再出撃、3
川原の反対側、廃墟の奥の方から建物が崩れる豪快な音と土煙が上がる。
何が向かってきているのか予想はついている、天高くの登る白い煙を目指して一直線に大鰐が帰ってきているのだろう。
一息ついていた蒼薔薇隊はそちらの方に振り返り戦闘準備を始めた。
やれやれとエクエリを構えるトウジ、唾をのみ前回の戦いで若干のトラウマを抱える強張った表情のライカ、戦闘前に自分の怪我の具合を確かめるトガネ、いつの通りの冷たい表情のトキハル。
「はぁ、なんかメンドそうなのが来ましたね」
大きく深呼吸をしてうんざりした表情で舌打ちするライカ。
「倒すぞ」
トキハルがそういうと皆無言で頷く。
「トヨちゃん準備はできたかい?」
「すみません。バッテリーは取り変えましたが銃身冷まさないといけないので、しばらくは撃てません」
バッテリーを取り換え終わり現在地面に置かれているトヨの大型のエクエリは熱を持ち、銃身に触れている草や地面から白い湯気が立っている。
「おっとそうだった」
「私も前でないとダメっぽいですよね、とりま時間稼ぐから副隊長はなるべく早く銃身冷ましてよね」
「可能な限りは」
こればかりは銃身が冷めるまで待つしか方法がないのだがトヨは大きく頷いた。
「トガネもトヨと一緒に下がってな、俺らで相手をする」
「わかりました、すみません。トガネここから離れましょう」
熱を持つエクエリを担ぐとトヨは上流方面へ、トキハルたちから離れていく。
「ああ、ライカちゃん無理はしないでね。俺っち今回は助けに行けそうにないから」
「ウザイ、同じ手に何度もかからないし」
トウジがトガネを追い払うようにその場から離れさせ、トヨ達はそのまま土手沿いに上流の方へと移動する。
蒼薔薇隊の居る道路の向こうの廃墟が壊れそこから現れる黒ずんだ緑色の鱗、水かきのある大きな脚、杭の様な歯の生えた大きな顎の大鰐が姿を現す。
生体兵器は蒼薔薇隊の姿を確認すると見た目に反する高い鳴き声を上げた。
「来ましたよ、ウザいのが、残り三匹のうちの一匹が」
生体兵器の頭に狙いをつけライカが攻撃を開始した、それと同時にトキハルとトウジが大鰐の側面に走り出し、左右両方からエクエリを連射し大鰐の気を引く。
ライカの攻撃は目の付近に着弾するものの、相手が動くのとライカ自身も走り回り正確な射撃はできず狙い通りの場所に当たらずにいた。
トウジに狙いをつけ頭を横にひねり大鰐の顎が彼を襲う、必死でその攻撃をかわしその顎は骨に響く衝撃音を鳴らして閉じる。
「あぶねっ」
トウジは顎を閉じた際の風圧で後ろに転びそうになる。
「まだ気を抜くな」
「わかってる」
横を向いた大鰐の首にトキハルとライカが攻撃を集中させる。
『おーい、ばかデッカいのがやってきたけど。これは、私たちだけでこれ倒すのかな?』
戦闘の中、ぽつりと呟かれた朝顔隊の通信は、彼らの目の前の大鰐と雨の音でかき消され誰も答えてはくれなかった。
側面に移動したトキハルは狙いは付けず、大まかに大鰐の首元付近を撃つ。
あくまでトヨがこの生体兵器をして目るのであったこの戦闘はそれまでの時間稼ぎだ。
しかし、硬い鱗に阻まれダメージは入らない、それを知っていたが彼は舌打ちした。
大鰐は移動の際は体を浮かせていたが、戦闘に入ると浮かせていた腹を地面につけ弱点を隠すようにして地面にこすり付けながらゆっくりとした動きで彼らを狙う。
「弱点は、下半分ってことはわかってるが攻撃の隙はあるか?」
生体兵器のただれたような鱗は、地面すれすれを擦るような感じで下の腹を覆っている。
鱗と地面には多少の隙間はあるが狙って当てるのは立った状態では不可能に近かった。
「しゃがむか伏せれば、狙って当てられそうだな」
「今止まらない方がいいかも、足に踏まれてグシャってなるよ。トウジ」
巨体からつかず離れずの距離を走る。
しかし小型のエクエリでは鱗を多少削るだけにとどまり、いくら攻撃しても大ワニにダメージが入らない。
結局、以前戦った別の大鰐同様、グルグルと回り始める大鰐と蒼薔薇隊。
不意を打つ攻撃もなく罠にはめようという誘う動きもない、同じことを繰り返しているのにそれに対する対策も取らない、やはりこの大鰐はただ硬いだけで特定危険種ほど厄介ではないと全員が理解していた。
ただ難点として、ものすごく硬いが。
「トキハルどうする? この前みたいにずっと側面に張り付いてていいのか」
前回別の大鰐が見せた尻尾が吹き飛ばす瓦礫を注意して、大鰐が廃墟を背にするたびに警戒する。
しかし、あの大鰐ような瓦礫を抉って飛ばしてくるようなことはなかった、あの個体だけしか飛ばし方を知らなかったのだろう。
「それ以外になくない? ワンチャン正面回って口の中に撃ちこむ手があるけど」
「ハシラもシジマも危険なことはするな、トヨを待つ」
相手はワニ、口を開けると正面が見えなくなるという欠点からあまり口を開けない。
首をかしげるようにして横方向に噛みつくこともできるはずだが、ここぞというときの必殺技的な何かなのだろう。
本来の何倍にも巨大化したこのワニに噛みつかれれば、その瞬間に原形が無くなってしまうかもしれないが、この生体兵器が人ではなく建物や戦闘兵器を攻撃するように作られていればその威力は過剰とは言えないだろう。
「了解」
「了解」
何であれ大ワニの攻撃をよけながらもエクエリを撃ち続ける、ライカとトガネ、2人はその答えがわかっていたかのように声を合わせた。




