波 4
竜胆隊を周囲の護衛につけ装甲バスへと向かって歩きだす。
来るときも通った道を使って浅い水辺まで来ると戦闘を歩いていたオキが足を止め水の深さを確かめると皆に聞こえるように言う。
『来た時より水の量が減っているな、なぜだ』
先頭を歩き最初に水辺を渡り切ったオキが周囲を見回す。
『急げ、そこの奥に何かいるぞ。警戒!』
オキが大型のエクエリを構え部下がそのあとに続く、樹海の奥から広間へと向かってくるショゴスの姿が見えた。
テンマがエクエリから手を放し開いた手でリンネの荷物を受け取ると、先に水辺を渡っていく。
「急げリンネ、何か居るらしいぞ襲われる前に移動しないと」
「わかっているわ、木の根が濡れていて滑るの。……来るときは岩に掴まってたんだけどその岩が無い?」
そういってリンネが周囲を見回すと水辺にそばにあった岩は装甲バスの目の前にあった。
「どうしてあんなところに?」
「なに立ち止まってるんだ、早くバスの中に戻ろうぜ。少なくともここで突っ立てるより安全だろ」
テンマが足早に装甲バスへと向かっていると苔の生えた岩が形を変えていく。
ぐにゃりと硬そうな表面は溶けた氷のようになり湿っぽい艶を出す。
『その岩は生体兵器の擬態だ離れろ!』
目と鼻の先にあるバスへと向かっていた脚を止めテンマは転ばないようにリンネを支えて竜胆隊の後ろに下がる。
二人が下がると竜胆隊は岩に向かって一斉に光の弾を放つ。
攻撃を受けると岩の下に絡むように伸びていた木の蔦も一本づつ個別に動きながら形を変えていき、岩は最終的に8本の触手を持つ大型の生体兵器へと形を変えた。
『蛸か、物を掴むぞ瓦礫のそばに行かせるな!』
そこへ遠くに見えていた二匹目の大型生体兵器ショゴスが合流する。
「あっちはさっきのか? これじゃあ、バスに戻れねぇ」
「テンマ大事なことを行っておくわ」
「何だよ?」
「私は今タイツはいてないわ、さっき濡れたから脱いじゃったまま」
溜息をつきながらリンネはスカートの裾を上げてブーツの上に見える細く白い足を見せテンマの後ろに回り込む。
「あんたはこの非常時に何言ってるんだ? この藤の花、やばい成分でも入ってたか?」
「非常時だからよ、強化繊維がないと生体兵器の攻撃を防げない攻撃を受けたらたやすく足が飛ぶわ。私を守りなさい」
「俺だって頭はノーガードなんですが」
「どうせ中身入ってないでしょ」
ショゴスは触手を動かす蛸型の生体兵器とリンネたちを交互に見て、食べやすい小さいほうを狙って突撃してきた。
障害物のない広場でターゲットを正面に捕らえると一気に速度を上げてショゴスは回避行動をとる竜胆隊の横を通り過ぎていく。
先に攻撃を受けた蛸型は竜胆隊とショゴスから戦闘の様子を観察しながら距離を取り触手を動かす。
「バスから離れた、今のうちに乗り込むぞ」
「ええ、そうしましょう」
触手をすべて後ろに下げると体の色を色だけでなく姿かたちを変えた。
大きな体にまだら模様を浮かべ二対の角によく似たものを作り出しショゴスによく似たものになった。
そして蛸はショゴスの動きもまね広場を触手を使わず体をうねらせ移動し始める。
装甲バスへと向かい蛸とショゴスの動きを見つつリンネを先に行かせてテンマが後を追う。
竜胆隊はショゴスと戦っていてバスへと逃げる二人目掛けて蛸が突っ込んできた。
「あぶねぇ!」
大型の速度は見てから回避できるものではなく、装甲バスのほうへ頭を向けた蛸を見てテンマがとっさに苗木の入ったトランクを押し付けリンネの腕と肩を掴んで力いっぱい突き飛ばす。
背中を押され急な加速で転びそうになりながらも彼女は走り、勢い余って装甲に頭をぶつけたがそのまま車内へと入る。
テンマはバスにはたどり着けず蛸の体当たりをまともに受け吹き飛ばされた。
「グアァァッ!」
吹き飛ばされ地面に落ちた衝撃でトランクは壊れ、中にしまってあった瓶が割れガラス片が散り集めた藤の花が舞う。
地面を派手に転がり倒れるテンマに蛸は立ち上がりエクエリを構える時間も与えず擬態を解いて触手でつかんで彼の体を持ち上げた。
強化繊維のおかげで締め付けられても痛みはないがそれでも弱い部分がある。
瞬間的に力には硬化し受けた衝撃を全体へと流すして散らすが、弱い力や継続力には強化繊維の力を引き出すことができず、服が上下に分かれていることから引っ張られる力に弱い。
「こんなところで死ねるかよ……」
次第に巻き付いた触手が強化繊維を圧迫し血が止められ骨が軋む。
テンマは声を絞り出すと身をよじり手足をばたつかせ抵抗しようとするが、彼を押さえ付ける力が強く微塵も動けない。
竜胆隊は突進してくるショゴスを青白い電流で焼いている最中でテンマを援護する余裕はない。
そこへ装甲バスが突っ込んできた。
接近に気が付きテンマを掴んだまま生体兵器は移動するがバスはその巨体を追ってハンドルを切る。
ぶよぶよした体を撥ねるが大してダメージを受けた様子はなかったが、体当たりに驚いた拍子で触手が緩み逃げ出そうともがくと解放されテンマは衝突の勢いで外れたフロントガラスから装甲バスの車内に入る。
「入り口は後ろよ、窓から入るのは危ないわ」
「助かった」




