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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
2章 迫る怪物と挑み守るもの ‐‐私情の多い戦場‐‐
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来るものを迎え撃つ、5

 

 紅葉の森を通り抜けトキハル達が乗った車両は廃墟を走る。


『……での……報告、ベヤーは、瓦礫を川に投げて、ダムみたいな、橋を作っている。小型の生体兵器は、飛び越えて、すでに他の隊と、交戦を始めている。もうじき、どこかが特定危険種と、闘うことになるかも……んばって……祈る……』

『……了解、後は私達……ますので……て……』


「今の聞こえたか、トキハル」

「ああ、蒲公英隊のシノノメと後のはトヨだな。だが、ここから川までまだ距離があるぞ」


 トラックは廃墟に入ったばかりで精鋭が持っている無線では通信圏外のはずだった。

 精鋭の誰かが通信範囲を拡張させる装備を積んでいるか、シェルターでアンテナ車を借りるくらいしないと届かない。


「ところで、少し運転が荒くないか?」

「そうだな、トヨとシジマに任せっきりで雑になったようだ」


 車両は更に速度を上げた。


 川までの最短距離で走っていると、正面から戦車と精鋭の乗った車両が来る。


 別の前線基地が壊され、さらに一般兵たちが逃げ出してきたのかと思ったが、連絡のなかった鬼胡桃隊がいたのでトヨの集めた精鋭達がこの先にいることがわかりトキハルの緊張が解ける。


「精鋭ばかりかと思ったが、戦車まで持ち出していたのか」

「じゃあ、今の通信は、通信機器の受信領域を拡大させるアンテナの影響か」


 向こうはこちらに気が付きサーチライトで光信号を送って来た、無線封鎖しているわけでもないのでトキハルはトラックに備え付けの無線を取る。


「おい。そこの指揮車両、蒼薔薇隊、ユキミネ・トヨがどこにいるかわかるか?」

『ん、ああ。通信を聞いている限りはだが、彼女たちは市民ホールに向かったようだ』


 お互いに速度を落とし無線ですれ違いざまにシェルターに戻ろうとしている車両に話しかける。


「そうかわかった」

『まぁ、なんだ。言葉使いや態度は悪いけどみんないいやつだよ』


 特に聞いてもいないことを言われたが適当な返事を返し車列をよけていく装甲トラック。


「そうか。戻ったら作戦を立てた通りの配置で待機していてもらう」

『ああ、了解だ』


 返事を返した指揮官に礼を言うと再びトラックは速度を上げた。




 どこかから聞こえてくる破壊音を聞きながらトヨは市民ホールの三階から大型のエクエリを川に向け、川に瓦礫を投げ込んでいる特定危険種を撃つ。


「さて、作戦は無し。みんなの力を信じて特定危険種を倒していくしかないんですよね」


 トヨが大型のエクエリを構えながら横にいるツバメに話しかける。


 イグサもトヨの隣で川を狙って撃っていたが、大型のエクエリは小型のエクエリの援護を目的とした近中距離用の武器であってもともと狙撃用ではないため、遠くの敵を狙っても避けられたりし命中率が悪いので攻撃を諦めて休息を取っている。


「そうだね、私たちてきにはいつも通りだけどね」

「それで何度も死にかけるよね」

「わかってるなら、少しは作戦考えてくださいよ隊長」


 三人の会話を聞いて大型のエクエリを撃っていたトヨが笑う。


「どうしたの?」

「いえ、すごく楽しそうだと思って」


「死はあんまり深く考えないからね、考えたらきりがないし。プラスプラスで考えてるよ」

「アモリさん、持ってきたバッテリーの残りはいくつですか?」


「まだ8つあります」

「バメちゃんたちは?」


「私たちはそもそもエクエリを撃ってすらいないからね。一つも減ってないよ、分けてあげたいくらい」

「じゃあ、お言葉に甘えて私とアモリさんに二つずつもらっていですか?」


「へいへーい」

「わかりました、ユキミネさん」


「ツバメもコリュウも戦ってない。さぼりー」

「イグサ五月蠅い」


 二人からバッテリーを受け取り手早く腰の鞄にしまうと、その後朝顔隊がじゃれている間もトヨは双眼鏡片手に大型のエクエリを撃ち続ける。


「あ、ああ。ついに橋が出来ましたね、川をせき止めて。すぐ決壊するでしょうけど、その間に全部わたってきそうです」

「さっきの燃えるやつで橋を渡ってる最中に焼いちゃえば?」


「そうですね、広域燃焼弾撃ちたかったけど、あの付近に誰かいるかもしれないから」

「そう。ま、誰もいないと思うけど、ところでトヨっち右手どうしたの? 怪我?」


「え?」


 そういわれトヨは右手を見る、大型のエクエリの引き金に指をかけるその手首は少し腫れていた。


「なんか庇ってるっぽいから」

「ああ、土手で広域燃焼弾を撃って転がって逃げた時に少し捻ったみたいで」


 手を握ったり開いてりして見せ、痛みを我慢し悟られないように普通に動くことを見せる。


「そのでっかいやつ使い方教えてくれれば、私かコリュウが使うよ。大体はイグサのと同じでしょ?」

「ありがとうバメちゃん、でも大丈夫です」


 今はすることがないツバメは、近距離での戦闘に備え自分と攻撃を続けるトヨに消臭スプレーをかけていた。


「加減ができないのがこれの欠点ですかね」

「んじゃ、いよいよ私らの出番だね」


「お願いしますけど無茶はしないでください」

「ここに居るだけで十分無茶なんだけどね」


 何匹が市民ホールへ向かって真っすぐ向かってくる。


 何度もしつこく攻撃してくるので居場所がばれているのだろう、真っすぐと向かってくるそれらを確認するとツバメはコリュウを呼んでエクエリのバッテリー残量を確かめさせる。


「きたよ」


 この距離なら狙えるとイグサが慌てて大型のエクエリを構えると特定危険種に向かって撃ちこむ。


 あたりはするものの鱗のような体毛は硬く大きな傷をつけても、その巨体にダメージは入らない。


「やっぱ、硬い」


 廃墟や瓦礫に当たっても大型のエクエリの攻撃を受けても速度はほとんどなく、派手に建物を崩しながらも四つの足で向かってくる。


 途中付近で戦っていた精鋭がちょっかいをだし、何匹か特定危険種を引きつれて廃墟へと消えた。


 それでも誘いに乗らなかった一匹が市民ホール間近までで迫っていた。


「来ますよ、隊長」

「そうだね。んじゃ私達も働くかな」


 ツバメ達が準備運動を始めると、建物間近で俯角がキツ過ぎて撃てなくなったトヨとイグサが移動する準備を始める。


「移動しましょう」

「どこに行く?」

「向こうは壁も狭いところもお構いなく破壊できる力を持ってます。だからこっちが有利になるのはなるべく広い場所」


 トヨがそういうと、イグサが壁に飾られている文字の消えた見取り図を指さす。


「ツバメ、この建物二階から地下一階まで音楽ホールになってるよ」

「そこだ!」

「……なら、そこにいきましょう」


 不意な接敵に備えて大型のエクエリを構えたままトヨたちは移動を開始した。



 音楽ホールの入り口は、市民ホールの入り口からまっすぐ地下への大きな扇状の階段があり、中央に花壇に朽ちた植物が植わっている。


 地下への降りた先に、左右に分かれて再び一階と二階へ向かう客席用の階段が用意されていて、すり鉢状の音楽ホールのエントランス広場の階段を四人は降りた。


「一階なのに一度地下に降りてまた上がるのか」

「そうですね、この建物は機能性よりデザイン性を優先したようです。今はそれより、バメちゃんはこのまま下の階で、私とアモリさんは上の階に上がります」


 二人づつに分かれた時に生体兵器が現れた、鼻をひくつかせゆっくりと罠を警戒して入ってくる生体兵器は階段の下に居る四人を見つけると吠え、自慢の鱗に覆われた巨体が突撃してきた。


「きたよ」

「ここはまずい、トヨとイグサは早くホールへ!」

「もう遅い、ここで戦う!」


 イグサをトヨは振り返ることなく真っ直ぐと階段を登っていく。


「コリュウ、回り込んで! 危ない、離れろ!」

「わかってます!」


 建物を反響する声と破壊音。


 コリュウに狙いを付けた生体兵器はその腕を振り回し、彼の居た場所を続けざまに地面ごと抉り粉砕していく。


「アモリさん援護を!」

「あいあい!」


 階段の上から二つの大型のエクエリがベヤーの頭を撃つ。


 鱗がはがれ血が流れたが傷は浅く、狙いを階段の上にいるトヨとイグサに変えた。


 ツバメが滑り込み生体兵器の足の撃つ、バランスを崩しふらついたところにもう片足を撃つ。

 体勢を崩し、巨体が階段を転がる。


「トヨ!」


ツバメが叫ぶ。


「はい!」

「わたしもいるよ!」


 客席二階に続く階段を上がったところで、イグサとトヨが仰向けに倒れたベヤーに射撃しとどめを刺す。


 背中の強固なうろこ状の体毛とは別に腹部は柔らかく、大型のエクエリの弾丸に串刺されていく。

 腹部から血を流し仰向けに倒れたままベヤーは動かなくなった。


「倒した―」

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