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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
2章 迫る怪物と挑み守るもの ‐‐私情の多い戦場‐‐
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再出撃、2

「俺たちも土手を登るぞ」


 トキハルが雨でぬれた草むらに足を突っ込みながら土手を登り、先に上に行ったライカとトガネを追いかける。


「大ワニ倒したから後が楽そうだね」

「でもまだ大きい鰐が3匹いるのでしょう? 先輩気を抜きすぎ」


 蒲公英隊が簡単に大鰐を倒したことが悔しいのか、ライカはいつも以上にムスッとしている。


「マジ怠いですね」


 土手をのぼりながらトヨがそういってクスリと笑う。


「ちょっと、私の真似辞めてくんない!」

「冗談です」


「何がどう冗談なの!」


 更にムスッとさせたライカを見て、トガネと無線の向こうでトウジが軽く笑った。


「笑った方が可愛いよ、ライカちゃん」

「うざい!」


「あんまり大きな声を出すと生体兵器に見つかる」

「先輩のせいでしょ!」


 丘を登ると対岸の土手に朝顔隊の制服が見えた。

 蒼薔薇隊を見て手を振っている。


『やっときたね。おそいから私たちで勝手に始めるところだったよ』

「独断行動はするな」


 軽いノリで話すツバメといつも通りのトキハル。


『へいへい、他の隊と行動するのは難しいなー』

「指示通りに動けば、何の問題もない」


『んじゃ、命令よろしくしますよー。蒼薔薇隊の隊長さん』


 自分の好きなようにできないのが面白くないのか、無線から聞こえるツバメの声は明らかに拗ねている。


「あいつは、今までどうやって戦い残ってきたんだ」


 朝顔隊の扱いづらさに眉間に指を置くトキハル。


「えっと、ほぼ運でしょうかね、バメちゃんはすごい強運の持ち主ですから。すごいんですよバメちゃんは。昔一緒の隊に居た時、バメちゃんが足を滑らして生体兵器の巣に落ちたんです、私たちの援護でバメちゃんが食べられないようにはしたんですけど、落ちた時に片腕負ってらしく無事な腕で自力で這い上がってきたんですから。それに……」

「もういい、そんなに興奮するな」


 人の話になると急に楽しそうの話し出すトヨ。

 普段なら何も言わず聞き流すが今は作戦行動中でトキハルは話すことに夢中な彼女を制止した。


「ああ、ごめんなさい」


 土手下には雨の影響を受け茶色く濁り増水した川に10匹ほど。

 小さな鰐が川の中から頭の上だけを出して蒼薔薇隊と朝顔隊を見ていた。


「子鰐いっぱいいるねぇ。というか水深以外と深いのなここ」


 トガネが増水した川の流れに抵抗している鰐をみて呟いた。


『川に落ちたら助からないな。流れ的にもだけど』


 無線からツバメの声が聞こえる。


「あのくらいなら鱗も密集してるだろうし、財布にして持っててもいいかも」

「あ、あのライカちゃん。これからみんな焼いてしまうのですが……」


 あたましか見えていない生体兵器を見てそんな感想を述べるライカに、トヨが申し訳なさそうに話しかけた。


「気にしないで、マジで欲しいとは思っていないから」


 一呼吸おいてトヨはヘットセットに手を置いて朝顔隊に連絡を取る。


「んじゃ撃ちますよ、準備はよろしいですかアモリさん」

『オッケーです。どう撃ちますか?』


 川の向こうで大型のエクエリを持った子が手を振る。


「私は上流にいる方、アモリさんは下流にいる方を狙ってください。お互いにだんだんと中央に向かって連射します、よろしいですか」

『わっかりましたー。んじゃ、撃ちますよー、5,4,3……』


「えっ、えっ、ちょ!」

『りゃー!』


 イグサにペースを乱されながらトヨはエクエリを緑色の川に向かって撃つ。

 茶色の川が一瞬青白く光ると川の底から泡が上がってきて白い湯気が上がる。


 生体兵器は一匹も川から上がってこず濁った川は反応がわかりずらいがそこへ続けざまにトヨ、イグサ両名は炸裂式雷撃弾を撃ちこんでいく。

 完全に川が白い湯気に包まれると、二人はエクエリを撃つのをやめた。


「残り46%」

『残りエネルギー32%です』


 炸裂式雷撃弾を受け浮いてきた子鰐に朝顔隊、蒼薔薇隊の小型のエクエリの弾が次々と穴をあけていく。

 そして穴の開いた小型の鰐が流れていく茶色い川を見下ろしながらトガネが聞いた。


「一匹も川から上がってこなかったね。俺っちら無駄?」

「私からしたらトガネはいつも邪魔で無駄だけどね」


 それにライカが適当な返しをする。


「二人とも、まだ大鰐が残っている気を抜くのは早いぞ」

「わりぃ」

「すみません、サジョウ隊長」


 トキハルの言葉に緩めかけた気を引き締め直す2人。

 そしてトキハルは大型のエクエリを降ろしたトヨの方に話しかける。


「トヨ、最後に広域燃焼弾であの川を撃っておけ」

「えっと、残りエネルギーが少ないですが、バッテリー取り替えますか」


「今使っているのを使い切れ」

「わかりました。では朝顔隊の皆さんは丘から降りておいてください、たぶん爆発的に高温の蒸気が発生すると思うので」


 大型のエクエリを背負い直すと朝顔隊に通信を繋げる。


『わかった、コリュウ、イグサ。急いでここから離れろー』


 通信を終えるとキャッキャ言いながら朝顔隊は丘の向こうに消えていった。


「トハル達も先に降りていてください」


 4人が丘を下ると、トヨは一気に肺の中の空気を吐いて異臭の混じった空気を吸い直すとエクエリを構える。

 そして引き金を引くと空気を振動させる音と共に巨大な白い柱が川から上がった。

 同時にトヨが後ろに跳び、丘を転がってくる。


 トヨは土手から降りるときに身を軽くするため大型のエクエリを放り投げていて、茶色と白の柱は彼女の後からスキー板のように土手を滑ってきて彼女の横で静止した。


「無事か?」

「あ、あ、はい。全然元気です、すみません」


 土手を滑ってきて仰向けに倒れいつもも通りヘラヘラと笑うトヨをトキハルが起こし立たせる。


「トハル、どうかしました?」


 起こしたときにトヨの顔が少しひきつったように見えたが、なんともなさそうに話すのでトキハルは気のせいだと思い込んだ。


「……いや、なんでもない」

「……そうですか」


 不思議そうな顔を向けるトヨは大型のエクエリを拾い上げる。


「早く、バッテリーを取り換えろ」

「あ、はい! すぐに」


「これでおおよその子鰐は死んだのか?」

「えっと、はい。最後広域燃焼弾を撃つ前に見た状況ですと、子鰐はほとんど茹でられて死んでいたように見えました。生きていたとしても残りエネルギーが少なくても撃ちこんだ追い打ちがありますし、あの場に居たのは全滅かと」


 丘の上に見える白い柱を見上げると、建物の上のトウジがため息をはいた。

 その報告を聞くとトキハルがヘットセットを使う。


「朝顔隊は他の子鰐を探し、見つけ次第倒せ」

『りょうかい』


 その場から移動する蒼薔薇隊の後ろで、もうもうと立ち上がる白い煙の柱はどこまでも高く上がっていっていた。

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