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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
15章 青々として毒々しい呪われた魔境 --命を硝子の中に閉じ込めて--
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波 2

「うわぁぁ!」


 突然現れた巨体に驚き慌てて叫び声をあげながらハンドルを切るテンマ。

 ショゴスは避ける装甲バスを回り込むように移動し、躱しきれず衝突し激しい揺れと衝撃が二人を襲い球体植物の側面に当たって停車する。

 ひびの入ったフロントガラスを見てからテンマはリンネのほうを見た。


「無事か?」

「シートベルトが食い込んで体がガクンとなって痛たかったわ」


 ショゴスは装甲バスの側面に体当たりし横転させようと車体を押す。

 しかし生体兵器の攻撃に耐える重装甲な装甲バスは、横からの体当たりで横滑りをし球体植物から離れる。


「向こうは衝撃を柔らかい体が吸収するみたいね、元気に車両を押してくれているわ」

「この車両で体当たりで押しつぶすのは無理なんだな? こっちは強化ガラス割れたってのに」


 アクセルを踏み装甲バスはいまだに動くことを確認すると、球体植物の汁で汚れたガラスをワイパーで拭きテンマはショゴスから離れ戦闘車両を探した。

 竜胆隊の戦闘車両が車体の上に乗った砲台を回すが、砲身が蔦に絡まり車体前部が跳ねる。


「砲が蔦に引っかかって狙えないのね」

「すごい跳ね方したな、あれだけ車体跳ねたのに大砲もげないのか。というか乗ってる竜胆隊は大丈夫なのか?」


「まだ動いているから中身は無事よ、気にしないで進みなさい」

「……なかみって」


 ショゴスに押され球体植物から抜け出した装甲バスは戦闘車両を追う。

 装甲バスが合流すると戦闘車両は砲塔をもとの位置に直して樹海の奥へと向かって走り出す。

 しかし走り出すのは視界の悪い森を進んで瓦礫に乗り上げることを恐れて廃墟の町並みの割れた道路。


「戦わないのか」

「ここで戦えばさっきいたもう一匹のナメクジも追いついてくるわ、いくら精鋭でも大型二匹は辛いんでしょう」


「あのナメクジ、ショゴスって言ったか」

「別に名前なんてどうでもいいでしょ。よそ見や意識を散らすと木にぶつかるわ、運転に集中して頂戴」


「塩かけてどうにかならないのか?」

「じゃあ、あれに合う分の塩でも砂糖でも持ってきなさいよ!」


 逃げる二台の車両を追ってくるショゴス。

 巨体は瓦礫を押し潰し球体植物を削り、蔦や蔓を強引に千切って迫ってくる。


「不整地ってわけでもないのに瓦礫を避けて速度が出ない分距離縮められてないか」

「向こうのほうが地形的に有利よ、気にせず進みなさい」


 車両は逃げた先で改造植物の少ない広い場所に出る。


「外に出たのか!?」

「いいえ……ここは……」


 空間の中央には巨大な幹が見え、その長く太い根が他の改造植物の根下ろす場所を与えていないためこの空間ができていた。

 広い空間に出たが太陽の光は少なく見上げれば蔓の天井。

 太く巨大な蔓に多くの蔦が絡まり葉で覆われ、霊峰樹海の外からでは他と見分けのつかない木漏れ日の中正面に見える建物。


「研究所よ、正しくは研究所だったもの」


 育った蔓はその建物の内側から成長しており建物は歪な形を残して壊れており、窓も入り口も入ることはできない。


「あんたが探していた場所か、でも追われてるからここで止まってる場合じゃないだろ」

「いいえ、開けた空間なら今度は引っかからない」


 戦闘車両が広場の中央で停車し再び砲塔を回すと、追ってきたショゴスを待ちかまえた。

 装甲バスは戦闘車両を通り過ぎたところで停車し戦闘を見守る。


「……あのでかいのどこ行った、すぐ後ろ追ってきていただろ? ……あきらめて帰ったのか?」

「黙ってなさい、生き物の動きは毎回予測が違うのだから」


 巨体は上から落ちてきた。

 地面にひびが入り竜胆隊の乗った戦闘車両は砲塔が押しつぶされ重さで車体が歪み、粉塵と外れた車輪が装甲バスへと転がってくる。

 ショゴスが落ちた衝撃で大型の生体兵器の重量でしなっていた蔓や蔦が大きく揺れ、成っていた赤や緑の実が雨のように落ちてきて地面に当たって潰れた。


「おいおいおいおい!」

「絡まる蔦を伝って来たのね」


 突然の出来事に驚きながらも装甲バスはすぐ近くで拉げる戦闘車両から距離を取る。


「馬鹿お前ダジャレ言ってる場合かよ!」

「馬鹿なじゃないし言ってないわ! そんなつもりなかったわ!」


 戦闘車両から降りてくる竜胆隊は大型のエクエリを構え軋む車両に絡みつくショゴスとすぐに戦闘を始めた。

 エクエリの光の弾はショゴスの体にたやすく穴をあけるが相手は巨体、ちょっとやそっとの攻撃では弱る様子はない。

 触角を縮め体の中に隠しショゴスは攻撃の受ける方向へと突撃を始める。


 目を塞いだ巨体は追ってこない分逃げるのは容易だが、速度は車並みに早く攻撃範囲と威力が大きい。

 竜胆隊が壁に使っていた戦闘車両にぶつかり、車両の破片が散弾のように飛び散り付近の蔦や球体植物に突き刺さって千切れた木の葉が舞う。


 遮蔽物はかえって相手に武器を与え逃げ道をなくすと判断し竜胆隊は戦闘車両の残骸から離れる。


「目が見えない分こっちは安全そうね」

「戦闘任せっきりで申し訳なくなるな。ここにきて戦いっぱなしだろ、ろくな休みもないしだいぶ疲れてるだろうに」


「そう思うならあなたも戦えば?」

「冗談だろ?」


 竜胆隊は弾種を切り替えショゴスの周りで青白い稲妻が走る。

 身をよじる巨体から湯気が立ち上りそれが黒い煙に変わり始めると最後にはその大きな体が破裂した。


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