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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
2章 迫る怪物と挑み守るもの ‐‐私情の多い戦場‐‐
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来るものを迎え撃つ、1

 

 トヨが戦闘区域に入った特定危険種たちを見てヘットセットに手を当てる。


「エリアAに侵入、ここで大型のエクエリが通用するか試します。皆さん、第一射発射用意」


 目指す先は迷いもなく一直線にシェルターに向かっていて、蒲公英隊の話では地面に残った戦車やトラックの轍などを頼りに追っているだけだというのでビル群からやや違う道に向かって進んでいる。

 各建物の上に居る大型のエクエリが正面から歩いてくる特定危険種に狙いを付けた。

 建物に登れず下の方で待機していた戦車も建物の影から砲身を動かし狙いを付ける。


「発射」


 その短い言葉が言い終わると同時に大型のエクエリと戦車、十を超える光の柱がV字の中央に居る特定危険種に向かって飛んでいく。


「どう?」

「命中、集中攻撃で一匹倒しました」


 普段と違い慣れなず全神経を集中させ狙撃を行ったイグサが息を吐くとトヨに尋ね、暗闇の中動揺を見せる生体兵器たちを見て動きの止まった特定危険種の姿を確認した。


『頭だけじゃなく胴体も半分なくなった。オーバーキルかもしれない』


 建物の下で戦車隊の指揮を執っている一般兵たちの指揮官から連絡が入る。


「うっしゃー、倒せなくはないぞ! さぁ、各自次の攻撃を準備!」


 その言葉にオーと返事があちこちから帰って来る。

 静かにしていた欲しいと心中思いながらトヨはツバメの袖を引っ張った。


「えっと、私が指示を……」

「おっと、そうだった。全員喋るなー作戦行動中だぞ、黙れ」


 見ていただけなのに自分の手柄の様に騒ぐツバメが彼女につられ騒ぎ出す他の精鋭達を静かにさせる。

 自分のがきっかけで騒ぎ出したのに、それを黙らせる彼女の手のひら返しで素直に黙る他の精鋭達にもトヨは何も考えないようにした。

 彼らが会議中好き勝手喋って会議の進行を遅らせるトキハルの頭痛の種だと思いたくないと。


「ええっと、では第二射発射用意! 下からの報告がありましたので予定していた通り班を二つに分けます、中央から左右に分かれて潰していきます」


 そういうとヘットセットが痛くなるような複数の返事が返ってくる。

 何で一言、はいとか了解と言えないのだろうかと思ったがトヨはとりあえずそれも流した。


「発射」


 空に二度目の光の弾が放たれ、それは二手に分かれ特定危険種向かって収束していく。

 大型のエクエリでの一斉射撃。

 隊員三名が大型のエクエリを持つどうしてもごり押ししたかった藪椿隊の提案、肝心の隊長アミツは小型のエクエリのため蒲公英隊のノノと戯れたり傍観しているだけなのだが。


「エリアBに入りました、では建物から撤収」



 建物の上に居る隊は、そそくさを荷物をまとめ大型のエクエリを担いで賑やかに建物から降りていく。

 これ以上は逃げるタイミングを失い、大型の生体兵器がビルの柱を折って建物ごと壊される可能性があったためこの場所を離れ次の攻撃場所へ向かう。


 朝顔隊の撤収準備が整うとトヨは最後にもう一度遠くに見える大きな影に狙いを付ける。

 そして発射された弾は特定危険種に当たり周囲の生体兵器と一緒に燃えた。

 それを確認することなく撤収するトヨ。


「すごいですね、それ」


 撤収中イグサがトヨに話しかける。

 ツバメとコリュウはライトで階段を照らし狭いところで戦えない二人の先を行く。


「広域燃焼弾は撃つとしばらく撃てなくなります。着弾時発生する膨大な熱から至近距離の使用は自殺行為、奇襲や狙撃が当てられるような動きの鈍い生体兵器や、行動を封じる罠にはめないと使えない不便な物ですよ」

「でもなんかかっこいい」


「まだ、この弾は試作段階だそうで、他のエクエリに実証されるかどうかはわかりませんけど。私はお勧めしませんよ」


 ビルを出ると戦車隊が後退していくのが見え、他の精鋭たちが小型の生体兵器を倒しながらその後を追っていた。


「私たちも早くここから離れましょう」

「わかってる、後は蒲公英隊たちに任せるんでしょ」


 蒲公英隊二名と土筆隊三名がバイクなので、彼らに特定危険種を引き付ける役目の後を引き継いでもらって戦車と残りの隊はビル群から撤退を始める。


「ではお願いします、蒲公英隊と土筆隊の皆さん」

『任せておけ、しっかりと役目を果たして見せるぜ! おっしゃー! 気合入れてくぞおまえらー!』


 丸いサングラスをかけた土筆隊の隊長が建物に反響させる大声でそういうと、バイクの前輪だけブレーキをかけ濡れたアスファルトの上で周りだす、そんな彼は隊員になだめられ普通にバイクにまたがる。


『この人、ホントに隊長? 怖い、もう精鋭が、何だかわからない、どうしよう、コウヘイ』

『落ち着いて。俺たちは俺たちの仕事をするだけだよ、ノノ』


 精鋭とは何か頭を抱えるノノにコウヘイは優しく声をかけた。

 そして各自自分たちのタイミングでその場からバラバラに去っていく。


「トヨっち、私たちも行こうか」

「そうですね、後はみなさんを信じて下がりましょう」


 軽装甲車とジープもその場から去る。


 本当は廃墟を後退しながら攻撃。

 そしてまた撤退を続けて一方的にという作戦を取りたかったが、戦車では追い付かれ恐れがあり先に撤退させたため、火力が足りず実行には移されなかった。


 そして現在向かっている場所は瓦礫と逃げ道の関係上戦車は撤退させるため、今誘い込んでいる罠と次の一斉攻撃でどれだけ減らせるかが問題だった。

 運転を朝顔隊から借りたコリュウに任せ、トヨは双眼鏡で遠ざかっていくビル群を見ていた。

 その横で隊と一緒に行動せずジープに乗り込んだアミツが並んでビル群を見ている。


「そんな怖い顔しないで、のんびり待とうやー。精鋭なんだから、そんな心配しなくてもええやろー。それとも戦闘中になにか別のこと考えてたのかな?」


 双眼鏡で代り映えしない風景を見るのに飽きたのか後ろからアミツがトヨに抱き着いてくる。


「私そんな顔してましたか?」

「そりゃもう、眼力だけで普通の人なら身動きが取れなくなるような。こわーい顔」


「いま……私、どう見えてます?」

「どう見えてると思うー? 少なくともさっきみたいにへらへら笑ってた方が美人さんだったかな、スマイル、スマイル~」


 トヨの背中でアミツが話を濁していると、後方遠くでビル群が大きな土煙を上げて崩れていく。


「お、成功かね?」

「報告を聞くまではわかりません、そろそろ胸から手を放してもらっていいですか?」


「ええやん?」

「よくありません、怒りますよ」


「その目で睨まないといて―、生体兵器よりおっかない」


 しばらくしてヘット瀬戸の通信範囲に入った蒲公英隊から作戦報告が来た。


『終わりました、ちゃんと全部誘い込みました。俺たちも土筆隊も全員無傷です。これからそちらに合流します』

『私達なら、当然。でも、土筆隊の、サングラスの隊長が、終始五月蠅かった、怖かった』


 ビルを爆破して生き埋め押し潰す作戦、提案者はさんざん爆薬を使いたがっていた土筆隊。

 爆薬による生体兵器への攻撃、直接仕掛けて使うと学習され何度か繰り返すと通じなくなる可能性があったので特定危険種相手に使うのは一回きりとした、シェルター防衛の際は不要なので他の隊が持っていたのをすべて回収し、大型のエクエリを持っていない他の精鋭たちにビル群のあちこちへ仕掛けていてもらっていた。

 蒲公英隊からの通信を確認するとトヨはヘットセットで待機しているほかの隊に通信を飛ばす。


「それではみなさん、エリアCで最後の戦いを始めますよ」


 エリアCでの作戦、エリアAで行った集中攻撃に加えその後生き残りを各個撃破、言わずもがなチームプレーが苦手な、代々問題を起こす隊ではあったが今の隊長になってからさらに厄介度を増している朝顔隊の提案。

 倒し切れない場合はシェルターまで撤退、タイムリミットは川を越えるまで。


 川を超えると市民ホールと商業区だった場所くらいしか身を隠しながら戦える場所がなく、どちらも大人数での戦闘に向かないということでシェルターまで撤退して、すでに効果があることが分かったシェルターの防壁についた砲台と合わせて一斉攻撃で出来る限り倒し切る。


「さぁて、私達の出番だ」

「ほんじゃ、私も自分の隊があるから戻らないといけんなー。またなー」


 攻撃地点に着くと各自大型のエクエリを構える自分の隊があるのでアミツがトヨたちから去っていくと、金属の箱のような大型の深緑一色の装甲車の内側からエクエリの銃身を出す為の覗き窓の部分から元前線基地の指揮官が顔を出す。


「私たちもここでの攻撃が済んだら、シェルターに帰らせてもらう。流石に私たちの戦車は小型の生体兵器の相手はできても、大型は無理だ。それに特定危険種を相手に立ち回る自信がない。この車両は戦闘むきではなく乗組員の生存性を高めるためのものだからな」

 指揮官は少し申し訳なさそうに言うと覗き穴を少し閉めた。


「はい、そうしてください。ご協力ありがとうございます。本当に助かりました」

「おおぅ。素直にそういわれると、くすぐったいな」


 指揮官が鼻の頭を掻いているとそこに朝顔隊のイグサがやってくる。


「んじゃ、早めに帰ってタルトの用意お願いします」

「ちょっとそれは、まだ戦う予定があるから難しいな」


「えー、じゃあいつ作ってくれるんですか」

「勝ったらかな」


「よし。ふざけないでまじめに気合入れて戦うよ、コリュー」


 その辺をふらふらしているイグサの後についていくコリュウは、いきなり話を振られたが動じる事無く普通に答えた。


「あ、ああ。俺は初めからそうなんだけど」


 イグサと指揮官が話していると蒲公英隊と土筆隊が帰って来て他の精鋭達と合流した。

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