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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
15章 青々として毒々しい呪われた魔境 --命を硝子の中に閉じ込めて--
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波 3

 ショゴスを倒し広間は静まり返る。

 戦闘を終えた竜胆隊が壊れた車両へと近づき歪んだ車内へと入っていく。


「大丈夫なの、あれ爆発とかしない?」

「よくわからないけど生体兵器に体当たりを受けることから、燃料タンクは丈夫に作られているはず。直接火に炙られなければ発火しないって聞いた気がするぜ、整備兵じゃないからほんとかどうか知らないけどよ」


「まぁ、現に爆発してないから大丈夫なんでしょうけど。もうあれは使えないわね」

「荷物が多くて狭い車両がより狭くなるな、戻って装甲車奪うか?」


「そうしましょう。竜胆隊にもそう伝えるわ」

「ついでに燃料を抜けないか? まだ余裕はあるけどいつまでも走れるわけじゃない」


 壊れた車内から荷物を外へと持ち出す竜胆隊を見て、リンネは手にした携帯端末で竜胆隊の隊長オキへと連絡を取る。


『すまないが今の戦闘で車両が大破した、回収してもらえるか』

「ええ、その後、さっきの場所へと戻って追放者たちの装甲車を借りることにするわ。その方がいいでしょ」


『ああ、同じことを思っていた。それまでの間すまないが同乗させてもらうことになる』

「仕方ないわ。窓は片側しかなく椅子の数が足りない、荷物で車内は狭いし移動中ずっと床に座るか立っていてもらうことになるけど」


『構わない』


 荷物をもって装甲バスへとやってきた竜胆隊をみてドアを開けると大型のエクエリ、予備のバッテリーの入った箱、強化外骨格の予備のパーツをもって車両の乗り込んでくる。


『少しの間邪魔をする』

「ええ、狭いので出来るだけおとなしくお願いします」


 竜胆隊全員が乗り込み追放者たちに剥がされたドアから竜胆隊の一人がそこから外を警戒、残りは壁に寄りかかり休憩を取った。

 彼らにはまだ追放者にかけられた生体兵器の血がついている。


「その血、臭いわね」

『ああ、すぐに落とす。外骨格の動きが悪くなるし、生体兵器が寄ってきて仕方がないからな』


「おかげで私は生体兵器に襲われなかった」

『そうかい、ならこのままでいようか?』


「結構よ」


 運転席にいたテンマが助手席に戻ってきたリンネを呼ぶ。


「戻るわ、装甲車のあった場所まで」

「なぁ、ところでよ何か向こうの方ぼんやり光ってないか?」


「どこ?」

「あのでかい蔓の巨木の下あたり」


 テンマの指さす先、蔓に内側から破壊され倒壊した建物の周囲には改造植物が生えていた。

 それは暗がりでぼんやりと薄緑色に発光していて異質な植物でできた樹海の中で幻想的な雰囲気を放っている。


「見つけたわ」

「なんだまた生体兵器か?」


「目的の改造植物よ、準備しなさい。移動は後よ」

「ああ、今度はあれをも回収するのか」


 光る植物を食い入るように凝視しリンネは答えた。


「そうよ、見つけられなかった。まさかここで見つかるとは思っていなかったけど」

「見つかってよかったな」


「ええ、行くわ」


 リンネは竜胆隊のもとに戻ると追放者によって強化外骨格の装甲につけられた生体兵器の血を拭くオキに話しかけた。


「竜胆隊にお願いがある」

『何だ移動はしないのか?』


「少しの間護衛をお願いしたいの。正面に見える改造植物が欲しいのだけど、時間はあるかしら」

『付近に新たな生体兵器の影はない、少しの間なら大丈夫だろう』


「ありがとう」

『あんたは王都の人間だ、こっちは言うことを聞かなきゃならない。後から戻ってほしいと言われないだけましだ』


 装甲バスは研究所へと近づけるだけ近づき停車、バスに乗ったばかりの竜胆隊を下ろしリンネとテンマは手袋をはめトランクと鉈を持ち車両を降りた。


「素早く終わらせようぜ」

「そのつもりよ」


 浅い水辺があった深くはないが枯れ葉や泥で滑りやすく、リンネは苔むした岩に摑まり慎重に水辺を渡る。

 光る植物のもとへと歩いて緑色の光の下までいくと蔦から垂れさがる光る薄紫色の花が見えてくる。


「ほんとに自分で光ってるな、というか混ざってる」

「ええ、藤の改造植物ね、他の改造植物と一体化してる……」


 葡萄型の改造植物の蔓に交じり一本だけ光る改造植物の蔓が混じっていた。

 手袋をはめたリンネが藤の蔓に触れるとその部分がより強く発行する。


「蔓も刺激を受けても発行するのね、面白い」


 足下を見れば深く根を下ろせず小さいままの光る藤の蔦があった。


「きれいだな、これならそのまま鉢植えにでも入れて飾って置けそうだ」

「そうね、見つけられてよかった。すぐにでも回収して戻りましょう」


 それを折らないようにテンマは優しく引っこ抜き土ごと瓶の中に突っ込む。

 二人が改造植物を採取している間竜胆隊は研究所から少し離れた場所で光の届いていない暗がりや、広場の奥の球体植物など生体兵器の現れそうな場所を警戒している。


「ところでこれは何の役に立つんだ? 光っているみたいだがこれも食料として作ったのか? 薬かそれとも毒? 光るし接着剤とか塗料みたいになるのか?」

「いいえ、これはそのまま観賞用の改造植物よ。種には毒があるけどね、でも作られた時に無害化されているかも」


「は?」

「他の改造植物と違って計画方針が違う、食べるのではなく植物を光らせ電気の必要としない街灯を作ろうとしたのよ。これは花の咲く時期を伸ばし光らせるためのものとして作られ、食べるわけではないから繁殖力はいらないとこうして他の改造植物が急成長していく中で細々と成長してきたんでしょう」


 藤の改造植物は鉈で簡単に切り落とせ、小さいこともあり花を二本三本と瓶の中へと入れていく。

 瓶に葉を詰めていき周囲を警戒しながらテンマは、花を手に取りぼんやり見つめているリンネに話しかかる。


「これも生体兵器と同じ作り方なんだろ? 」

「ええ、生き物の改造という点では同じ研究よ。もっともこっちは人を殺すのではなく人を幸せにするはずだった研究だけど」


「殺し戦うための生体兵器なんて作らず、こんな感じのやさしさに利用できればよかったのにな」

「そうね、でも仕方ないんじゃない? 人は自分の利益しか考えない生き物だもの」


「それだと王都の人間は人間らしいってことになるが……ま、いいや。さっさと持ち帰るとしようぜ。生体兵器が寄ってくる前によ」


 そういってトランクに瓶を詰め立ち上がるてっまの目に暗がりの奥で光るものが映った。

 最初は藤の花のように光る植物があるのかと思ってみていたが、その光は意志を持つように動きだんだん大きくなっていく。


「何か居るぞ、早く離れたほうがいい」

「ええ、今行く」


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