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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
2章 迫る怪物と挑み守るもの ‐‐私情の多い戦場‐‐
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問題児、3

 作戦開始まで精鋭はすべて待機している。

 大扉周囲や防壁は一か所にとどまらない精鋭より一般兵の方が詳しい。


 そのため、物資の準備、他の門からの兵や戦車の増援、他の大扉から出ている表に出ている資材回収班の撤退、人員の配置などその辺の準備は一般兵にすべて任せている。

 精鋭は戦闘時特定危険種を大扉に近づけさせないように気を引いたり動きを止めたりすればいい。

 問題は精鋭同士で連携が取れるかというところだった。


「さて、作戦開始まで5時間くらいですか。戦闘に備え戦闘前4時間以内は飲食禁止ですから、戦闘前最後の御飯でしたね。食後に何か飲みますか?」

「食べてから運動するとお腹痛くなるからだけど、まぁ飲食禁止なんだけど、あれマジで守ってる人少ないよね」

「俺っちらも時間ない時軽食程度に食べてるからね」

「前線基地だと、食事中に生体兵器と戦うこともあるけどな」


 いつもより早めの夕食を終え食器を片付けキッチンにいたトヨは、食器を洗い終わるとヤカンに水を入れ火にかける。


「珈琲」

「俺っちも」

「私はカフェオレで」


 三人の注文を聞きトヨはトキハルの方を見る。


「トハルは?」

「珈琲でいい」


「わかりました、砂糖やミルクは……いりませんね」

「……ああ」


 少し間を置いて答えるとトヨはいつもの少しぎこちない作り笑顔で返した。

 しばらくしてからコーヒーを用意してトヨがキッチンから出てくる。

 中身をこぼさないように左手でお盆を持ち補助するように右手で支え、ゆっくりとテーブルまで歩いてきた。


「お待たせしました。トハル、トガネ、トウジ、ライカちゃんできましたよ」


 お盆を机に置き湯気の立つカップを左手でトキハル、トウジ、ライカ、トガネと一人ずつの目の前に並べる。


「トヨちゃんのは?」

「私のは向こうにありまして」


「一緒に持ってくればよかったのに」

「そうですね、うっかりしてました」


 そういって、台所に戻っていくトヨ。

 カップを取りに行くふりをしてキッチンの戻ると、テーブルに背を向けるようにして大きく深呼吸し皆の元へ戻る。


「意味わかんない、変なの。ていうか、なんか温くない?」

「熱すぎないから飲みやすいけどね」


「ぬるいと気持ち悪いじゃん」


 珈琲を飲む4人の姿を見ていたトヨは下唇を噛み強く胸元を握る。

 今していることに罪悪感を覚え、言葉に詰まる。


「トヨちゃんどうしかたの?」

「いえ、少し……胸焼けが」


 顔色も優れず全員心配そうにトヨを見る。

 バレていはいけないと何か良い言い訳を考える。


「大丈夫? 食べ過ぎ?」

「ええ、そうかもしれません。少し向こうで休ませていただきますね」


 そういってトヨは若干辛そうな表情のまま寝室に消えていった。

 これ以上はさすがに演技が続けられないと判断し奥の部屋に逃げ込む。


「時間はある、眠れるならそのまま体を休めておけ」

「あ、はい。そうしますね、トハル」


 トヨが部屋から出ていきしばらくして今度はトキハル達に異変が起きた。


「瞼がおもい……」

「俺っちも……」

「何、だ……」


 飲み物に混ぜられた薬の影響が出始め、ライカ、トガネ、トウジの順に机に突っ伏し静かに寝息を立てる。

 その様子を奥の部屋で休んでいたトヨが彼らの変化に気が付き、テーブルの前にやってきて全員が眠るのを黙って見ていた。


「……ト、ヨ」

「はい」


 トキハルが名前を呼ぶとトヨは静かにいつも通りのつくり笑顔で返事をする。

 彼は口に含んだ量が少なかったのだろう、何とかしようと睡魔に抵抗していた。


「これは……どういう、つもりだ」

「睡眠薬、盛らせていただきました。すみません」


 トヨはポケットに忍ばせていた作戦会議後朝顔隊と買い物に出かけた時に買った錠剤の入った瓶を見せるとそれを机に置きトキハルの元へと向かう。

 トキハルは机と椅子を杖に立ち上がるが意識がもうろうとしていて、うまくバランス保てなくて立っていられずよろけた。

 すぐに倒れそうになるが怪我をしないようトヨが受け止める。


「えっと、ごめんなさい……」


 意識のないトキハルを強く抱きしめると謝るとゆっくりと彼を床に寝させた。


「ごめんなさい」


 睡眠薬の入ったカップを片付け、寝室から布団を持て来てそれを皆にかぶせるとと四人が寝ている横で出撃の支度を整えるとトヨはその場を後にする。




 蒼薔薇隊の泊まっている部屋を出て駐車場に行くと、軽装甲車両に乗った朝顔隊が待っていた。


「お待たせ、バメちゃん」


 トキハルに買ってもらった冷感スプレーを、使いもせずしまいもせず気休めに手遊びさせながら朝顔隊と合流する。


「……本当にいいのかい?」

「何言ってるんです、いまさら……もう遅いですよ。それで他の協力者は」


 トヨが軽装甲車の前までくると周囲を警戒しながらツバメの話を聞く。

 ツバメも他人に聞かれるとまずいのがわかっており少し声を潜める。


「大扉の前に居るよ。逃げてきた前線基地の戦車隊と私達朝顔隊。防壁で待ってたら帰ってきた蒲公英隊に他の大扉で戦闘が恋しくて眠れずに待機していた土筆隊、藪椿隊、乗りで参加してくれた鬼灯隊、弱みを握っている鬼胡桃隊くらいかな。他は真面目さんだからバレると面倒だし、声はかけてない」


 ツバメが周囲を見回す。


「そう。戦車が4両と大型のエクエリが私を含めて8つ……」

「行けそう?」


「わかりません、ダメでもともとです」

「ふぅん。んじゃとりあえず、他の隊と合流しようか」


「そうですね」


 トヨは一度建物を振り返るとトキハル達に小さい声で別れを告げ、冷感剤をポケットにしまうとジープに乗って大扉の前に向かっていった。




 大扉の前で、強化繊維の藍色の制服の上から羽織った派手やかな法被の艶やかな女性、藪椿隊隊長、ツツウチ・アミツが軽装甲車とジープを見て手を振る。


「おーい、こっちこっちー」


 派手な法被を見つけその方向へと向かうツバメ。


「みんな到着してる?」

「蒲公英隊の子が補給で家に帰ってーまだ帰ってきてないけども、それ以外はみーんなおるよー」


 蒲公英隊、小型のエクエリ二名

 土筆隊、小型のエクエリ三名

 鬼灯隊、小型のエクエリ三名、大型のエクエリ一名

 鬼胡桃隊、小型のエクエリ三名、大型のエクエリ二名

 藪椿隊、小型のエクエリ一名、大型のエクエリ三名

 そして朝顔隊、小型のエクエリ二名、大型のエクエリ一名

 蒼薔薇隊、大型のエクエリ一名


 精鋭六部隊、プラス一名。

 小型のエクエリ十四名、大型のエクエリ八名が大扉の前に集まっていた。


 こちらの存在に気が付くと、七三の分けの髪に細い赤淵の眼鏡をかけた鬼胡桃隊の隊長が、冷や汗をかきながらツバメのそばにやって来て小声で話しかける。


「勘弁してくださいよ。こんなのバレたら、俺達まで扱いずらい精鋭として認識されちゃうじゃないですか」

「別に、無理して参加してくれなくていいよ。その場合グールベビーに噛まれて、イタイイタイ言ってたあなたの動画を他の隊に見せるだけだから。どの隊に見せるかは私の気分しだーい」


 携帯端末を手にしてそれを見せつけるとポケットにしまう。

 頭をかきながらあきらめた声を出す鬼胡桃隊の隊長。


「ぐぅ……わかりましたから、この作戦が終わったらその動画絶対消してくださいよ、絶対ですからね!」

「わかってるって、信用しなさい。ワタシヲ」


 項垂れて帰っていく鬼胡桃隊の隊長を見ながらトヨはツバメに話しかけた。


「バメちゃん、一体なにしたんですか?」

「いや、診療所でビービー泣いている、自信家でプライドの塊みたいな鬼胡桃隊の隊長の治療動画を撮っただけ」


「可哀想では?」

「ちゃんと消すよ、最後にもう一回見たら。私が、とった、動画は、ね」


 そして二人は大扉の前に集まった精鋭たちを見る。

 主に騒いでいるのは、派手で目立つ法被を着た藪椿隊やサングラスをかけた隊長のいる土筆隊で、各々出撃前の準備体操なのか変な盛り上がり方をしている。


 それぞれデザインの違う精鋭の制服の中に一般兵の姿があった。

 凛とした佇まいの女性で、きりっとした鋭い目、髪を後ろで束ね、髪留めに勲章についているようなリボンが付いている。

 その軍服には特定危険種を倒した際に与えられる勲章がたくさんついており、個性的な精鋭の制服より少しだけ目立って見えた。

 装甲車両一両、戦車四両の指揮を執る一般兵。


「久々だな、朝顔隊」

「お、タルトの人!」


 挨拶に意外な返され方をして少し困り顔の指揮官。


「たる……まぁいいか、今回は私も戦車隊の指揮官として同伴する」

「え、ああ、襲われた前線基地ってあんたの所か。本当に特定危険種が好きだね」


「別に好きで特定危険種と闘ってはないんだが、まぁ基地を失ったしこれで私は完全に不要となったわけだ、引退時だよ」

「じゃあ、おとなしくここで戦いまで待っていればいいじゃん」


「まぁまぁ、命がけで基地を守ろうとした兵たちの為ってのと、最後の最後に一暴れってところかな」


 朝顔隊が少し離れた所で知り合いと話している最中、トヨの元に藪椿隊の隊長、ツツウチ・アミツがやってくる。


「どうもー、蒼薔薇隊のふくたいちょーさん。ユキミネさんでしたっけ、ちょっとええかな」

「はい、ツツウチさん。えっと、どういった用件でしょうか?」


 この後の事だろうとトヨはアミツと朝顔隊から少し離れた静かな場所へと移動する。

 そしてそれが仇となった。


「胸大きくて羨ましーなー、少し揉ませてーな」

「え、嫌です」


「そういけずなこと言わんといてー」

「嫌です」


「ちょっとだけー」

「嫌です!」


 少し声を張った声にその場にいた何人かが振り向く。

 トヨはツバメに助けを求めたがその腕をアミツに掴まれそのまま羽交い絞めにされる。


「トヨっち、その人は嫌がると興奮する人だから抵抗しない方がいいよ、私もさっき知った」


 ツバメはそういうと何事もなかったかのように指揮官との話に戻った。

 一瞬のスキをついてアミツの束縛から離れる、しかし彼女はあきらめない。


「バメちゃん、言うの遅いよ。ちょ、まって、こっちに来ないでください……」


 睨みあいじりじりと距離を取っていたが、アミツが気を反らした一瞬をついて、全力で逃げ出すトヨ。

 それに気が付いて全力で追いかけるアミツ、じゃれ合いというより本気の逃走劇を繰り広げる二人を元前線基地の指揮官は苦い顔で見ている。


「……精鋭ってのは自由だな。これから戦闘なのにあんなに走り回って大丈夫なのか?」


 ちらっと見やるが気にも留めないイグサ。


「たぶんツバメやあの人が変なんだと思います。それより、特定危険種を倒したらタルト作ってください。お芋とか栗とか季節の物使ったやつ」

「あなたも自由度なかなかすごいけどアモリちゃん。これから一つ判断を間違えればそこで終わりの命がけの戦闘なのだが」


「問題ないです」

「逞しいな」

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