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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
2章 迫る怪物と挑み守るもの ‐‐私情の多い戦場‐‐
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来るものを迎え撃つ、8

 

 空中で身動きが取れないままトヨは数メートルほど先の客席に落ちた。


 衝撃で背負った大型のエクエリが彼女の背から外れ彼女の近くに落ちる。


 エクエリを取った際腰の鞄が閉まっておらず、落ちた先で中身をぶちまけるとトヨは素早く起き上がり大型のエクエリに手を伸ばした。


 しかしトヨが起きあがると同時に生体兵器は後ろに回り込んで、大型のエクエリを拾う隙を与えず彼女をさらに吹き飛ばす。


 今度は宙を舞わず客席を破壊しながら転がっていく、強化繊維でできた制服で頭を守ってはいたがその分のダメージを腕に負った。


「これは……全く、辛いなぁ……」

『トヨ! 無事!』


 合流しようと上の階に迎えに上がってきたツバメが、イグサのそばにトヨのいないことに気が付き声を上げる。


 客席二階の真下で行われる戦闘に朝顔隊は手を出せずにいた。


 ツバメはトヨがエクエリを持っていないことに気が付きコリュウを連れて下に戻ろうとしたが、小型のエクエリではあの体に与えられるダメージがあまりにも勝算が低く、助けられる可能性も限りなく少なく動けず舌打ちをする。


 イグサは何とか真下で戦っているベヤーが狙えないかトヨの落ちた亀裂から角度を調整する。


 コリュウはいつ周りが崩れ落ちるかわからない場所に立つイグサに、なにかあったときのためにそばに立つ。


 転がった先で蹲るトヨ。


「最後に、持ってるのがこれとはなぁ……」


 丸まったまま動かなくなったトヨにとどめを刺しに生体兵器は迫る。


 生体兵器の接近にトヨはポケットに手を入れふらふらと立ち上ると、攻撃を受けてもヘラヘラしていた顔から一転して生体兵器を睨めつけた。


 客席の間に落ちたトヨを見つけたベヤーは二本の足で立ち上がりその腕を振り上げる、大振りだが一発で相手を殺す体重を乗せた一撃。


「目つき悪いからあんましたくないけど……」


 再び腕を振り上げるベヤーに、獲物を狙う獣のような眼光を放ちトヨは生体兵器に向かって歩き出し、左腕をポケットから出すと手にしたものを生体兵器に向け向きを整え噴射する。


「冷感スプレーの初使用が私じゃないけど怒らないでくださいね」


 突然の刺激に驚き攻撃にわずかな隙が生まれトヨはその隙に距離を取った。

 そのまま小型のエクエリのある方へ走り冷感スプレーを捨て薄明りの中、光る鏡面使用のエクエリを左手で拾い上げる。


「これもお揃いで色合わせたのに……」


 亀裂のある場所を探し跨ぐように立つイグサは大型のエクエリを急角度で下に向けベアーが射角に入るのを待つ、彼女のいる位置を確認しトヨは移動するとヘットセットを使わず直接上に話しかけた。


「アモリさん、炸裂式雷撃弾使えますか!」

『えっ、あ、今ですか? すぐ切り替えます!』


 トヨが小型のエクエリを撃ちながら後退していると、ベヤーは再び四つん這いになり柔らかい腹部を隠す。


『できました』

「真上に来たらいつでもいいです撃ってください」


 亀裂をまたぎ援護するイグサの近くから、ツバメが顔を出しトヨの無事を確認する。


『撃ちます!』


 放たれた炸裂式雷撃弾は錆びた客席の金属に反応し青白い光を放ったが、ベヤーは一瞬怯んだだけで吠える重低音にホールを響かせると、またトヨを追って四足歩行で走り出した。


「怒った? むきになって……やっぱり知能が発達すると動物的本能が鈍くなるのですね」


 向かってくる生体兵器を睨みつけたまま鏡面光沢のエクエリを腰の空になったカバンにしまい、足元に転がっているものに足を引っかけ蹴り上げる。


 流石に全体を蹴り上げるほどの力はなく引き金のある後部の方だけ上がるように蹴り、落ちる前にそれをつかむ。


「左手じゃうまく狙えないけど」


 二メートルほどある白と茶色の柱をつかみあげると脇に抱え、その先端をベアーに向けた。


 弾種を貫通榴弾に変える、背中からだとうろこ状の体毛で内側にダメージが入らないが正面からなら腹部が狙える。


「終わり」


 直後、生体兵器は横に跳ね客席を転がりその一撃を躱す、流れ弾は壁に当たるとコンクリートや金属を残し木造の部分だけはじき飛ばした。


「躱された!」


 すぐに銃身をベアーに向けなおし、次弾までのチャージが終わり次第第二射。


 冷静に狙うことができず慣れない左手で扱ったこともあって銃身はやや下を向き、今度は朽ちた客席と床の腐った絨毯を吹き飛ばす。


「まだぁ!」


 あらためて構えなおすがそれは撃つ前にベアーによって弾かれ、放たれた弾は壁を破壊する。

 トヨも身をねじりベヤーの攻撃をかわすと耳元でブンッと風が通りすぎる。


 その勢いでトヨも飛ばされるとホール入り口、エントランスの方から大きな破壊音が聞こえてきた。

 それと同時に機械音が聞こえその音はどんどん大きくなる。


「……エンジン音? どこから……戦車が戻って来た?」


 ベアーもその音に気が付き、トヨに向けていた警戒を薄め周囲を警戒する。

 それからすぐベヤーが入ってくるときに壊した防音扉をさらに大きく壁を破り、大きな白と茶色の装甲トラックが入ってきた。


 前線基地で使われている輸送用の大型トラックより大きなそれは、壁を破ったところで一度停止し、現状を把握すると前進を始めた。


 突然の来訪者に、ベアーは危険度の高い方に体を向けると低いうなり声で吠える。


 格納されていたサーチライトとヘットライトのハイビームを当て熊の目を眩ますとトラックはゆっくりと速度を上げていく。

 サスペンションがきしむ音を立てながら座席を壊し緩やかな段差を削りながら速度を上げるとそのまま特定危険種に突っ込む。


 迎え撃つように特定危険種が正面から当たりに行こうとしたが、その足をトヨは小型のエクエリで撃ちぬきバランスを崩し体勢を立て直せないままベヤーにトラックが当たる。


 衝突の衝撃波で空気が揺れた。

 トヨの前を特定危険種を引きずりながら通り過ぎていくトラック。


「これって、うちの隊の装甲トラック?」


 巻き込まれないように這って進行方向から十分離れると振り返ってトヨが呟く。


 そのまま特定危険種を壁まで押しやりトラックは入口の正反対の舞台を破壊しホールから消えていく、そしていなくなってからすぐに建物が揺れた。


「なん?」


 その揺れでイグサが落ちそうになりコリュウがその手を掴んで引き寄せる。

 揺れでどこかが崩れ落ちる音が聞こえ、ホールの天井にも亀裂が走った。


「そのうち、崩れるかもね」

「ええ」


 二階客席の崩れた場所から降ってくるように降りたツバメは、駆け寄り手を伸ばしトヨを立たせる。


「なんだかよくわからないけど、ここから早く移動しよう」

「え、え、えっと、今の」


 装甲トラックが下がってくる、その運転席に生体兵器の血を大量につけて。


 大きなホールも大型の装甲トラックには狭く切り返しに時間がかかる、その間トヨも朝顔隊もその場で黙って待っていた。


「迎えでしょうか?」

「無茶するなぁ。運転席殴られてたら装甲トラックでも無事じゃなっただろうに」

「あの階段どうやって降りたんだろ」


 切り返しの終わった装甲トラックは変形し動きの悪くなったワイパーでひびの入ったフロントガラスの血を拭き落とす。

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