る際に扉の向こうの朝顔隊がとんでもなく賑やかに騒いでいたが、トキハルは無視をして市民ホールを抜け出した。

 振り返ると照明弾から燃え広がった火でホールは黒煙を上げ燃え落ちていく途中だった。

 足元に置いてある大型のエクエリもベルトで固定はしてあるものの、予想以上の揺れに留め具の金具が壊れるかもとトヨは足で押さえつける。


「さすが、王都の技術……何でもできますね……」


 無言の状態に耐えきれずトヨが話しかけたが車体の揺れる音でほとんどがかき消された。

 ひっくり返り横転しないように気を付けゆっくりと瓦礫を踏み越えていく十輪の装甲トラック。


 半壊した家屋の上を無理やりに通るたびその半壊の建物を全開させ破壊し、落とし穴に落ちるような大きな段差で上下に強い衝撃を受ける。


「しゃべるな、下を噛むぞ」


 シートベルトを着けていなければトラック中を飛び回ることになっただろうが、トヨも罵声が飛んでくるトラックの後ろのことは極力気にしないようにした。


 ゆっくりとだが荒波を進む船のように上下して進む装甲トラックの内側は、生体兵器に体当たりをした割に損傷はなく計器類も正常に機能している。


 外側は爪や牙でひっかかれた跡や血が大量についてはいたがトラックの走行に支障はない。


 やっとのことで住宅街を抜け出し商業区の大きめの道路に出ると、振動も朝顔隊も静かになった。


「……トヨ」


 たまに瓦礫を踏みつぶす衝撃がある車内でトキハルが小さな声で話しかける。


「はい?」


 気のせいかどうかわからないような声に、トヨは疑問符を浮かべながら答えた。


「王都に帰ったらお前には蒼薔薇隊を抜けて別の隊に入ってもらう」


 運転をしながら表情を変えずにさらりと出た言葉にトヨは一瞬意識が遠のいた。


「……はい」


 睡眠薬を砕いてコーヒーに入れた際に覚悟していた事だったが、その言葉を聞いて俯き泣きそうな顔を隠して返事をする。


 トヨの声色はいたって普通だったので運転しているトキハルには気が付かれなかったようだが、返事の遅さからうっすらと何かを感じ取り彼は後で言おうと思っていたことを口に出す。


「それでその後は……」


 しかしトキハルの話を遮るように無線が入り待機場所にいる、トウジから連絡が入った。


 タイミングの悪さに悪態をついたがトキハルは無線を取り報告を聞く。


『トキハル、俺だ。今、そこにいる朝顔隊以外のすべての精鋭たちが集合した。どうする、このまま帰るか?』


 無線から聞こえてくるトウジの報告を聞いて少し考えてからトキハルは返事を返す。


「ああ、そうしてくれ。こちらもそちら向かっている移動しながら合流できるだろう」

『なら俺たちは先に帰る、朝顔隊もいるんだろ? 途中で生体兵器と鉢合わせても問題はないよな』


 実際、小型の生体兵器の攻撃ではびくともしないように作られてはいるがあれだけ大きな騒ぎを起こしながら戦った後のため、ほとんどは戦闘で駆除されたとトキハルは待機させておくと何をしでかすかわからない精鋭達を先にシェルターに返すことにした。


「ああ、大丈夫だ何とかする。大扉に帰ったら一般兵たちの警戒を解除させておいてくれ。特定危険種は全て排除したと」


『了解』


 無線を切るとトキハルの隣で俯いたままトヨが申し訳なさそうに静かな声で質問した。


「あ、あの。私が勝手に乗って来たジープやバメちゃ……朝顔隊の軽装甲車両などは?」

「明日にでも特定危険種の死骸の処理がてら回収してもらえるだろう」


「そうですか。あ、ワニのこと忘れてますよ? えっと、それで話の続きは」

「……帰ったらする」


「はい」


 それなりに重要な話では合ったが今しなければならない話でもなく、先延ばしにすることにして装甲トラックはキノウラシェルターへと向かった。



 大扉が見えてくるとある異変に気が付く。

 警戒は解除するように言ったものの大扉の前に戦車隊が整列し多くの精鋭の姿も見える。


 大扉が閉まっていては入れないというわけでもない、大扉はは完全に開かれいつでも自由に入れるようになっている。


「勝手な行動をしたやつらか、何でシェルターに入らない?」


 トキハルは助手席に座っているトヨに話しかけたつもりだが、彼女は俯いているのではなく知らない間に眠っていたため返事は帰ってこなかった。


 無線を取り通信範囲まで接近する。


「どうした? なぜこんなところで停まっている」


 返事が帰って来たのはトウジからではなく一般兵の指揮官だった。


『んん、ああ。やっと帰って来たな。いや、普通に帰ってもよかったのだが精鋭たちが凱旋したいってことで今誰が先頭をやるかでもめている最中だ』

「くだらない」


『なんか楽しそうだからな放っておいた。気分良く帰って来たのだから、ここで空気を読まないというのもな』

「道を開けろ、付き合ってられん」


 しかし、精鋭たちはみんな自分の車両に乗っていて話し合っている様子はない。

 無線で話し合っているのかと不思議に思いながら装甲トラックは整列した車列の間を通り抜ける。


 一番先頭に停まっていたバイクに乗った蒲公英隊を通過した瞬間、止まっていたすべての車両が動き出す。


「なんだ、話し合っていたのではないのか?」

『いやな。あなたの隊のメンバーに聞いたところ、そう言うだろうと思って前もって道を開けておいた。やっぱり先頭は一番貢献して者ではないとな』


「トヨなら寝てるぞ、朝顔隊もおそらく寝てる。静かだからな」

『……まぁ、それとなく起こしておいてくれ。それは予想外だった』


 朝顔隊に後で文句を言われても鬱陶しいだけなので、トキハルは生体兵器発見時に鳴らす交戦準備のための警報のボタンを躊躇なく押した。


 車内の照明が落ち赤いハザードランプだけが光りけたたましいベルの音が響くと、トヨが目をこすりながら起きる。


「……敵ですか?」


 動揺することなく目を覚まし、外をちらりと見てトキハルの方を見るトヨ。


「いや、シェルターに帰って来たから起こした」


 意識がはっきりせず朦朧としたままトヨはこっくりこっくりと頭を揺らす。


「……も少し寝てていいですか?」


 起きる様子はなく答えを聞く前にトヨはまた背もたれに寄りかかり瞼を閉じた。


「好きにしろ」


 それだけ言葉を交わすとトヨは再び寝息を立てはじめる。

 そこに入れ替わるように朝顔隊が慌てて奥の部屋から出てくる。


「なんですか!」

「この警報、何!? さっきの仕留め損ねが追ってきたとかか!」


 予想通り奥から慌てて出てくる朝顔隊。

 隊長と男性隊員だけで一人足りなかったが、トキハルは今いる二人に事情を説明する。


「シェルターに帰って来た。起こしに行くのが手間だったからこれで起こしたまでだ」


 そういってトキハルは警報のスイッチを切った、するとベルが止まり消えた電灯が戻って車内を赤い光から白い光に染める。


「なんだ、びっくりした。じゃあ、敵ではないんですね。ん、イグサが来ないな?」


 溜息をついて緊張を解く二人。


「なんだ……びっくりした。んじゃついたら呼んでくらはい、せるたーに」


 大きな欠伸をするツバメもトヨと同じく相当に疲れているらしく会話が嚙み合わない、コリュウの方は後ろの方を気にしている。


「だから、シェルターに着いたと言っている。寝ぼけてるのか?」


 ツバメとコリュウがフロントガラスの外を見て現在地を確認していると、さらに後ろからイグサがよたよたと歩いてくる。


 日ごろから眠そうな目をしているため、しっかりと起きているかはわからないが。


「なに、いまの?」


 声を低く不機嫌なのはこの場にいる誰からもわかった。


「イグサも起きたか。帰って来たってさ、シェルターに」


 コリュウの報告を聞いても無反応なイグサ。


「そう……それだけ?」


 揺れる車内でものにつかまらず突っ立っているイグサが危なっかしいので、コリュウがふらふらとしている彼女を支えるとそのまま彼女は彼に全体重を預けた。


「え、あ、ああ」


 イグサを運転席の後ろの座席に座らせると、彼女はそのまま目を瞑って眠りなおした。


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