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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
2章 迫る怪物と挑み守るもの ‐‐私情の多い戦場‐‐
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来るものを迎え撃つ、2

 ビル群が壊れて数分、川まで後退してきた蒲公英隊と土筆隊がトヨのもとに報告に訪れる。

 無くなった前線基地側の川の土手で戦車も大型のエクエリ持ちも、特定危険種達の生き残りが射程距離に入るのを待っていた。


「ただ今戻りました。何匹か潰れたと思いますが、生き埋めになったやつは自力で這い出てきました。土煙でよく見えませんでしたが、それでも数は減っているように見えました」


 土筆隊はほかの精鋭達に事の詳細を自慢気に語り、コウヘイとノノが真っすぐトヨの元へ報告に来る。


「お疲れ様です、後は大型のエクエリを待った隊と戦車隊で何とかしますので、他の隊と共に撤退を」


 動く影を見つけ蒲公英隊の報告をエクエリを構えたまま答えるトヨ。


「わかりました」

「無理、しないで、早めに逃げて」


 蒲公英隊が土筆隊と合流し他の小型のエクエリを持った隊を引きつれて、退路の確認など撤退準備を始める。


「あの様子じゃ、もうしばらくは撤退しなさそうだけど」


 ツバメに話しかけられ周囲を見渡すトヨ。

 幾つかの隊は待機中暇だったのか灰色の蜥蜴を攻撃して勝手な戦闘を始めていた。


「生体兵器が減る分には問題ないのですけど、今はその時じゃないんですよね、何でじっとしていてくれないんですかね」

「さぁ」


「バメちゃんならわかると思ったんですけど」

「こういうのは気分だからね、気分。好きな時に好きなことをするのね」


「わかってるじゃないですか」


 生き残った生体兵器達は集まり再び陣形を取る、一匹を先頭に後続が二列。

 戦車や大型のエクエリで狙えるのは先頭の一匹だけ、先頭がやられるとその死骸を有効活用し最小限の犠牲で攻撃を突破する捨て身の陣形。

 小型の生体兵器達は左右にばらけて廃墟の瓦礫の影に消えてしまう。


 土手からの総攻撃でさらに強固な鱗をまとった姿勢を低くし前足を頭を守る盾にして全速力で突っ切ってくる特定危険種を三匹ほど倒したが、それでも六匹ほど残ってしまった。

 特定危険種の熊の全力疾走は早く、逃げるタイミングを間違えると逃げ切れなさそうだった。


「悪いけどここまで。これ以上は危険だよ、そろそろ逃げよう」

「そうですね、ではバメちゃんみんなを連れて逃げてください」


 まだ大型がここを襲うには余裕はあるように見えたが瓦礫に身を隠し小型の生体兵器の同行がつかめない今、安全に撤退することを選んだ。

 走って車の方向へ戻ろうとする朝顔隊、トヨはヘットセットを使い全部隊に指示を出す。


『みなさん、ここでの戦闘は終わりです。残念ですがシェルターまで後退、戻って本来の作戦に移ります。撤収準備が出来た隊から逃げてください』


 一般兵の乗る戦車隊を先に通して、指示を受け撤退する準備を始める部隊の一番先頭を走って車に向かっていたツバメが立ち止まり後ろを振り返った。

 その横を他の隊が通りすぎて土手を降り各自、乗ってきた車に乗り込んでいく。

 後から走ってきてツバメに追いついたイグサとコリュウも彼女につられ振り返る。

 トヨはその場に留まったままで逃げようとしていなかった為、ツバメは彼女の元へ戻っていく。


「トヨは?」

「私も、もう少ししたら逃げますので」


 そういったトヨはその場から動く様子はなく、瓦礫をよけて向かってくる特定危険種を作り笑顔ではなく普通の楽しそうに笑みを浮かべ狙う。


「……自棄起こしてないよね?」

「ふふっ、まさか、そんなわけないじゃないですか。あはは、ちゃんと後から追いますよ」


「トヨっちがそんな嬉しそうに笑うのは、いつも追い詰められてるときだけじゃん」


 一瞬表情が消え、渋るように困った表情をするトヨ。


「ああ、もう面倒くさいなぁ!」

「いいですよ、先に行って。後は私が時間を稼ぎますから。大丈夫、ここで死ぬ気はありません」


「ほんとに」

「私が本当に自棄を起こしたと思ってるんですか?」


「まぁね」


 トヨの横に座るツバメ。


「……いや、ほんとに起こしてませんって」

「じゃあなんで一緒に逃げないのさ」


「……う~ん、あえて言うなら……バメちゃんに、小さいころ私の暮らしていたシェルターの話ってしたことありましたっけ」

「……どうだろ、無腰の事だから覚えてない。で、なんで? なんか関係あるの?」


 時間がないのに勿体ぶりながら話すトヨに苛立ちを見せるツバメ。


「そのシェルターで取られた対策、今回トハルが立てた作戦とまったく一緒だったんです。シェルターの防御力と砲台を利用しようとして、でもその作戦は失敗したんです」

「じゃあ、作戦会議時にそういえばいいじゃん」


 ようやくトヨはエクエリを担いで撤退する用意を始める。


「……えへへ」

「あ、そっか、ここにきて除隊処分受けるため言わなかったのか」


「はい」

「というか逃げない理由になってないし」


「確かに」


 苦笑するトヨ。


「ツバメ、ユキミネさんどうするんですか? 戦うの? 逃げないの?」


 こうしている間も生体兵器達は接近しており、軽装甲車に乗り込み待っていたイグサが待ちきれず土手を登って、トヨとツバメの元へとやってくる。


「バメちゃん、ほら。二人が待ってます行ってください。これ以上いると瓦礫をよけて帰るのにシェルターまでに追いつかれて逃げ切れなくなりますよ」

「いいよ、戦かう。別にシェルターに逃げ込まなくたっていいわけだし。最悪、どこかに隠れてやり過ごせばいいんだから」


 そういうとツバメは消臭スプレーを取りだし自慢げに見せる。


「それにさ、後ろ見てごらんよ。鬼胡桃隊以外は逃げないみたいだよ」


 知らぬ間に撤退の命令を受けて移動していた他の精鋭達は、橋を渡り反対側、シェルター側の川の土手に移動して、付近の廃屋に登り戦闘準備をしていた。


『はよー、こっちにおいでなー』


 アミツが向こう川の側で手を振っている。


「……まったく。指示に従わない何て、ほんと問題児しかいませんね」


 それを見て呆れ笑うトヨを連れて朝顔隊は移動を開始した。

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