来るものを迎え撃つ、6
トヨたちが市民ホールで戦っているころ、分散して散り散りに戦っていた精鋭達。
群れなら苦戦を強いられただろうそれも各個撃破となると、一隊一匹の戦いは精鋭たちが優勢だった。
「ほらほらー、早く何とかしないと死んでしまうよ、それでええの?」
藪椿隊のアミツはベヤーの攻撃を紙一重で躱しながら小型のエクエリを放つ。
硬いうろこ状の体毛に全く効き目はないが、それでも彼女は逃げようとはしなかった。
生体兵器の攻撃で壊れ建物が倒れる。
二次的な攻撃で瓦礫に潰されるところだったアミツはここでいちど生体兵器から距離を取る。
「危ない危ない、危うくペチャンコになるとこだったなー、こわいなー」
倒れたビルの中をつかず離れず攻撃を見切る距離で一人で戦うアミツ。
一撃で致命傷にも死にもつながる戦闘を身のこなし鮮やかに避ける。
「しっかし、この巨体にしてこの速度、攻撃範囲も広いし一撃も重い。それに加えてこの硬さで特定危険種ときた、いやー本当に小型のエクエリにはつらい相手やねー」
瓦礫を乗り越え倒れたビルの外に出た。
ビルを潜り抜けると廃墟を飲み込んで成長する紅葉の始まった森がある。
当然辺りには先に散った落ち葉が散らばっていてビルの壁沿いには風で集まった落ち葉が山のように集まっていた。
「ほらほらー、熊さんこちら、手の鳴る方へー」
軽くリズムを取りながらアミツは派手な法被をはためかせエクエリをビルの中へ撃つ。
腕力による近接攻撃だと躱されると接近戦をやめ、アミツの挑発に乗るようにベヤーは突進で彼女へ向かう。
金属、ビルの壁、瓦礫、すべてが弾き飛ばされすべてが砕け散る。
「おわー、むっちゃ早いなー。とっとっとー」
今までは余裕を持った回避だったが突然の突進は、危うく巻き込まれる可能性のあった一撃で、アミツは法被を脱ぎそれをベヤーに向かって投げる。
藍色の制服より派手な色の法被を追いかけ彼女を一瞬見失った。
アミツはその一瞬生まれた隙で濡れた地面にスライディングをして必死に避ける。
余裕のなくなったアミツに追撃しようとベヤーは方向を変えようとした。
しかしその巨体は雨水を吸った落ち葉の上で滑って転びそのまま回転し転がっていく。
「あはは、転んだ転んだ。みんなーもう撃ってもええよ~」
無線で隠れていた仲間に連絡を取るアミツ。
指示を出し終わると同時にアミツが戦っていた倒れたビルの上から大型のエクエリが一斉に仰向けに倒れるベヤーに貫通榴弾を撃ち込む。
柔らかい腹部を撃ち抜き骨あるいは硬いうろこ状の体毛に当たり内臓が弾ける。
「えぐいなぁ。みんな残りのバッテリー残量確認後、他の隊の援護に行くよーええかー」
泥水を吸い重くなった法被を拾い上げると藪椿隊は移動を開始した。
あちこちで破砕音が聞こえてくる中、エンジンの音を響かせベアーと連携し他の隊に奇襲を仕掛けようとする小型の生体兵器の排除をしている隊。
「大型は、ほかに任せて、私たちは、これの、相手をする」
ノノは土筆隊に連絡を取り合同で小型の生体兵器を追う。
「了解了解。任せろ、精鋭が二隊がかりで相手するんだ、負けることはないだろう、なぁそうだろ!」
バイクを止め正面にいるイタチ型の生体兵器に小型のエクエリを向け、蒲公英隊が両足を撃ち抜き地面に頭をつけさせるととどめを刺しまた走り出す。
「……あ、はい。そう、です……」
「すみません。あまりノノを怖がらせないでください」
怒鳴りつけるような土筆隊の隊長の声に竦みあがるノノそこにコウヘイがやって来て彼女は隠れるように彼の後ろ走る。
「ああ? 俺のどこが怖いって? このサングラスか!」
「……ぜんぶ」
コウヘイの後ろを走るノノの声がヘットセット越しに聞こえる。
走りながらの射撃は当たりにくく、路面がぬれていて片手での運転は危険だが土筆隊は派手に攻撃し無駄に外していた。
その関係ない方まで飛んでいく流れ弾に当たると危険なので蒲公英隊は前には出ず、土筆隊の後ろから周囲を警戒し背後を取ろうとしていた生体兵器の相手をする。
「というか、あんまり、騒がないでほしい。蜥蜴まで、集まって来てる」
「ああ、知ったことか、生体兵器はみんな敵だ、動く的だろ。黙って全部たおしゃいいんだよ!」
わかりやすく単純な作戦で軽率な行動にノノは不快感を表した。
「なら、あなたがまず、黙って、欲しい」
「おいおい逃げ出したぞ、追うぞ一匹も逃がすかよ!」
ノノの言葉を無視して土筆隊は隊長が生体兵器を追いかけて行ってしまったため、そのあとを隊員が追い蒲公英隊もその後を追う。
「コウヘイ、後ろ見てて」
「ああ、これは明らかに誘ってるな」
生体兵器は好戦的であらゆる手段で襲ってくる、単純に逃げ惑うということはない。
「あの人たちは、なんで、気が付かないのかな」
逃げた生体兵器を追って廃墟を進んでいた先は、行きどまりとなっていた。
三方を倒壊したコンクリートの建物に塞がれ、コの字型になった中央で土筆隊は周囲を警戒する。
「どこに行った、生体兵器は? どこに隠れやがった、くそ爆薬があれば簡単にあぶりだせたのに」
「さぁ、どこかに隠れたんじゃないっすかね? 地道に探しましょうよ、別に勝てない相手じゃないんだし」
「さすがに濡れてるから無理に乗り越えようとすれば危ないよね。バイク降りて探しますのん?」
流石に危険と判断しバイクから降りた土筆隊。
そこに追いついた蒲公英隊、突き当りの手前で一度止まったが罠に誘われたと判断させるためそのまま合流する。
コの字型の中に入った途端、周囲からの気配が強くなる。
「やっぱり、誘われてた。来るよ」
そしてノノの予想した通り生体兵器はビルの上、瓦礫の下、バイクが入って来た入口方面、周囲を囲むように現れた、灰色の体の爬虫類だったことを覗いて。
「え、蜥蜴? なんで、イタチは?」
「ノノ、誘われたのは俺達だけじゃない。こいつらもこの場所に誘い出されてたんだと思う……というかこいつら何匹いる?」
エクエリを構え周囲を見回す。
「知らない。けど、数十は、いる」
周囲どこを見ても生体兵器が目に入り、向こうはこちらを発見次第真っすぐ向かってくる。
「来いよ、束になってかかって来いよ! 雑魚がいくらかかって来ても相手になんねぇよ!」
「小さなことからコツコツと、ちりも積もれば山となるらしいから、大型生体兵器を倒したより大きな功績立てられるんじゃないですかね」
「こいつらは討伐対象じゃないから、無理じゃないっすか」
土筆隊の隊長は部下なの話を聞きながら一人で戦闘を始める。
「知ったことか、生体兵器はすべて倒すぞ!」「了解」「了解」
土筆隊は互いに背中合わせに集まるとビルから頭を覗かせている生体兵器に攻撃を始めた。
「それは同感。コウヘイ、逃げ道作るため、あっちのから、倒そう」
「わかった」
バイクを壁に蒲公英隊は道路につながる道の方からくる生体兵器たちに攻撃を始めた。
しばらく戦ったが蜥蜴の数は減るどころかますます増えていった。
「倒せなく、ないけど、しんどい」
「バッテリーの替えはいくらでもあるけど、腕がつらいな交代で休むかノノ」
蜥蜴は動きがのろく当てやすいしかし数が多かった、倒したそばからその死骸を乗り越えて次の蜥蜴が迫る。
「いい。弱いけど、真っすぐ、走るのだけは早い、砲火が弱まれば、一点突破、してくるかも」
しかも厄介なことに蜥蜴が死骸に当たるとそれが大きく動き生きているのか死んでいるのかわからなくなるため、動いた死骸に反応しすでに倒した死骸を撃ってしまう。
さらに積み重なった死骸が死角となって接近を許してしまっていた。
徐々に迫ってくる蜥蜴の群れに蒲公英隊が冷や汗かきながら話していると、廃墟にエンジン音が響き二人のエクエリの先に戦車が現れ蜥蜴を履帯で踏みつぶし現れた。
『無事か?』
戦車隊に守られるように中央にいる装甲車両から通信が入る。
「何で来た! まだ、ベヤーだって、討伐しきれていない!」
『それについては問題ない。すでに何隊かはベヤーを倒してこちらと合流している、交戦終了しているという報告が来ていないのも、後はここを含めて二か所だ。周りにいるのは一掃する、代わりに纏わりついたのをお願いできるか』
「わかった」
返事を返すと戦車の砲塔が建物の方に旋回を始める、蒲公英隊は土筆隊を連れて戦車の方へ走り出す。
『弾種は五月雨、弾種は五月雨だ。吹き飛ばせ!』
戦車に搭載されているエクエリは一発の威力が凄まじく、それを小型のエクエリ並みの威力に抑えることで連射を可能とする。
ホースで花に水をやる放水のごとく、主砲の旋回とともに放たれる五月雨は向かってくる生体兵器を肉塊とかしその死体すら吹き飛ばすほど無駄弾が多かったが、数秒で視界内すべての生体兵器が原形をとどめない形となった。