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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
2章 迫る怪物と挑み守るもの ‐‐私情の多い戦場‐‐
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帰還、1

 朝顔隊は客席二階で、一階の客席を破壊しながら何度もハンドルの切りなおしを行い方向を変えるトラックを見ていた。


 時間をかけやっとのことで運転席をホールの入り口に向けると、トラックの運転席からトキハルが下りる。


「見つけたぞ。まったく勝手な行動を」

「トハル」


 トヨは鋭い目つきのままトキハルを見ると、怒られるまでの心の準備と別れ際に強く抱きしめた時の事を思い出し慌て怯えパニックを起こして後ろに下がる。


「えっと、なんでここに……あうっ!」


 トキハルは無言のままトヨに近寄ると躊躇なく彼女の側頭部を殴る。

 強くはなかったものの殴られた箇所を抑え後退り、彼女はふらついて段差を踏み外し尻もちをついた。


「ひどい‼」

「おまえ!」


 強さなど関係なくトヨの横でツバメが、客席二階からイグサがトキハルを睨み飛びかかる勢いで講義をたてる。


 頭を押さえ立ち上がると癖毛に絡んだ埃を払うことなくトヨは真っすぐとトキハルの元へ向かう。


「トヨ、大丈夫? そっち行かない方がいいよ」

「いえ、私が悪いんです」


 ツバメがトヨの腕を捕まえ止めたがそれを振り払う。


 トヨの方が段差の上にいて彼女より背の高いトキハルと背の高さは大体同じくらいで、いつもは少し見上げる彼を真っすぐとみてトヨは頭を下げた。


「トハル……いえ、サジョウ隊長。睡眠薬を盛ってみんなを眠らせ作戦を台無しにした隊への裏切り行為、私の独断で作戦を無視して他の隊を勝手に動かしたこと、申し訳ございませんでした。一般兵の戦車隊や他の精鋭部隊は皆私の指示で動いていましたので、責任はすべて私にあります。彼らの分の処罰も、私に下さい……あ、蒼薔薇隊の除隊なり、王都に報告して懲罰部隊に送るなり、全部私が動いたときに全て覚悟しています」


 トヨは素の表情で真っすぐとトキハルを見る。


 階段の上で彼女のいる位置の方が高く上目使いで謝りながらも、昔の癖で獲物を射殺すような眼光を放つトヨにトキハルは呆れたように口を開いた。


「まず、服装を正せ。後、目付きだ、人に向ける目じゃない」

「え? ああ、はい」


 キョトンとしたのち急いで胸元のボタンを留めると、ぎこちない作り笑顔を作り直す。


「これで問題ないでしょうか?」

「ああ、それと他に謝ることは、ないのか」


「……わざわざここまで来ていただいてすみません?」


 勝手なことをしたということよりも迎えに来てもらったことに感謝を述べるトヨに何か言おうと口を開いたが、そのまま溜息をつくとトキハルは朝顔隊に向けて言う。


「帰るぞ。朝顔隊も撤収だ、お前たちも乗れ」

「あ? 外にはまだベヤーが何匹かいる、今の戦力差なら倒せるだろ。集団行動というか群れで特定危険種認定されてるんだったら、個別で戦えばちょっと厄介な生体兵器なんだからさ」


 ツバメがトキハルに嚙みつくが「無線があるなら他の隊に連絡を取ってみろ」とだけ言いトキハルはトラックへと戻っていった。


 トキハルがいなくなってから言われた通りトヨの横でツバメはヘットセットで他の隊との連絡を試みる。


『お、つながった。もしー、そっちらさんはどんな感じかー。こっちは、というか私たちの方はええかんじに終わったよー、ねー』

『だからッ、やめっ、くすぐったぃ、コウヘー、コウヘーー!』

『えー、ノノがんばれ。地上にいるベヤーの討伐は完了。小型生体兵器も何とか一匹残らず倒しました』

『……戦闘後も賑やかだな精鋭って、本当にお前たちは人間か? それで朝顔隊は無事か? タルトがお見舞いの品になるのは嫌だぞ。何はともあれ一度合流しよう、我々はすでにあらかた集合し森の入り口付近で待っている』


じゃれ合う声とすでに全員が集合していることに少しショックを受けたツバメはそっと無線機から手を放した。


「へぇ……了解。んじゃ帰るよ、二人とも早く降りといで」


 無線を切るとテンションの下がったツバメは部下二人を下の階に降り帰る用意をさせる。



 装甲トラックの内部は前と後ろで作りが異なり、前面部分は座席部分の内装はバスの様になっており、運転席と助手席の後ろに席があって中央に一直線の通路がある。


 通路を挟んで左右に座席がついていてトキハルは運転席、隣に座るのをためらってはいたが結局トヨは助手席に座り、ツバメたち朝顔隊は運転席と助手席の後ろにある座席ではなく、さらにその奥へ行く。


「隊長、座席に座らないんですか?」

「いいから、コリュウもこっちにこい。ここにいると邪魔になる」


 そういうと朝顔隊はまとまって奥へと進んでいく。


「ベットあるよ、シェルターに着くまで寝てていい?」

「寝ててもいいけど、これからすごい揺れるだろうからたぶん気分悪くなるよ」


 車体の後部は運転席側と一枚隔て居住スペースと寝室が一体となっている。

 こざっぱりしていて机として使っている食器などが仕舞ってあるトランク、椅子として使っている壁側に折りたためるベット、整備後ということもあって汚れ一つなかった。


 朝顔隊は居住スペースに移動し運転席側につながる扉を閉める。


「えっと、トハル一人で来たんですか?」

「いやトウジと一緒に来たが、あいつを戦車隊の護衛に置いてきた」


「えっと、ライカちゃんとトガネは?」

「二人は置いてきた。怪我人だしな」


「えっと……」


 トヨが言葉に詰まる。


「なんだ」


 トキハルはそのまま黙り彼女の言葉を待った。


「迎えに来てくれてありがとうございます」

「ああ」


 運転席に設置されたモニターに動く影があった、サイドミラーなどがない代わりに全周囲を小型カメラが映している。


 そしてその画面に動くものがあり、動く影があるのは先ほどトラックが突っ込んで壁に開けた穴。


 崩れた壁から前足を引きずり口からドロドロとした血を吐き黒いベヤーが現れる、血をまき散らせながら吠えるとトラックめがけ動く方の腕で周囲の観客席を抉り飛ばす。


 それくらいでは些細な傷程度しかできず、トラック内部に騒音が響く。


「イテテテ、イグサのおかげで耳痛いんだからやめさせてくれ」

「ガンガン、うるさーい!」


 後ろで騒ぐ朝顔隊。


「ちょっと、とどめ刺してきます」

「できるか?」


「もちろんです」


 そういってトヨは固定した大型のエクエリを持ち出し車内後部へ向かう。


「手伝おうか?」

「大丈夫です、あれだけ怪我をしていれば避けられることもないでしょうし」


ツバメに感謝を述べ後部のドアを開け、車外にエクエリの銃口を向ける。


トヨを見つけ血を吐きながら吠えるベヤー、最後の力を振り絞ってか体中から血をまき散らしトラックへと走ってくる。



「まだ、こんなに動けるんだ」


そう呟いて十分にひきつけ引いた引き金はベヤーを頭から射貫く。

黒いベヤーはまともに歩くことすらできない状態で巨体大型のエクエリの直撃を受け力尽き、ホールの床に倒れたのを画面越しに確認しトキハルはトラックを発進させた。

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